呪いのミスリード
オトとジンは牛舎村付近の居酒屋へきていた。
あの動画が広まりすぎたせいで、人目見ようとあちこちに人々が集まっている。
二人はこの居酒屋で呼ばれてから帰ろうとかんがえていた。
「ジンちゃん、オトちゃん一杯食べてね」
二人は頭を下げた。
酒なんかも出されたが飲む気持ちにはなれない。
「ジンさん……あの……」
「オトさん……もういいですよ。始めはショックでしたが焼けたものはどうしようもないですから。」
ジンはそう言ってオトのグラスへビールをついだ。
でも……
「モンさんは……大丈夫かな」
モンさんは愛娘の花飾りや写真に少なからずのショックを受けていた。
自分達に起きてることを説明しようにもできなかった。
頭を下げたのは二人でさげた。
「ジン……君がこんなことする奴ではないことはよく知ってる……だから」
だから……
「こうなった理由があるなら、説明できるときでいい……説明してくれ」
ジンは一気のみをした。
そこには何かを振り払おうとしているのがオトにわかる。
オトは下を向いて今日のことを反省していた。
自分がこんなもの買わなければ……
「オトさん。それよりこの呪いを消すことを考えましょう。僕だって……オトさんに色々したでしょ」
キスしたり……叫んだり……
「はい。お酒もらいます」
翌日、オトとジンはモンさんの前にいた。
そこでは腕をぐるぐる巻きで後ろへ縛られ目隠しをされた同じく腕をグラスへ巻きに巻かれたオトがいた。
「……これはなんかのプレイ?」
オトは説明した。
「今から起きることに二人とも意志がありません。私たちはこの縄を自力では取れませんから。」
オトもジンも取れないことを縄を見せて説明した。
モンさんは全くもって意味がわからない。
きた……
オトはあの感覚を感じた……
縄は男でも切れないほど固い縄だ……だが女のオトの後ろ手はその縄を徐々に引きちぎっていく。
そして縄は切れた……ペンをもち、ノートを開いた。
(私に告白する)
(稼働)
ジンにもきた……そこに書かれた言葉が何かはわからない……
感じる……告白……告白……
「昔、犬のふんを父親の靴へいれた、母のパンツで学校にいった……」
それはかれこれ何分続いたことか……
ジンの意識が戻ったときには、ムンさんは二人の様子を拍手をしてみていた。
「すごいね~」
「ムンさん手品じゃないんです。これは呪いなんです。私が書きたくもないのに腕が動いて書いてしまうんですよ」
「……それであれを燃やしたのかい……」
オトは全てを告白した。
「私は前に失恋したんです。元カレに復讐してやろうとしてこれを買ってしまったんです。でも彼ではなく、ジンさんが反応してしまった……」
「……信じがたい話だが……そこに、前の彼女の物を燃やす……とでも書かれたのかな?」
オトとジンは首を下げた。
タンタンと戯れるオト。
タンタンとは随分慣れてきたみたいだ。
「……オトさん、モンさんには信じてもらえたかな」
「わからないけど、早くどうにかしなきゃまた迷惑かけるわね。」
「そうだな……」
牛小屋に水を巻きながらジンはなにか方法はないかとかんがえていた。
ねえ、ジンさんって……
「お母さんのパンツをはいて学校に行ったの?」
ジンは顔が焦げ付くほど赤面する。
多少の意識はあったが、人に隠したいことをだれも聞いてもいないのに言う……これは地獄だった。
「オトさんが告白するって書くからだよ。」
「仕方ないでしょ、手が動くんだから。でも……」
でも……
「私の思う告白とは違った。私は(愛の告白)って意味だったんだけど。」
ムンさんの前で愛の告白をしてる姿を想像するとその方がジンにとってもっと地獄だった。
かつての恥ずかしい告白の方でよかったと思った。
ん……!? 告白……!? もしかして……
ジンはタンタンを小屋へ返した。
タンタンはもっと踊りたかったとすねていた。
「どうしたのジンさん?」
「オトさん……ちょっと試したいことが。」
常磐ヒサシは同郷で内科の友人、山内と医師会に参加していた。
山内はヒサシのことをなんでも知っている。
「ヒサシ!動画見たぞ!おまえ女取られたじゃねえか」
「ああ、あのバカ動画だろ。オトとは終わったんだ。時計も突き返されたしな。」
ヒサシはよく知っていた。
ヒサシの性格を。
「おまえのことだ。オトさんは親父さんの好みじゃ無さそうだしな。」
ヒサシは山内の方へ素早く振り向いた。
「……親父は関係ない!俺の意思で終わらせたんだ」
間違いなく嘘だった。
ヒサシは嘘をつくと声がでかくなる。
山内はよく知っていた。
そしてヒサシの親父のことも。
「……俺の親父がダンベエさんならダンベエさんにダメと言われたら従うね」
オトはジンと昼食部屋でとある推理小説を見ていた。
