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漁師と海竜 海原を行く  作者: 赤五
第二章 東端の魔海
13/57

第1話 平和な日々

複数の話数をまとめて、内容を再チェックしたものです。

連載時と多少変わっていますが、大差ありません。

「平和だねえ」


 ケンカイは氷の浮いたグラスを傾けて中の酒を飲みほした。

 ケンカイは、白髪交じりの黒髪をした見た目は初老に見える顔をした男だ。

 だが、その体は初老の男には見えない。

 骨太の上に太い筋肉が覆った体。

 普通、発達しすぎた筋肉は不自然さを感じさせるものだ。

 だが、ケンカイの体躯にはそれは無い。

 太い骨の上にのった膨大な筋肉は、それが当然のものであるかのごとく自然だった。

 それは、猛獣の躰のようでもあった。

 

「無人島ってのも、たまにゃあいいもんだ」


 簡易長椅子の横に置いてある酒瓶を取り、中身をグラスに注ぐ。

 度数が高めの果実酒。

 海姫の雷号の客室から持ち出したものだ。

 

「ちと暑いが、この暑さもこいつがありゃあ・・・」


 ケンカイは左手に持ったグラスを目の前にかざす。

 ケンカイの太い骨太肉厚の左腕には、刺青が彫られていた。

 バトア王国にいたころには無かった刺青だ。

 その刺青は絵のようで文字の様な不思議な模様をしている。

 ケンカイは、左腕の刺青に魔力を流した。

 何回も繰り返して慣れた作業をこなすような魔力操作だ。

 魔力を見ることのできる魔法使いが傍にいれば、ケンカイが流した魔力の量に驚愕したであろう。

 それは、バトア王国の最強の魔法使いであるベッグが行使した雷の魔法に用いた魔力に匹敵する量であった。

 莫大な魔力が刺青に注がれる。刺青が燐光を発した。

 そして、魔法が形成され、発動する。


「うむ、極楽ってもんだな」


 満足そうなケンカイ。

 カランと、涼しげな小さな音が鳴る。

 彼の持っているグラスの中には、先ほどまで無かった氷が一つ浮いていた。


「ご主人さま、ものすごく効率悪いですよ。魔力の無駄使いです。勿体ないです。

 はい、おつまみです」


 その様子を見ていたリネスが、お手製のおつまみを渡しながらケンカイに言う。

 茶色の髪に茶色の目。太腿が見える短いズボンにタンクトップの上衣。

 褐色の肌が健康的な印象の少女だった。

 むき出しの太腿に奴隷環がついている。

 リネスはケンカイと契約している奴隷娘である。

 タンクトップは胸の下あたりまでしか体を覆っておらず、お臍が見えている。

 だが、露出が多い服装にもかかわらず、色気は欠片もない。

 原因はぺたんこの胸と、細い尻。

 まだまだ発展途上の13歳である。 


「その魔力があれば、ボクも楽できるのに」

「オレは魔法なんざ使えないからな。これだけ出来たら十分だ。

 お、旨いな。鳥肉か」

「はい、ジョナサンで捕まえたこの島の鳥です。雉の仲間っぽいですよ。お酒に合うように、タタキにしてみました」

「鴎で鷹匠の真似事か。だいぶ慣れたみたいだな」


 ジョナサンは魔法で作られた鴎の使い魔だ。元々はリオウという大アザラシの姿をした海竜のものだったが、今はリネスの使い魔として彼女に操られている。

 

「最初は慣れなくて、目が回ってたんですよ。

 すっごっく、気持ち悪くなるんです。

 でも、ボク、ずっと頑張って特訓してたんですよ」


 リネスは、ずいっと料理をのせた皿を持ち上げる。


「その成果が、これなんです。ボク、ご主人さまの為に頑張りました!」

「おお、凄い凄い」


 ケンカイはリネスの持ち上げた皿を取り上げて、さらに一口食べる。


「むー」

 

 リネスが膨れる。褒めて欲しいのだ。

 その様子をみたケンカイは、リネスの頭を撫でた。

 最近、リネスはケンカイに甘えてくることが多い。

 その様子は、父親に構ってほしがっている幼女のようであった。

 今までの彼女の苦しい人生に突如現れた保護者。

 それが、リネスから見たケンカイだ。

 時々、保護どころか危険に叩き込むようなことを悪意なしでやらかすのもケンカイなのだが。


「えへへ、あ、肝を串焼きしたのがそろそろできるので、持ってきますね。

 あと、太ももの焼いた奴もそろそろかな」

「お前も少しは食え。じゃないと、太らんぞ」

「むぅ、少しは成長しましたよ」


 ケンカイはリネスを見て、ふっと嗤った。

 どこを見たかはリネスの名誉のために伏せておく。


「そいつらを持ってきたら、一緒に食うぞ」

「はい、ご主人さま。

 ボク用の軽いお酒も持ってきますけど、ご主人さまはどうします?」

「こいつと同じ奴をもう一本。まだあったよな?」

「わかりました。ちょっと待っててください」


 リネスは海辺に向かって走り出した。


「元気なこった」


 その様子を見ながらケンカイは、今まで気にしてなかったリオウのことが気になった。

 念話で話かける。


”おい、爺さん”

”なんじゃ、忙しいんじゃがの”

”船の改修はいつ終わりそうなんだ?”

