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嘘じゃない本当の後日談  作者: シヲンヌ
本編
2/22

2

ぶらり散歩part_1です

少年登場。でも前半はまだデュークさんのターン


ガヤガヤと賑わう往来の中を歩いていた。

黒塗りの空を彩る赤や黄色の光は道行く者の顔を照らしている。家路を急ぐ家主。寄り添い歩くカップル。レストランへ吸い込まれていく集団。各々が各々の目的で、自ら歩んで行く。だけどすれ違う者たちの顔は、皆共通してとても活気づいているように見えた。


俺は数歩前の少年に言葉を投げる。

「おい、あまり行きすぎんなよ」

すると少年は足を止め、振り向く。

前にいる8歳ほどの少年は、年不相応な態度でじっと俺を見た。





* * * *





「それで?お前が俺の書斎に来たのはどういう用件だ、デューク?」

俺は腕組みをしてデュークを見た。

あの後、足をどかせどかさないの問答を少しだけやって俺はデュークの頭を戻して拘束を解いた。何故解いたかって?そりゃ飽きたからだけど、それが何か?

バリバリ煽りながらの問答をしたから、デュークの頭が俺の右足の下から元の胴体に戻ったから、といっても俺たち二人は特に何も変わらない。やれやれと言いながら、少しだけ頭を掻いて終わり。俺たちはただふざけ合っているだけだから、なんらおかしなことではないし。


しかし。

天界の同僚曰く、俺たちのじゃれあいは殴り合いの喧嘩に発展してもおかしくないものらしい。

だからとても奇妙に見えるのだという。



所詮は言葉遊び。

まず大前提として、俺たち二人は主にそんな共通認識がある。加えて互いに人を煽るのが好きで、極めつけに思いきり言い合いができる相手も他にいない。

そんなわけで煽り合って頭の体操をすることがあっても喧嘩でいがみ合う、なんて事態がほぼ起こらないのだ。

関係は極めて良好、加えて唯一無二の悪友であり親友同士である。



「あっはっは。何かあったかもしれないが、生憎誰かさんが頭部踏みまくった所為で曖昧だなぁ。詰んでるなお前」

「あっはっは。頭が落ちすぎて記憶力も落ちたってか、確かに詰んでるな。お前が」

まぁ言われた言葉に全くイラッとこないことはないけど。

それもお互いに同じだったりする。




デュークはふっと息を吐いた。

「おい、そろそろ入って来いよ」

突然デュークはそう扉の方に声をかけると手招きをした。だが特に反応はなく、閉ざされた扉は動かない。状況に引きずられて、俺たちも無言になった。デュークをちらりと盗み見ると笑っているような困っているような、何とも言えない顔をしている。


「来ないようだな」

「来ない、な」

一拍おいて返事をしたデュークは、短いため息と共に肩を落とした。

「ここまで連れてくるのもかなり大変だったんだが、まさか最後にこんな難関があったなんて」

「お前がか?嘘だろ?」



嘘じゃないと首を横に振るデュークに俺は目を見張った。

デュークの実家は大家族だ。3男4女の次男坊で上から3番目に位置するデュークは上と下に挟まれて育ってきた所為か、面倒見スキルや世渡りスキルが高い。しかも従兄弟・再従姉妹(はとこ)が自分の兄弟姉妹の倍の数もいたという、種族きっての大所帯に幼い頃から揉まれていたというので尚更だ。この天性の兄貴分は行く先々で信者を増やすから、一つ苦言を漏らしただけで周囲が動くのはよくあること。デュークが徒党を組んでデモを起こした日には、一番厄介なことこの上ないだろう。

そんなデュークが手こずる相手がいた。言うまでもなく、この事実だけでも非常に震撼しそうな出来事だ。どんな奴だ。

単純且つ真っ当に、俺は相手へ興味が沸いた。




「お前が監督して手こずらせるなんて相当だよな。んー、めっちゃくちゃ素行不良だったのか?それとも脳内常春ちゃんか?」

「なんでそんなに嬉しそうなのお前」

「物珍しいだけだっての。で、どんな奴だ?」

気になる気になると催促すると、デュークは少しだけ眉を寄せて途切れ途切れに語り始めた。


「素行不良や電波、ってわけじゃなくてな。警戒心が強い、と言えばいいのか、内気、と言えばいいのか。兎に角打ち解けてくれなくて」

「それもやっぱ珍しい!」

話に食い込みそうになりながらも、ガッツポーズをするとデュークはげんなりとした顔をした。

「そんなキラキラした顔で言うなよ。余計疲れてきた」

「珍しいものは珍しい。これは一種の真理だな」

「そういうところもやっぱり【嬢】に、っていやなんでもないです」

あいつの存在が出た瞬間、間髪入れずに俺の目が鋭くなったのを見てデュークは会話を途中で強引に切った。だけど大体中身は察したから、もう遅い。俺はデュークへの今後の対応を脳内会議の議題へあげることにした。かといって。




