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他力本願勇者道  作者: 二兎
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召喚魔法

 門から少し離れた所でセーラさんと会話をする。町に入るのに身分証が必要とは思わなかった。


「身分証なくしたの?……一応冒険者登録すれば身分証は貰えるけど」

「まず町に入れなきゃ登録もできないんじゃ?」

「……うん」


 手詰まりだ。町には入れない。野宿かぁ、やだなぁ、こわいなぁ。遠くでは門番さんが訝しげにこちらを見て……なんか近づいてきた。甲冑を身に着け槍を握る少年は俺を一睨みしセーラさんに話しかける。


「セーラさん、なんですかこいつは?変な格好してますし、なんでセーラさんがこんな奴と……」


 こんな奴とは心外な。こちとら他力本願をモットーにお気楽ニート生活を極めし男だぞ。ちなみに今の服装は黒いジャージ。なんとなく西洋風のこちらでは異質な格好だろう。そんな怪しい者を拾ってくれたセーラさんは慈悲深い。


「あ、ルドくん。森で迷子になってたから案内してきたんだけど、身分証失くしちゃってるみたいで。冒険者登録させたいから少しだけ町に入れさせてあげられない?」 


 そもそも俺は冒険者なんぞになりたくはないのだが、身分証がなければ町に入れない。魔王なんて放置して俺は安全に暮らしたいのだ。この町でセーラさんと静かに暮らすのも悪くない。俺はヒモな。


「いくらセーラさんの頼みでも、怪しい奴を町に入れるのは……。それにこんな弱そうな奴に冒険者なんて無理ですよ」


 俺もそう思う。ムカつくことを目の前で言われているが全て正論。言い返せない。


「そこをなんとか……ね?」


 手を合わせ懇願するセーラさん。ルドと呼ばれた門番は顔を赤らめ視線を逸らす。惚れてんのか、気持ちはわかるぞ。セーラさん可愛いもんな。


「し、しかし規則は規則で……」


 真っ赤な顔であたふたと手を振り回す。……なんとかなりそうじゃね?ルド君の耳に口を寄せセーラさんに聞こえないよう耳打ちする。


(彼女、さっき「自分の我儘を聞いてくれる優しい男性」が好みって言ってましたよ)

(そ、それは本当か!?い、いやしかし。門番を任される身として……)

(セーラさんの連れてきた人を追い返す仕事ですか。恨まれますね嫌われますね)

「そ、そんなはずっ!え、えっと、ない、よな?あるぇ?」


 え、この程度で本当に揺らぐとは思わなかった。少しずつ仲良くなってそのうち融通聞いてくれないかなー、くらいのつもりだったのに。もうひと押しだな、と適切な言葉を選んでいるとルド君が突然敬礼し大声を上げた。


「よ、ようこそガルデンゴルグへ!!」


 セーラさんをちらちら見ながら叫ぶ。セーラさんは事態を把握できず首を傾げる。気が変わる前にと急いで門から町に入った。門番がちょろいとかこの町やばくね?



「さっき、ルド君に何を言ってたの?」


 ギルドへの道すがらセーラさんに尋ねられる。セーラさんは屈強な男たちにちょくちょく挨拶されている、どこの世界でも美人で優しい人がモテるのは変わらないみたいだ。


「ただの挨拶ですよ。意気投合して融通効かせてもらいました」


 嘘をつくとき敬語になってしまう癖はなかなか治らない。本当のことを言うわけにも行かないしな。

命の恩人のことを良いように使ってしまったわけだし。


「ふーん、ならいいけど」


 嘘だと気づきながらも無理に詮索してこない。冒険者としてのモラルなのか、この世界のマナーなのか。

 ほどなくしてギルドに到着。大きな建物だ。中には酒場もあり冒険者たちの交流所となっているらしい。木製の戸を開き中に入る。テーブル席では屈強な男共が昼間から酒をがばがば飲み、武勇伝を聞かせたり腕相撲をしたりと大はしゃぎだ。

 セーラさんはそれと逆方向、右方の受付らしきところに行ったのでついていく。


「この子の冒険者登録をお願いしたいの」

「かしこまりました。それではこちらの書類に記入を」


 長い金髪をサイドテールでまとめる美女。大人びた雰囲気とセーラさんにはない豊満な胸につい見とれてしまう。


「へー、そういうのが好きなんだ?」


 胸を凝視しているとセーラさんがジト目でこちらを見る。


「い、いえっ。俺はセーラさんみたいに慎ましいのも好きです!」


 慌てて弁解をするもセーラさんは不機嫌そうに顔をぷいっと逸らす。乙女心は難しい。これ以上機嫌を損ねれば俺は1人ぼっちで異世界を生きることになる。もう余計なことを言うまいと黙って渡された書類に目を通す。

 何故だか文字は読めるし書けるようだ。これも神様の加護かな。書類には名前、年齢の欄しかない。やけに少ないな。住所欄がなくて助かったけど。


「そういえば君の名前なんて言うの?」


 まだ若干不機嫌のセーラさんが書類をのぞき込んでくる。名前聞いただけで名乗ってなかったな。


 名前か……。新しい人生がここから始まるのだ。前の世界の名前を引きずるのも抵抗がある。向こうに帰れる保証はないし帰る理由もない。新しい名前を考え、記入する。


「サトウ・タロー?珍しい名前ね」


 いい名前が思いつかなかった。タナカタロウだと安直すぎると少し捻ってみたのだが……。今日から俺はサトウ・タローだ!

