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チョンミンとの戦い







ヒサシは真々川総合病院の前まできた。


なぜか正面ゲートの前に妙なステップで踊る牛がいたがそれに見とれてる場合ではなかった。


中へ入ると二人の男が薬局の前で薬剤師や医師、看護師と揉めている。


その中には山内もいた。


「どうしたんだ山内?なにかあったのか?」


山内はヒサシに気付くとすべてを説明する。


「この二人が副作用の強い薬をくれと言ってるんだ。」


その二人の姿をみた。


一人はわからないが、一人はジンだ。


「水雷神さん!何をしてるんですか!?」


「……常盤先生。なぜここに?」


常盤はとても言い辛かった。


だが言わなければ…… 


「オトに会いに来たんだんだ。話さなきゃいけないことがある」


ジンはなぜヒサシがオトを知っている上に呼び捨てなのかわからなかった。


どういう関係なのか……


「水雷神さん……僕はオトと付き合っていたんだ。だが僕の一方的な理由で別れてしまった。それを謝りに来た」


ジンはその言葉になにも返さなかった。


それよりも……今はやらなければならないことがある。


「オトが大切なら協力してくれ。副作用の強い薬がなければオトは死んでしまうんだ!!」


ヒサシにはジンの言い分が全く理解できない。


そんなことしたらそれこそ、死んでしまう。


その時溝谷が一瞬のスキをつき、薬局から薬箱を奪った。


「ジンさん!走るんだ!」


ジンと溝谷は医師たちを薙ぎ払いオトの元へ向かった。







……あれ……ここはどこだろう……



オトは真っ白な世界に自分がいることに気付く。


動こうとしたが見えない壁のようなものに塞がれた。


「なぜ出れないの!ここはどこ?」


オトが目をつぶると、そこになにかが見える。


自分がベッドで点滴をされ眠っている……


さらに目をつぶると、ベットから起き上がりエタナレノートを書き出す自分がいる。


「ここは……私の心の中なんだ……」


これ以上、ジンをエタナレノートの被害にあわせたくない。


オトは強く願った。


「お願い……私は信頼できない語り手なの……ジンはカナノさんを見ている……もう偽りの告白やキスなんかできない……」


……少しずつ見えない壁はが消えていく……


「お願い……これ以上ジンに迷惑をかけないで……」










オトの病室。


無意識のオトはノートを取り出し書き始める。


腕が急激に動かなくなる。


それを無理矢理にでも解き放とうとするがその力は強い。


お願い……これ以上……ジンに迷惑を……かけてはダメ……


強い力に反発されながらも書き終える。


(私に会いに来る)







オトの病室まで後、数メートルのとき。


ふいにジンは体が熱くなる。


あの感覚がやってきた。


溝谷もそれに気づき、ジンを呼ぶがジンには聞こえない。


(稼働)


オトに会いたい……会いたい……会いたくてたまらない……











ジンはまた鋼鉄の檻の中にいた……


また心の中へ閉じ込められた……


今度は……(オトに会いたい)………それだけか……?