俺は引きつった顔のデュークから扉の方へ視線を移した。

「用件があるにしてもこのままじゃ駄目だろ。俺そこまで暇ないから、今来るなら来てもらわないと非常に困る」

「ホントそれなんだよな、さっきから匙投げるくらいには」

「だったらやることは一つさ」



顔の前で人指し指を立て、そのままある方向へと指した。

そのある方向とは大理石広がる空間で唯一材質が異なり、どこか温かみを感じられる場所。そこへ寄りかかるとほのかに材質固有の匂いがし、目をつぶると今でも材質の一部であっただろう緑が浮かぶ。そう。

「来ないならこっちから近づくまでだ」


この書斎のドアである。

すぐに俺は立ち上がり、軽快に歩き始めた。



「っておい待て。もっと他に何かあるだろ方法!」

「バーカ。こういうのは正攻法って大昔から決まってんだ」

「う、でもせめて行くなら俺が」

「お前ダメだったんだろ?だったら行ってもあまり効果がないだろ多分」


歩き始めた俺へ慌ててデュークが静止の声をかける。

だけど俺は止まらない。俺としてはデュークの悩みの種に興味があるから、さっさと見たいし知りたいのだ。しかも止まったところで俺に旨味はない。

ということで遠慮なく振りきり、ついにドアノブへ手をかけた。

「さぁさぁ、あのデュークさんに一向になつかない奇特な奴は」

だーれだと後に続くはずだった言葉は出ない。

俺は扉の前にいた存在に目を奪われていた。




それは俺の腰程の高さだった。

柔らかそうなイエローブラウンの髮の下で同じ色をした双眼が、少し怯えたように俺を見ていた。色白でやせ型の体も小刻みに震えている。そんな目の前の存在、デュークが手こずった奴を俺は見たことがあった。確か奴を最後に見たのは“アレ”の錬成のときだっただろうか。正確に言うなら奴そのものではなく、体のみの話だが。

デュークが手こずった相手は、“アレ”の肩の上に融合させた少年を模した姿をしていた。



いや、まさにその少年そのものだった。




* * * *




俺は少年、ケビンと一緒に領内の街へ降りた。

面会してすぐは本当に何も動かず喋らずのケビンだったが、強引に頭を撫でくり回すなどとスキンシップとったり話しかけたりしたらなんとか一緒に外出できるくらいには心を開いてくれた、と思う。

そしてその最中、デュークはずっと何とも言えない顔をしていた。

察するに自分より上手くいっているのが少し悔しかったのだろうが、それ以上にまたあいつと勝手に同一視されていたことが伝わってきた。だからとりあえず今夜のデュークの晩飯は一品減らすことにした。

本人には申告済みだ。


ちなみに今ここには俺とケビンしかいない。デュークは結局最後までなつかれることはなかったからだ。それに、あいつもあいつであまり暇ではない。仕事は毎日山のように入ってくる。中々の暗黒事情が積みに積み重なっているのだ。

そんな親友サマには、お前が無防備だと危ないからせめて自分もついて行った方がいいと何度も言われた。最終的に向こうが折れて今に至るのだが、どうしてあそこまで心配されたんだ俺は。これでも泥仕事の前線メンバーには毎回派遣されるから、俺相当強いはずなんだけど。



一瞬思い出したくない顔が脳内に浮上した。とても笑顔だった。なんか高笑いが聞こえてくる気がする。記憶の中のそいつは非常に嬉しそうだが、俺は非常に嬉しくない。

何か言いたげだったので、適当に帝王学教本を投げつけておいたら消えた。帝王学は最強である。





「あの」

ためらいがちにかけられた弱々しい声で、俺の意識は目の前の雑踏に戻る。数歩離れた先にケビンは動かずに立っていた。左腕を抱き、口を真一文字にして俺を不安げに見つめていた。正気に戻った俺と目が合うとただでさえ下がっていたケビンの眉尻は更に落ち、瞳はぐらぐらと揺らぎ始める。


そんなケビンを見て無意識のうちに近づいていた。

早足で距離を詰める俺に、ケビンはびくりと肩を震わせて身を縮こませる。大股一歩分くらいの距離まで近づくと、俺はしゃがんで怯える少年と目線を合わせた。

「ごめんな?ちょっと考え事してただけだ」

心が和らげられるようにと、俺は微笑む。



少年は喋らない。

でも俺を食い入るように見つめている。夜店の光に照らされた少年の瞳は怯えと少しの困惑が含まれていた。だが間違いなく俺を見てくれている。つまりケビンは話を聞く意思はある。

