大切なもの
牛のタンタンはお嬢様だ。
人前で目立つことが好きで、カエルやミミズなど気持ち悪いものが嫌い。
ジンもタンタンにだけは手を焼いていた。
「タンタン、なんでも食べなきゃだよ~」
ちょっとでもエサが気にくわないと食べない。
仕方なく高級りんごを持ってきた。
ジンが牧場主のモンさんからもらったものだ。
それを喜んでバクバク食べている。
「全く!女は訳がわからん」
昨日の女もそうだ……いったい何をしたのか……
オトはとても気持ち悪い感覚に陥った。
なんだこれは……!?
今日は本物のヒサシの髪の毛を取りに行こうと思っていた。
だが体が動かない……
そんなことより……エタナレノートを書かなければ…
…危険が及んでくる……そんな感覚が消えない……
このままでは……またジンが操られてしまう……
絶対書いてはいけない……頭ではわかっている……
でも言うことをきかない……書きたい……書きたい
オトの右手はペンを持ち、左手はエタノレノートを開いた……
(ホワイトビルの屋上で私を好きといって)
……へへへ……あの女、呪詛祖薬をのみやがった……あ
の薬は……妙な危険予知の薬……目の前の悪いことに……妙な中毒性をおこす……反面……副作用で……痛みや不安や酔いを……回復させてしまうがな……
ジンは牛小屋を掃除していた。
いつも通り、モンさんはパチンコへ行きいない。
だがジンは一人でいるのが好きなので苦ではない。
そんなとき、タンタンが小屋から逃げようとしている。
「タンタン、どこいくんだよ。また躍りにいくのか!?」
タンタンはよく抜け出して人前で謎のダンスをする。
牛なのでクネクネ動きはしないが、足をならすタップダンスに近いと思う。
ジンは逃げないようにタンタンのロープを縛り直そうとした。
(稼働)
なんだ……無性に……愛を叫びたくなった……相手は……
不知火オト……誰だ……誰でもいい……叫びたい……ホワ
イトビルあたりでさけびたい……
ジンはタンタンのロープを握ったまま走り出した。
オトが気がつくとエタナレノートにはとんでもないことが書かれていた。
「最悪!ホワイトビルに行かなきゃ!ジンさんにまた迷惑かけてしまう!」
ジンはタンタンを引き連れ、ホワイトビルへ来ていた。
「早く……早く……叫びたい……」
中へはいるも牛をつれていることで止められるがそんなもの関係ない。
止めに入ったものたちをなぎ払い、ジンは階段を上った。
タップダンスを踊ろうとするタンタンを引きずり、屋上へたどりつく。
そして屋上から中目白の町を眺めた。
「不知火オトが好きだー!!不知火オトを愛してる!!」
その声に中目白町の人々は釘付けになった。
人々はスマホを向けて動画をとりだした。
オトはホワイトビルの前までついたがすでに手遅れだった。
恥ずかしいほど大きな声で自分への告白を叫ばれている……
周囲の人は(シラヌイオトって誰だ?)と疑問に思っている。
どうやったら止められるんだ!?
(不稼働)
ジンが気がつくとどこかの屋上で叫ぶ自分がいた。
右手に引き連れたタンタンは嬉しそうにダンスを踊っている。
「ここどこ?俺何してンの!?」
屋上にも、ビルの下にも何人ものギャラリーがいる。
その時見覚えのある女がジンの腕をひっぱった。
「ちょっとお兄ちゃん、妹の名前を大きな声で叫ばないでよ~」
とある喫茶店のアポロ
「なんでしょうか妹さん」
そこでジンとオトは再開した。
店の外に待機するタンタンはまだ踊っている。
オト今起きていることを包み隠さず説明する。
「ジンさん!つまり私は別の人に軽いイタズラのつもりでやったのよ。でもあなたにかかってしまったの。わかる?」
わかるわけがなかった。
この人もクリニックへいったほうがいいな。
その時またあの感覚がオトヘやってくる……
「やばい……また来た……」
「なにが来たって……!?」
ジンの目の前でペンを持ち出し、小汚ないノートを書き出すオト。
これが例の人を操るノート?
信じる訳じゃないが……なぜ書くんだ?