「オトも……自分の心の中で戦ってる……信頼できない語り手だから……」


もういいのに……体が壊れてしまう……


……俺はお前に本当の気持ちを伝えたい……


もう操られてたまるか……俺は……


「信頼できない読み手になってやる」








オトの病室。ジンはオトの前へたった。


オトの体は起きていたが、溝谷にはそこにいるオトが本物ではないことはすぐにわかった。


あきらかに目がおかしい。まるで死体のような。


「オト……お前に会いに来た……オトのことが好きだ。俺はお前を守る。生きてまた会おう。」


溝谷と二人の後をおってきたヒサシはジンの告白を聞いていた。


だがヒサシは黙っていなかった。


「……オト……俺が悪かった……お前に言いたかった……俺はやり直したいんだ」


溝谷はオトへと近付くヒサシを止めた。


「今のオトさんは操られてるんだ……本物じゃないんだ。」







オトの心の中。


目をつぶると自分に愛を伝えるジンがいる。


「なんで?会いに来るとしか書いてないのに……」


どうなっているのかオトにはわからないが、嘘でもその台詞は嬉しかった。


本物のジンにいわれたかった。


その時、別の誰かがいるのがわかる。


その顔は知らない顔だった。


だがもうひとつの顔には見覚えがあった。


「ヒサシ……なんで……」










オトはふいに目をつぶり横たわった。


同じくしてジンも意識を取り戻す。


「くそ!後一回しかチャンスがないのか……」


ジンと溝谷は薬箱をあけるが、すべて注射器に入った薬だった。


「モルヒネと書いてある……たしか強力な痛み止めだ。」


もちろん、ジンも溝谷も注射器を使ったことはない。


オトの腕に針を近付けるも手が震えてしまう。


「……くそ、うまくできない!」


その声を遮るように、大きな影が近付いてきた。


「常盤先生……」


ヒサシは注射器を奪い取り、オトの姿を眺めた。


「常盤先生!それを打たなければオトは死ぬんだ!お願いだから殺さないでやってくれ!」


ジンは泣きながらヒサシへすがった。


なぜモルヒネを……そんなことを聞いている暇はないんだろう……ジンの様子を見てヒサシは考えた。


負けたよ……


「……モルヒネをオトに注射すればオトは助かるんですね……」








オトが倒れたことを知ったナカハルは真々川総合病院へきた。


なぜか踊る牛が入り口にいるうえ、薬局前が騒然としている。


その話を聞くと一人の医師らしき人が電話を掛けようとする別の医師を止めていた。


「山内先生!警察に電話させるんだ!患者にモルヒネ投与で死んでしまったらこの病院が無くなってしまうかもしれないんだぞ!!」


「わかってます!ですがしばらく待って下さい!!責任は僕がとりますから!」


一体何が起きているのか。









モンさんは牛舎村から消えたジンから連絡を受ける。


タンタンが病院の前にいると聞き迎えにきたのだ。


オトが倒れたと聞いたが大丈夫なのか。


病院につくと、タンタンが踊っていた。


「タンタンなにやってんだ。帰ろう」


タンタンは首を大きく振った。


モンさんは長年の経験でウシ語を聞き取れるようになった。


「……なにっ!?オトさんが死にかけてるって!」


モンさんは驚きはて、タンタンを連れたまま病院へ入っていった。


「ちょっと!ここは病院ですよ!」


うるせーと一喝しオトの元へ向かう。


そんなときでもタンタンはステップを踏んでいた。








「20本……すべてうち終わりました……」


ヒサシはジンと溝谷へ告げた。


後はもう……オトの気力次第だ。


「水雷神さん、あなたはオトが好きですか?」


ヒサシはふいにジンに聞いてくる。


「はい。僕の一番大切な人です。」


言葉に濁りはない。真っ直ぐな目。


ヒサシはジンに伝えた。


「僕は、怖い父親に傷つけられたくなくて彼女と別れたんです。彼女を愛してたにも関わらず。」


そうですかとジンは頷いた。


「……病院であなたにもいいました。何があっても笑い、人に感謝しろと……」


なのに……


「僕は……尽くしてくれた彼女に感謝もせず傷付けた。その場所に笑いなんかなかった……」


だから……


「僕の言葉なんかなんの意味もなかったんだ。僕は彼女に合わせる顔がありません。オトのことを頼みます。」


ヒサシは病室を出ようとした。


ヒサシは去り際を理解した。


オトもここまで尽くしてくれるジンに惹かれているはずだと。


「常盤先生……ここにいてください。」


ジンのその声はヒサシの予想にしなかった言葉。


「常盤先生……良い言葉ですね。笑いと感謝は大事です。」


僕は……


「オトや周りの人たちに感謝してます。大切な人には笑っててもらいたい。オトが先生を選ぶならそれでいい。オトが幸せだったら……」










部屋を聞き忘れたナカハルは病室を探していた。


その時、後ろの方から何かの鳴き声が聞こえる。


「わ!また牛!?」


牛の主は「ごめんね姉ちゃん」と一礼した。


その人も誰かに用があるようだった。


ナカハルはその牛に頭の中でひっかかることがある。


どこかで見たことがある……


もしかして……


「この牛って……あの動画の牛ですか?」


一番始めのホワイトビルの動画だ。


オトとジンと牛が映っていた。


「そうだよ!タンタンっていうんだ。オトさんの親友なんだ!」








……オトはまだ白い世界をさ迷っていた。


目をつむると病室の自分の周りに多くの人がいた。


新たに、ナカハルやモンさんもいる。


「やだ!タンタンまでいるじゃないの!」


すごく嬉しかった。喜んでいたときだった……




……あれがくる……また体を乗っ取られてしまう……









ジンはふいに起き上がったオトを見る。


ダメだったのか!?