「オトさん、この一説を見てほしいんだけど……」
オトはジンの指差す先を見た。
(この子はおもちゃでばかりあそんでいるから……)
「オトさん、これをどういう風にとります?」
「……子供がおもちゃで遊んでるんだなぁって……」
ジンは「それが普通ですよね」とオトに指を指した。
なんか普通扱いされたのはちょっとむかついた。
「でもこの人も立派な大人なんです。子供ではないんです。」
ジンの言うことに納得できなかった。
(この子)といっているし、(おもちゃ)とも言っているではないか。
「読者は(この子)と(おもちゃ)で勝手に子供と思う。
親は子供のことをいくつになっても(この子)と呼ぶし、大人でも遊べる(おもちゃ)はある。電車の模型とかね。」
「……なんかずるいわね。読者を騙してるみたい」
ジンは「その通り」とまた指をさした。
「これは読者の言葉で(ミスリード)といいます。誤って読むことですね。そしてミスリードを利用して真犯人の情報をぼかす。そのナレーターのことを……」
これを……
「(信頼できない語り手)と言います。」
……ものすごく熱く語られてしまったのだが……だからなんなのだ……
「ジンさん、私はどうすればいいのかな?」
ジンは「もう鈍いなぁ~」と小馬鹿にしたような目でオトを見た。
ジンは本のことになると熱くなり理解しない人を徹底的にバカにするタイプなのた……そう理解した。
「オトさんの(告白)と俺の(告白)は違ったんだ。つまりオトさんの書くことをもっと抽象的にすれば、読み手は誤解する。」
例えば……そうですね……
「(私に今までの無礼を謝罪する)だったら(私に謝る)だけにしとけば読み手は状況に応じて何のことに謝ってるかを勝手に解釈する……オトさんが(信頼できない語り手)になるんだ。」
「………(死ね)で本当に死なれたら困るのと一緒ね……これがミスリードか……」
「…………まあ、そんなかんじ」
……ジンはちょっとびびった。
私ははるばる、九州の奥地から息子に会いに来た。
だがなれない土地に少し戸惑った。
場所を聞くにも九州の訛りが酷いのか、逃げられてしまう。
歩き回った私は体力の限界を感じた。
意識が遠くなっていく……
…………気がつくとそこはどこかわからない部屋だった。
誰の家だ!?
そこにはピンク色をしたつなぎを着た女性がいた。
「大丈夫ですか?」
「はぁ……すばんな~こげなふうけたとこばみせてしもたな。はんずめてきただけぇ許してごせなな」
※すいません、こんなみっともない所見せてしまって。初めて来たもので許してください。
「……大丈夫です。お水飲みますか?」
その後も私は少し休ませてもらい、目的地の山元町をめざした。
とてもいい子だった。あんな娘が息子と結婚してくれたらな。
ジンは牛小屋の片付けをしていた。
ある程度終えると寒くなる前にトタンの扉をしめる。
これで一段落。
そういえばオトさんは大丈夫かな。
ジンはモンさんの家へ向かった。
「オトさん。倒れてたおじさんは?」
「帰ったわよ。もう大丈夫って。訛りがひどくて誰に聞いても逃げられて山元町までいけなかったそうなのよ。」
オトはジンへその人の名刺を渡した。
「九州の家を継がずにこっちで会社建てた息子さんを訪ねてきたんですって。息子さん見合いをしてくれないんだってさ。」
「へぇ。立派な仕事なのになぁ」
……ハナモリ病院 院長 常磐団平
仕事も終わり、オトとジンは図書館は来ていた。
(信頼できない語り手)を利用した小説をオトに理解してもらうためだ。
「一番有名なのは、(アク○○ド殺し)という本かな。なにも知らずに読んでてビックリしすぎて腰抜かしたもん。」
オトはそれを読んだが、昔からどうも字体には弱い。
目がしぱしぱとしてくる。
それでも我慢して読んでいる時だった……
ノートを……書きたい……書きたい……書きたい……
「ジンさん……きたよ……」
ジンは状況を察し、囁き続けた。
「オトさん、できるだけ簡単に……どういう意味にでも受け取れるように……」
オトのペンは動いた……簡単に……簡単に……
(私を慰める)
(稼働)
慰める……なぐさめる……
「オトさんは、背が低いけど、小さいのが好きな人もいるから大丈夫。性格も悪そうだけど、そんなサバサバした性格が好きなM男だっているよ。他に……」
ジンの言葉をオトは聞いていられなかった。
本当に普通に慰められている……というかバカにされている。
(不稼働)
「おお……いいじゃん。その調子だよオトさん」
オトは、とても複雑だった。
公衆の面前で恥ずかしいのは嫌だが、シュールな罵りみたいだった。
「……私はあんまりいい気分じゃないわ。」
(おまえは可愛いよ)みたいなのが欲しかったな。
ヒサシは診察に身が入らなかった。