デュークの話の内容やら初対面の時の反応やらを考えると、かなりの進歩だ。


現状をゆっくり脳内で紐解いてから、俺は慎重に言葉を紡ぐ。

「お前はこの場所のことをよく知らないだろ?この場所は確かに治安が良い、まぁかなり安全なところだ。でも完全って程じゃねぇし、時間帯を考えると羽目を外したガキ共がうろつき始める頃だし」

一端言葉を切って名前を優しく呼ぶ。ケビンはまた肩を震わせたけど、呼吸がすぐ安定した。

一度目に呼びかけたときより、落ち着いているかに見えた。


「もし、あのまま俺と離れて迷子になって、そんな奴らに目をつけられたらどんなことされるか。イヤな目には遇いたくないだろう?だからあんまり離れんなよ」

心配するから。

そう呟いてからケビンの頭の上にゆっくりと手を置いて撫でようとした。


するとケビンは血相を変えて瞬時に両手を使い、頭を覆う。その隠そうとした部分に俺は動かしていた手を止める。つい顔をしかめそうになってしまった。自分が嫌になる。

だけど、今は嫌悪している場合ではない。

すぐさま暗くなる思考を一掃させて、もう一度、今度は頭を覆おうケビンの手に優しく触れた。

「怖がらせてごめんな、でも怒ってるわけじゃないんだ。わかって、くれないか?」

そのまま軽く2度触ってから、俺は震える少年の目を見て微笑んだ。



ケビンは瞬きをすると、少し経ってからコクリと頷いて頭から手を離した。数少ない通常時と同じくらいには目の焦点が合っている。落ち着くことができたらしい。

「よし、じゃあ改めてブラブラすっか!」

俺はケビンを驚かせないようにゆっくり立ち上がると、少年は応じるように前を向いた。





「おお、リューじゃねぇか!こっち寄ってけよ、お前さんの好物のフライが揚げたてだぜー!」

「よぉ、4日ぶりだなガルファ!すっげぇ美味しそうだが断る、まだ今度なー!」

「あらリュー!今新しく串焼いてるんだけどさ、あんたどうー?」

「よっ、ダーナ!んーちょっと今はナシ、もうちょっと考えるわー!」

「あっらぁリューちゃんじゃなぁい!今日はアタシのお店に来てくれないかしら、サービスするわよぉー?」

「ギミーシェママには悪いが今日は無理だわ!今度みんなで来るからそん時によろしくなー!」




先程の往来から少し曲がると小さい路地がある。それを抜けると、すぐに【夜市】が開けてきた。

週3で開かれるこの【夜市】はこの領内の名物で、名所の一つ。

骨付き肉のこんがりと焼ける匂いや野郎共の野太い声、軽やかな靴音たちと共に舞うカンテラの(あかり)が夜の市場へ色を落としていた。



市、といってもここの場合は、全部が全部屋台とかではなくて普通に建てられたお店も含まれる。その場合は昼間はカフェで夜は酒場といった二毛作に近い体制を取っていることが多い。先程のギミーシェの店がまさにその例である。

本通りの洗練されたムードと対称的な場所だけど、下町感溢れる情景こそがこの【夜市】なのだ。




そんな【夜市】の雰囲気に浸っていたら、くいくい、と何かに俺の服の裾が引っ張られる。おもむろにその方向を見ると、ケビンが俺を見上げていた。

そうだった。

今俺子連れだった。

「あ、あぁまた俺、お前のこと忘れててつい。その、悪かったよ」


俺の言葉にケビンはふるふると首を横に降り、じっと俺を見つめた。

つられて俺も黙ってケビンを見つめた。

「・・・」

「・・・」

【夜市】で踊る(あかり)が増減を繰り返す。そんな中でも、俺たち二人だけは静かだった。街中で一つ、ぽつり佇む道標のように大人と少年が見つめ合う。

ん?この状況は。

「事案?事案、・・・ハッ!?」



パッと脳内に思い浮かんだ言葉をそのまま口に出した途端、どっと背中に汗が流れた。ケビンは変わらずに俺を見ている。本当に寸分の狂いもないからこの子すごい。って違うそうじゃない。

事案。

懐かしい言葉だけど、思い出に浸っている場合ではない。さっきからずっと色んな視線を受けていた自覚はあったけど、そういうことかよ!違う、俺は無実です!

と、とにかく、な、なな何とかしないと。

「そ、そうだ!お前なんか行きたいとことかあるか?この通りで」

「え」




少なくとも言った言葉が模範解答ではないことはなんとなくわかった。






そして数分後。

屋台のカウンターでケビンと俺は串にかぶりついていた。

「どうだ?美味いか?」

「ん」

「おー、そうかそうか。なら良かった」

わしゃわしゃと頭を撫でるとケビンは、初めて、少し嫌そうな顔をした。











次回「突撃!隣の屋台ご飯」

“俺”「デューク(の晩ご飯)の明日はどっちだ!」

デューク「好物並ぶ日に減品とかあんまりだろッ・・・!」


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