 その後20歳と書いて提出。セーラさんは年齢を見て驚いていた。


「てっきり年下だと思ってた……」


 日本人は他国だと幼く見られるとは言うしな。


「では冒険者プレートを作成しますので、お手を」

「あ、はい」


 言われるがまま手を差し出す。プレートに触れると何か文字が浮かび上がった。


「完了しました。それではこれをどうぞ」


 そのプレートを渡される。手のひらサイズの四角いカードのようなものだ。これで身分証として扱えるらしいが名前と年齢しか記入してないはずだ。とりあえずプレートに書いてある文字を読んでみた。



 サトウ・タロー 20歳 ランクE 人間

 無属性《召喚魔法》Le:1


 ふむ、ランクは最低のEから始まりクエスト達成で昇格と言っていたな。ニート生活が送れないようなら渋々クエストを熟す必要はある。

 人間とあるが、これは人間以外も存在し冒険者になれるということだろう。後でエルフとか探そう。エルフとか。


「ところでこの《召喚魔法》って?」


 魔法があるとは聞いていたが詳しくは知らない。名前からしてなんかしら召喚するんだろう。自分では極力働きたくない俺としては動物を使役する系はありがたい。


「え?無属性!?凄いじゃないタロー君!」


 プレートをセーラさんに見せると目を見開き驚いていた。


「凄いの?」

「そりゃ凄いわよ!十万人に一人の確率よ!」


 この世界の人口10億としても1000人か。お、なんか凄そう。


「それで、無属性とは?あと召喚魔法についても」

「え、なんで本人が知らないのよ……」

「あ、っと。はは、忘れちゃって?」


 訝しげな顔をしながらもセーラさんは説明をしてくれた。やはり面倒見がいい。

 魔法とは火・水・土・風の4属性からなり生まれ持った才能によりどの属性を扱えるか決まるらしい。魔法を扱える才能を持った者は30人に1人程度。セーラさんもその30人中の1人で水魔法を扱える。

 ただ無属性は特殊で、扱える者は10万人に1人。しかも皆扱う魔法が違うという。


「……つまり?」

「無属性は珍しく、自分だけの魔法を使えるってことよ。ほんとに何で知らないのよ」


 プレート作成の際にそこまでわかるのか。おそらくこの魔法も神の言っていた「加護」だろう。

 俺だけの《召喚魔法》。心躍るね!


「ちょっと見せてよ、召喚魔法」

「私も拝見したいです」


 受付嬢の巨乳さんも座りながら会話に混じってきた。さっきまで興味深そうに俺らを見てたしな、無属性が気になるのだろう。美人さん2人に頼まれちゃあ仕方ない。ここはいっちょ派手に行くか!

 異世界語を読んだ時のような不思議な感覚で魔法の発動方法はわかった。召喚、と唱えるだけでいいみたいだ。わくわくする2人、ドラゴンとか呼べるかなー呼びたいなー。


「召喚!」


 意を決して叫ぶ。目の前に現れたのはドラゴン……ではなく。


「ちゅう?」


 全長5㎝程度の(ねずみ)だ。ちっせぇ。これ魔王討伐のための魔法じゃなかったのかよ。魔王に耳を鼠に食べられたトラウマでもあればいけるか?


「まあ、こんなものよね」

「Le1ですしね」


 なんとなく残念そうな2人。鼠かわいーっ、とか盛り上がってくれてもいいじゃんよ。


「そのLeってのはなんなんです?」

「魔法のレベルです。条件を満たすと数値が上がります。通常属性はLe5が上限ですが無属性魔法は上限がありません」


 無限の可能性ってことか。流石無属性、選ばれし力。


「それでレベルを上げるにはそうすれば?」

「通常属性ですと鍛錬で上昇しますが、無属性ですと、たしか個別に上昇条件が定められているのでわかりかねます」


 成長の仕方がわからないとか。受付嬢のおねえさんがわからなくてもセーラさんならもしくは。


「私も知らないわ。無属性自体見るの初めてだし」


 申し訳なさそうに言うセーラさん。ちゅうちゅう五月蠅い鼠を蹴飛ばす。何ができるんだこいつ。ふと目を瞑ってみると視界が変化した。見上げる感じ……鼠の視界だ。呼び出した動物と視覚共有できるようだ。念じてみると鼠は思うままに動いた。ちょっと便利かもしれない。


 前に立つセーラさんの脚の間に鼠を操作、上を見上げさせる。そこには純白の神秘が……っ!


「ぶはっ!」

「ちょっ、タロー君!?」


 突然鼻血を吹き出す俺を見て慌てるセーラさん。罪悪感を感じつつも心の中で感謝の言葉を紡ぎながら血を流し続けた。


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