冬に咲くひまわり
何処で曲がっているのかも分からない道を眺めていた。 誰よりも身長を伸ばして、遠くを。
日差しは弱く、冷たい風が北から襲うように吹いてくる。
季節は、冬。
遮るもののない広々としたこの場所で、寒さに負けそうになりながらも私は立っていた。
もうすぐあの人が来るだろう、と待ち続けて。
「おや? こんなところで珍しい事もあるもんだ」
その声は、都会の喧騒の中では聞き逃してしまうような声だった。
声をした方を見れば、引っ越し中なのだろうか。大きな荷物を荷台に乗せて引っ張る小さき者たちが、こちらを見上げている。
「お引っ越しですか?」
「そうなんだよ。この辺もカイハツされてきて、住処にしていた場所はぜぇーんぶ壊されちまった」
一家の大黒柱らしいその人が一番大きな荷台を引っ張って、その後ろから二人の小さな子供が押している。さらに小さな荷台を引く二人の若者。傍には年老いた二人の男女と、付き添う様にご婦人がいた。
「お気の毒に……」
「なぁに、家族そろっていれば、それ以上の事はないさっ! なぁ?」
明朗快活なその言葉に、皆が同意を示す。
家族円満。あの人はいつも何処かを旅していたから、少し羨ましいなぁ。
「あんたは何をやっているんだい? 何もこんな寒い季節に突っ立ってるこたぁ、ないだろうに」
私を見上げてご主人が聞く。
真冬に佇む私は、彼らには不思議に見えたのかも知れない。
「ある人を、待っているんです」
旅が大好きで、私を放ってあちこちに行ってしまう人。
それでも冬には必ず帰ってきてくれる人。
少年の様なキラキラした瞳で、旅の話をしてくれる、あの人。
「その人は、貴女の大事な人?」
「ふふっ、そうなんです」
素直に答えるのは、少し照れ臭い。
私の返事にご主人は優しく笑ってくれた。
「早く、会えると良いですね」
「えぇ、有難うございます」
そうして一家は新天地を目指して行ってしまった。
私は再び、遠くを見据える。
あの人は、この私に気づいてくれるかしら。大好きだった向日葵の花を見上げて、微笑んでくれるかしら。
遠くに見えてきた人影が、どうかこの場で泣き崩れませんように――