溝谷とヒサシは協力してエタナレノートを持ち逃げた。


「このノートを絶対にオトさんに渡してはいけないんだ!みなさん協力して下さい!」


状況を理解しているモンさんは「まかせとけ」とタンタンとともに走り出した。


ナカハルはよくわからないがとりあえず走る。



起き上がったオトを力ずくでジンは止めるがその力は異常なほどだった。











オトは目をつむり叫んだ。


「やめて!!ジンを傷つけないで!」


オトは動きを止めるよう願った。


強く強く願う……










ふいに立ち止まったオト。


ジンは病室のベッドシーツで自分の体とオトの体を結びつけた。


「……お前が行くところについていくぞ!お前は俺が守ると約束したからな!」



しばらくして、再びオトの体は動き出した。


ジンの体をまるで赤子を抱くように走り出した。


オトの目の前にはノートを持ち走る溝谷。










真々川総合病院一階。


医師たちが「今日は散々だな」と愚痴りあっていた。


警察に連絡をしなかったことに礼を告げる山内。


そこにダッシュでこちらへ向かってくる人がいる。


「ヒサシ!おまえなんで走ってるんだよ!」


「俺もわからんが……取り合えずヤバイ。オトが追いかけてくるんだ……」


何を言ってるんだ。彼女は高熱で倒れているはずだ?


だがそこに目を疑う光景が見える。


オトがシーツで結ばれた男をつれて走ってくる。


「彼女復活したのか!警察に電話しなくてよかった!」


「よくない!今のオトに捕まったらプロレスラーでも投げ飛ばされるぞ!」
















病院からラグビーのようにエタナレノートをパスしあい、最後は頼みの綱、タンタンへ渡った。


気がつけばそこは牛舎村。


タンタンはいつもとオーラの違うオトに恐怖を覚えていた。


しかし、その時オトが立ち止まる。


「あれ?私なんでここに?」


オトが戻ってきたと喜ぶタンタン。


「……なにかわからないけど……私操られてたんだ。ごめんねタンタン」


タンタンはいつも通りオトの前でステップを踏んだ。


(だめ……逃げて……タンタン)



「……やっとつかまえたぞ……牛ごときが勝てる相手じゃねえんだよ……」


オトはタンタンの巨体を持ち上げた。


タンタンはそのまま叩き落とされる。


「タンタン!!」


ジンの叫びは届かなかった。


オトはタンタンの口にくわえられたエタナレノートをとった。


「手間とらせやがって。これで二人ともあの世へいくんだ。」


ジンは考えた……今、オトの体を使って喋ってるのは誰なんだと。


「……申し遅れた。ワタシはチョンミン。呪詛祖薬から出してくれて感謝するよ。」


「チョンミン?なぜモルヒネがきかないんだ。」


フフフとオトの体を借りるチョンミンは話し出した。


「効いているさ。さっきから死ぬほど眠たいよ。だがこのノートは今ここにある。ワタシの勝ちだ」







オトは心の中で自分がチョンミンという何者かに体を乗っ取られていることを知った。


このままでは……いけない。


オトは自分の中にいるチョンミンに訴えかけた。


「絶対にノートは渡さない……早く眠りなさい……もう限界のはずよ……」









チョンミンはノートを開き書きこもうとするが腕が全く動かない。


おそらくオトが体を止めているのだ……


「……こんなことしても無駄!お前らは死ぬんだよ!あのときのワタシみたいにな!」


(あなたが何者かは知らない……でも私の大切な人を傷つけない……命に変えてでも……)


「貴様だけあの世へ行かせるもんか……ワタシは人間が大嫌いなんだ!離せ!」


……チョンミンは限界だった……強力な眠気が襲う……


「……離せ……またお前らも……裏切り合うのだ……人とは……自分の…ことしか……」


チョンミンはエタナレノートを落とす。


それを拾ったジンは、すぐさまライターを取り出しエタナレノートを燃やした。


これでエタナレノートの呪いは終わった。


あとは……


「……ちくしょう……お前らも……必ず……裏切り合うのだ……」 


ついにチョンミンは倒れた。


光を放ち消滅しようとするチョンミンを溝谷は逃がさなかった。


すぐさま鞄から不思議な箱を取り出した、それに光は吸いとられていった。


「……終わりました……助かったんですよ!ジンさん」


その言葉に一筋の涙がこぼれる。


目の前に倒れるオトは気を失ってはいるが息はある。

 

「オト……頑張ったな……助かったぞ……俺たち」


辺りを見渡すとヒサシ、山内、ナカハル、モンさん、それに、大量のテレビカメラが何台もきていた。


その後にタンタンも現れる。


モンさんはすぐにタンタンに近付きハグをして喜んだ。


「そうかそえか……餌のワラがクッションになって助かったのか!」








しばらくするとオトは目を覚ました。


モルヒネの影響かまだ体は本調子ではなさそうだ。


「生きてたのね……私たち……」


ああ……




……その様子は翌日のニュースになった。


題名(愛する人は宇宙人だった。それを助ける勇敢な男)は100万回再生されるほどの人気を得る。




















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