書かなきゃいいだろ……
「ジンさん……書かなければ……と思ってますよね……」
……わかってんじゃん。
「わかってても止められないんです。私の願望が全てここに書かれていくんです……」
ジンはその内容を見た。
(私に愛を叫び、熱いキスをする)
「ジンさん早く逃げて!」
(稼働)
あれ……まただ……めちゃくちゃ……熱いキスがしたい
ジンは目の前にいるオトを力強く抱き締めた。
「オトさんが好きだ!愛してるんだ!」
力強い言葉のあとに力強く重なる唇。
喫茶店の人々も目を奪われた。
その日の夕方のニュース。
〈牛を連れた男の愛の告白!※正体は妹〉
〈牛を連れた男の一時間に渡る熱いキス!〉
これにより、ジンのプレイボーイっぷりとその彼女のオトは全国放映された。
翌日、オトはビザレ堂があった場所へと向かった。
あの古びた電柱の先。
しかし、そこにあるのは空き地だった。
「うそ!間違いなくここにあったのよ!」
ジンが働く牧場には一躍有名人になったジンを見ようと多数のギャラリーがきていた。
もちろん悪名だが。
「やるねジン!本ばっか読んで元気ないって心配してたんだぞ!」
モンさんに言い訳しようにも、それを信じてもらえるとは思わない。
「僕はあの人だけ見てますから……」
モンさんはそれを聞き、悲しみながらもとても嬉しく思った。
「……ありがとう……そうだよな」
とりあえずこの出来事をどうにか抑えなければ。
「モンさん、ここって人を雇ってますか?」
色々重なって、オトは前の仕事場にいれなくなった。
テレビに自分の名前が叫ばれ、顔から火が出そうだった。
そこでジンから連絡を受け、嫌ではあったが、今、中目白町の牛舎村にいる。
「だから!嫌かもしれないけどここにいなきゃ、また町で色々やらかすかもしれないんだよ!」
ジンも必死だった。あの後親や親戚、友達から信じられないくらい連絡がきた。
恥知らずと罵られたり色男と言われたり。
「牛の世話なんかしたことないもの!他にないの?」
「あるよ。でもある程度近くにいなけらば、また走り出すんじゃないかと思って。」
一理はある。
オトも連日信じられないことが起きた。
ノートを捨てても、家に戻ってきたり。
置いていこうしても、引き戻されて置いていけない。
破ろうにもその時ばかりに力が入らない。
今も私のカバンに入っている。
「鞄おいてきたら?」
「私だっておいてきたいわよ!頭ではわかってても体が言うこと聞かないのよ!」
大声を叫びながら鞄の中のノートをとりだした。
そしてその数秒後……
「ジンさん……くるわ」
あの感覚……マジで……書かなきゃ……死んでしまう……
ペンは止まらなかった。
そして……書かれた言葉……
(前の女の思い出を全て捨てる)
(稼働)
あれ……捨てなきゃ……嫌われるから……捨てなきゃ
ジンは走り出した。
後を追いかけるオト。
家に向かうかと思われたが、向かった先は牛舎村にのモンさんの家だった。
「どういうこと?」
家に誰もいない。向かった先は仏壇だった。
そこに飾られている沢山の花飾りや写真。
ジンは徐にそれらを持ち上げた。
これはやばい……オトにもそれくらいはわかった……
ジンの体を抱き止めるが全く止まらない。
引きずられながらきた場所は焼却場だった。
焼却炉をあけるジン。
「ジンさん!!やめて!!お願い!!あの人大事な恋人だったんでしょ!お願いやめて!」
全てむなしく響き渡りジンは全てを焼却炉は投げ捨てた。
(不稼働)
ジンの目の前には燃え盛る焼却炉に手を突っ込むオト。
「オトさんなにやってんですか!?」
オトは泣いていた。
それは熱くてではない。
全て自分のせいで……自分のせいで……
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
その言葉の数秒後、風に流され飛ぶ、半分に焼け焦げた写真。
それはジンの一番の思い出だった。
ジンはオトの体を離し、焼却炉に水道から水をかけた。
焼却炉のものは半分に焼けた写真以外全て燃えていた。
ジンは一言も喋らなかった。
その時、家へ戻ってきたモンさんがこちらの方へ走ってくる。
「ジン!!カナノと撮った写真と大事な花飾りが無くなったんだ!!知らないか!?」
自分のことしか考えないから……取り返しのつかない不幸がおきる……私はそんなやつ……嫌いじゃないけどね……へへへへ……まだまだ呪いは続くよ……