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三つの願い

作者: さぼてん

頭痛が鳴り止まない。体の節々が痛む。そして胸にはぽっかりと丸穴が空いている。2月の夜空は僕の心の中を映すかのように真っ暗だった。


一生に一度の恋だと思った。この人さえいてくれればそれでいいと思った。

どうすれば彼女が振り向いてくれるのか、どうすれば笑ってくれるのかだけを考えて今日まで生きてきた。でもそれももう終わりだ。


彼女に告白したとき、あの娘は綺麗な目を伏せてこう言った。「他に好きな人がいるの」

ハンマーで後頭部をぶん殴られたような衝撃を受けた。その後も彼女の口は動いていたが、何を言っているのか、もはや僕の耳には届かなかった。

僕の恋は終わった。

彼女は僕ではない他の男と付き合い、そいつにだけあの笑顔を見せるのかと思うと胸が張り裂けそうになった。自分という存在から大切なものがごっそりと抜け落ちたような気がした。そして僕の胸には穴が開いている。

僕の恋は終わったのだ。


そして僕はおぼつかない足取りで居酒屋に入り、浴びるように酒を飲んだ。その後のことは記憶にない、気が付けばぼろぼろの姿でゴミ捨て場に寝ていた。

誰かに絡まれでもしたのだろうか。目は腫れ上がっているし口から血も出ている、体のあちこちが痛むし、おまけに財布までなくなっている。

だけれど、何もかもどうでもよかった。ゴミの異臭が鼻についたが自分もゴミのようなものなので同族嫌悪だ。いっそのことゴミ処理場まで運んで行って粉々に砕いてもらえないだろうか、燃やして灰にしてもらえないだろうか。今は一秒一秒生きていることがただただ辛い。


ふと気が付くと、ゴミの中に何か金属のようなものが埋もれている。それは他のゴミとは違う異様な光りかたをしているように見えた。

掘り起こしてみるとそれはランプだった。昔話にでてくるような古びたランプ。

そういえば昔読んだ絵本にこんなランプが出てきたな、ランプをこすると、中からランプの精がでてきて、どんな願いもかなえてくれるというお話。たしか、その話は主人公が王子になって、あこがれの王女様と結ばれるのだったか。馬鹿馬鹿しい、そんな都合のいい話があるものか。今時子供だましにもならないだろう。

笑いながら僕は試しにランプをこすってみた。「ランプやランプ、私の願いを叶えておくれ、ってか」

しばらく経っても当然何も起こらない。

しかし、僕がランプを投げ捨てようとした瞬間、ランプからもうもうと白い煙が立ち上がった。その煙は段々と人のような形になっていき、一人の大男へと変わっていた。

突然のことにポカンとしている僕に対して大男は跪きこう言った。

「およびでしょうか御主人様。どんな願いでも三つ、叶えて差し上げましょう。」

失恋のショックで僕の頭はおかしくなってしまったのだろうか。それとも夢をみているのだろうか。

しかし寒さのおかげで頭ははっきりとしていたし、暴行を受けた部分は明確な痛みを持っていた。

「え、なにこれドッキリ?テレビか何かですか?」と話しかけるも大男、もといランプの精は何も言わない。そのまま数分間黙っていたが、彼は何も話さずにこちらを見つめている。

「ほ、本当に願いを叶えて、くれるんですか?」と尋ねるとランプの精は大きくうなずいた。

「おっしゃる通りです御主人様、どんな願いでも三つ、叶えて差し上げましょう。」

もう夢でも悪戯でもいい、この茶番に付き合ってみよう。と開き直りランプの精に話しかける。

「誰かに財布を盗られてしまったんだけど、それを取り戻すことってできますか?」

「もちろんです御主人様。あなたを世界一の大金持ちにすることもできますよ。」

「いや、それはいいです。財布を取り戻してください。」

「わかりました、それでは一つ目の願い、しかと承りました!」

そうランプの精が叫んだ瞬間、目の前が青く光り、気が付けば僕の手の中に財布があった。

特徴的な傷が付いた財布は間違いなく僕のものだったし、中の免許証に写っているのも僕の写真だった。

信じられない、こんなことが現実にありえるのか?

しかし、こうも考えられる。僕から財布を盗ったのがこのランプの精自身で、隠していた財布を出しただけかもしれない、まるであなたの願いを叶えましたよ。とでもいわんばかりに。

それならトリックでは説明できない願い事をしてみてはどうだろうか。

「誰かに殴られみたいで、体中が痛いんです。この怪我を治してもらえませんか?」

「もちろんです御主人様。あなたを世界一健康な人間にすることもできますよ。」

「いや、だからそれはいいです。この怪我を治してください。」

「わかりました、それでは2つ目の願い、しかと承りました!」

その瞬間、僕の体が光に包まれた。そして気が付くと目の脹れも口からの出血も治っていた。痛みも嘘のように引いている。

これは本物だ。間違いなく本物のランプの精だ。本当にどんな願い事でも叶えてくれるんだ!

なぜ僕はあんな単純な願い事をしてしまったのだろう、どうかしている。最後の願いはよく考えなければ・・・。


その時、僕の中にある考えが浮かんだ。「どんな願いでも?」。だとしたら僕が一番苦しんでいることも解決できるのではないだろうか。

今は思い出すだけでとてつもない苦しみが伴うあの顔が浮かんだ。あの笑顔が僕に向けられる、彼女と共に歩いて行ける・・・。僕の人生はもう一度始まるんだ!

胸に穴が開いていたはずなのに、胸が苦しい、動悸が早くなる、プレゼントを開ける前の子どものようにいてもたってもいられなくなる。

「ランプの精よ!僕の好きな人と結ばれることは可能か!?」

「もちろんです御主人様。世界一の女性でもあなたの虜にできます。どんな相手の気持ちもあなたの意のままです。」

それを聞いて、僕の決意は固まった。

足を踏ん張り、胸を張って、息を大きく吸い込み、僕は叫んだ。


「ランプの精よ、僕の心から彼女の存在を消し去ってくれ!」

こんなつたない文章を読んでくださって本当にありがとうございました。お礼申し上げます。

終わり方には賛否両論あるかと思いますが、失恋直後の主人公の気持ちを考えるとこうなるのかなと僕は思いました。でもその反面、失恋を受け止めて、それを乗り越えて成長してくということも大切だとも思います。次はそういう話を書きたいなと考えております。

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