それは頭が上がらない父が九州からやって来たからである。
いつも見合い見合いで、好きな人を紹介しても(気にくわん)で終わり。
そんな生活が嫌でここへきた。
自分の相手は自分ので決める。
……だがオトと別れてしまった。
彼女になんの落ち度もなかったが、また親父に紹介したら酷評されると思い……。
仕事終わりに家へ帰ると父は居なかった。
「……酒でも飲んでるんだろう」
オトとジンは居酒屋に立ち寄った。
オトはどうしても聞きたいことがあった。
でも聞きにくいので、酒の力に頼ることにした。
「ジンさん。カナノさんのこと聞いていい?」
ふいなことにジンはオトの目を見てゆっくり首を下ろした。
「牛舎村で働き始めたとき、俺に指導してくれた人だ。年齢は4つばかり上でね。ムンさんの唯一の家族だったんだ。」
ムンさんに子供はいなかった。養子としてカナノがきた5年後にムンさんは奥さんを亡くした。
「そんな気なんか更々なかった。でもムンさんは俺たちがくっついてくれればと思ってたみたい。そうしたら急に意識してしまって……」
「好きになったんだ。」
ジンは今度は目を反らし首を下げた。
「花飾りは彼女が通ってた造花教室で作ってたものだ。でもその帰り道に彼女は……車に轢かれたんだ……」
おかしいな……お酒の力を使ってるはずなのに……涙が出る……
「それでムンさんは一人になった。だから俺はあそこにいる。ムンさんを一人にできないからね。」
涙腺が壊れてしまった……何て悲しい話……
「……ゴヴェンナサイ……ナヴィダガドマラダイ……」
「でも……」
でも……
「本当は推理小説を書いていきたいんだ。こんなことムンさんには言えないけど……それが夢なんだ」
夢……初めて聞いた……
私にも夢があった。でも破れた。そして、彼氏に降られた。
「すごいね。夢追いかけるなんて素敵じゃん」
「そんなこという人今いないよ。テレビで芸人さんが(夢は叶わん!世の中屍だらけや!)って言ってたけど
」
「今、夢みたいなことが起きてるじゃない。その芸人にもエタナレノート渡してやりたいわ!」
オトとジンは笑った。酒の力もまして、めちゃくちゃ笑った。
その一時はとても楽しく、とてもかけがえのないものと感じるようにオトはなっていた。
そしてそれはジンにも同じだった。
カナノが死んで以来他の女としたしくはならなかった。
はじめは迷惑だと思ったこの呪い。
でもこの呪いのお陰でオトと出会い笑えている自分がいるんだ……
その時だった……またきた……
ジンはオトの表情だけで状況がわかるようになっていた。
またノートに書きたくなったのだ。
「オトさん、リラックス……」
ペンを持った手が震える……酒を飲んだからか……まるで頭が整理できない……
(私を抱き締めて〈おまえを離さない〉と叫ぶ)
こいつはまずい……
ダンベエはついついこっちにいる医者の仲間と飲みすぎてしまった。
昔の失敗なんかが今すごく酒の肴になる。
今の若者は嫌なことから逃げようとする。後で楽しめることをわかってもらいたいもんだ。
家に帰ってもまたヒサシと喧嘩になってしまう。
ダンベエはもう一件はしごすることにした。
おっ……九州名物レモンステーキがある……ここにしよう。
ジンとオトはダッシュで居酒屋を出ようとした。
やばい……くる……
(稼働)
抱き締めて……離さないと……言いたい……
ダンベエはその居酒屋へ入った。
そこには店内を走って逃げようとする女。
それを追いかける男。
「若いのぉ~」
ダンベエは昔流した数々の浮き名を思い出していた。
その時男は女を抱き締めた。
「おまえを離さない!おまえを離さない!」
さすがの、ダンベエも恥ずかしくなった。
「すげえなぁ都会のワカモンは……ん!?」
ダンベエはその女に見覚えがある……
どこかで……
「……不知火オトちゃんでねえか!あんたがたこげなとこでなんばしよっかやぁ、はんずかしゅーてみてられんぎゃや」
※あんたこんなとこでなにしてんだよ。恥ずかしくて見てられんよ
「常磐さん!?これは……色々理由がありまして……」
それでもジンのコールはなりやまない。
周りの客もそれを見て「やれやれ~!」と酒の肴にしはじめる。
ダンベエは羨ましいながらも少し残念だった。
「ええにょばとおもたが、だいずなひとおったんだにゃ~」
※いい娘だと思ったけど、大事な人が、いたんだな。
翌日のニュース
今日の面白動画はこちらです。
(居酒屋のノンストップ離さない男)
この2人が、かつての動画に出た2人だということはすぐに知れ渡る……翌日も二人への電話は半端なかった。
色んな手を使ってもがくがいいさ……沼はもがくほど深みにはまるもんだ……この映像……あんたがたの死ぬ前の映像だ……記念にとっとかなきゃね……へへへへへ