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第二話 奇襲

 「なんですか? 入学して最初のホームルームで寝てたことなら申し訳ないと思ってます。ごめんなさい」

 「そんなことはどうだっていい。それより、どうだ? まだ初日だが、どんな学校かは大体理解しただろう?」

 「ええ、まぁ一応それなりには」

 「そうか、なら安心だ。私の仕事が減った」


 え、なにこの人そこまで俺の面倒見てくれようとしてたの? いい人だなー。


 まあ事実、学校の構造は理解した。校舎は北館と南館の二つに分かれている。南館は主に一、二年生の教室や化学実験室、生物実験室などの特別教室があり、南館には三年生の教室や職員室、校長室、会議室などがある。ちなみに保健室は南館の一階にある。もちろん真っ先に確認した。俺の教室は北館の四階だから、一番遠い。何故だ! 何故なんだ! 授業料はかからないんだから、いくらサボっても大した影響はないだろう。俺は求められているものが違うんだし。保健室カムヒア! 

 そして、二つの校舎を繋ぐ渡り廊下が一階、二階、三階にある。上空から見ると、アルファベットのHのような形になっている。

 体育館は南館のさらに南側にあり、校舎の西側にはかなり大きなグラウンドがある。


 そして……


 「それにしてもあのドーム凄い大きさですね。外から見ただけですけど、あれ何万人入るんですか?」

 「ざっと五万人は入るさ。私も聞いた話だがな。無論、私も実際に数えたわけではないから厳密な数は知らんよ」

 「五万人……。何子園球場だよ……」

 「当然だろう。鳳龍杯は開催されて間もないが、高校野球や高校サッカーをも凌ぐ人気ぶりなんだからな。当然だろう」


 当然だろうって二回言った。ていうかどうしてこの人こんなに誇らしげなの?

 ちなみに俺も高校野球は割と好きだ。小さいころに、160キロを高校生で計測した長身投手を父親に動画サイトで見せてもらった。プロの投手でさえ160キロなんて滅多に出ないのに、本当にすごいと思ったことを今でも覚えている。

 どうでもいいけど、俺はバレーボールも結構好きかな。うん、本当にどうでもいい。

 

 とはいえ、鳳龍杯が日本人を夢中にさせるビッグイベントであることに変わりはない。魔法とか普通に出るし。架空のものであった異能力が現実になったということから人々は目が離せないのだ。


 「ちなみに、あのドームの名前は、蜃龍ドームだ。どうだ、かっこいいだろ! 当然だ!」


 だからどうしてあんたが誇らしげなの? そういうの好きなのかな。神話チックなやつ。

 趣味は戦艦のプラモデルを組み立てることです! とか合コンで言っちゃってるのかな。そりゃ男が寄ってこないわけだ。納得納得。


 「お前もいずれはあそこで戦うことになるんだ。しっかりと特訓に励むんだぞ」

 「はい、わかってますよ」

 「お前は他の生徒と求められていることが違うんだからな。忘れるなよ」

 「はいはい、わかってますって」

 自分で言うのはいいが、他人にそう言われると、若干腹が立つ。月に代わってお仕置きしてやろうか。

 しかし、そろそろ本格的な実践復帰に向けて動き出さなければならないのは事実だ。けど、人に言われてやるのは嫌だな。お母さんに勉強しろって言われるとやる気がなくなるのと同じだ。それにしてもどうしてお母さんって、まだ出来てないのに、ご飯出来たよ! って言うんだろう。机の上、箸しか置いてないよ?


 「それと、お前の後ろの席の女子のことだが……」


 先生がそう言いかけたところで、教室のドアが開いた。


 「中野先生、そろそろ会議始まりますよ」

 「あ、はい。今行きます」


 え、待って。今、俺の後ろの席の女子って言ったよね? ちゃんと内容話してから会議行ってね? 俺の状況分かってる? 


 「と、いうわけだ溝呂木。私は職員室に戻る。明日からもサボらずにちゃんと来るんだぞ」

 「え、先生。待ってくださいよ。俺の後ろの席の女……」

 子がなんですか? と続くはずの俺の声は聞かずに行ってしまった。



 余計に怖くなった。ジャンプじゃなくて広辞苑入れといた方がいいかな……

 遅くなりすぎると怒りそうだから、早く向かうことにしよう。

 

 俺は荷物をまとめて、屋上へと続く階段を駆け上がった。



 * * * * * * * * * * * * * * *



 女子から屋上に呼び出される。普通ならばこれほどテンションの上がる高校でのイベントはないだろう。普通ならば。大事なことだから二回言いました。テストに出るよ。

 しかし、今回は話が違う。あんなに厳つい声で言われて、テンションなんて上がるわけがない。これで果たし状なんて渡されてたら、まさに学園ヤンキー喧嘩映画の一場面だ。


 「怖いなー。怖いなー」

  

 何度この文言を唱えただろうか。そのうち怪談のスペシャリストになってしまうんじゃないだろうか。

  

 ――着いてしまった。


 ドアノブに手を置く。手に力を込める。怖いなー。あ、広辞苑忘れた。


 「……よし」


 覚悟を決めて、ドアノブを捻り、ドアを開ける。


 

 その瞬間、


 「――!?」


 間一髪で向かってきた物体を躱す。壁に大きな穴が空いている。


 「ま、魔法!? 薬は学校から渡される分しか所持できないんじゃないのか!?」


 「躱したのね。さすがだわ」


 魔法の飛来してきた方向には、一人の少女が立っていた。

 その少女は、まさしく俺の後ろの席の女子だった。


  

 「――次は外さないわ。覚悟しなさい、溝呂木星哉!」



 そう言って、まだ名前も知らないそいつは、鬼の形相で俺を睨み付けていた。

 


 


 

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