”もうちょっとじゃな”

 

 バトア王国の第一王女、ミトア姫から譲り受けた魔動船、海姫の雷号は現在リオウによる改修を施されている最中だった。

 こちらの海原に引き寄せられた時の衝撃によって、海姫の雷号は大きく傷ついていたのだ。

 普通に航海する分には問題がないのだが、魔法の発動に使用する魔法機関の損傷がひどく、海竜であるリオウにとって不満だらけの状態になっていた。

 完全な修復はできそうにもないが、少しでもマシなものにしたいというリオウの要求で、航海中に見つけた無人島らしき島に上陸しているのである。


「まあ、今のままじゃ、どう見ても幽霊船だしな」


 特に外装の破損が多いため、外から見た海姫の雷号は誰がどう見ても幽霊船である。

 首の折れた船首像は、見るだけで哀れを誘うし、焼け跡のような損傷が目立つ甲板や側板は、今すぐにでも崩れ沈みそうな印象を与える。

 これで内部の部屋などは一切損傷が無かったというのが、魔動船であるこの船の凄いところでもあった。

 もっともそれは、リオウの魔法による効果も大きかったのだが、それをケンカイが理解している筈もなく、ケンカイは単に、この船すげえな。くらいにしか思っていない。

 リオウはケンカイのそういう所が不満なのであるが、魔法の素質のないケンカイにとっては理解しようがないのであった。


”爺さんのもうちょっとて、長いよな?”

”あとほんの五日ほどじゃて”

”なげーよ”


 この無人島についてから既に5日経過していた。

 ここから更に五日。

 

 港町の喧騒が懐かしくなるケンカイだった。

 

”最初に、オヌシに魔法印を施したじゃろうが。あれで二日使ったのじゃぞ。

 それくらい我慢するんじゃな”


 ケンカイに魔法の素質は無い。

 魔法の素質、すなわち魔法使いとなるための素質というものは、体内の魔法回路を変更し、使用する魔法に合わせて魔法回路を形成できるかどうかである。

 どれだけ魔力があっても、魔法回路を変更できない者は魔法を行使できない。

 だが、氷を作りたがったケンカイの我儘を叶えるために、リオウがとった手段は魔法回路を刻んだ魔法印を刺青として施すことであった。

 これによって体内に魔法回路を形成できないケンカイでも、刺青に魔力を流すことによって魔法を行使することが可能となる。

 もちろん、これには欠点があって、一般的に使われない理由は、必要とされる魔力が通常の10倍以上になるという致命的な問題だった。

 だがケンカイの魔力量は膨大だ。

 強引な力技で魔法を行使して氷を作るケンカイは、リネスのような魔法使い初心者にとっては垂涎ものの魔力の無駄使いをしているのである。

 ちなみにケンカイが氷を作りたがった最初の理由は、釣った魚を保存したいというものであったが、実に彼らしい理由といえよう。

 遠海で釣った魚を新鮮な状態で持ち帰り、港で振る舞う。

 ケンカイはそれだけの為に魔法を習得したのであった。

 酒に氷をいれると美味いということに気づいてからは、使用方法が変わりつつあるのだが、彼が満足していることには代わり無かった。


「ご主人さま。持ってきました~」


 リネスが帰ってくる。そのままケンカイの隣にちょこんと座った。


「はい、お酒です。あの、ボクのにも氷ほしいな」

「グラスを貸せ」


 再度、魔力を大量に消費して氷を作っていくケンカイ。

 ケンカイの造る氷は、グラスの中の酒の一部を直接凍らせているので、溶けても味が薄くなっていくことはない。

 グラス全体を凍らせない所が、リオウ曰く、器用な使い方をするのう、という評価となっていた。

 氷を入れたグラスをケンカイから、受け取ったリネスは、膝の上に置いていた皿をケンカイに渡す。


「さっき、味見したけど、おいしくできましたよ」

「どれどれ、うむ、旨い。リネスも料理が上手になってきたな」

「えへへ、お酒の肴ばっかり作るのが上手になった気がしますけど」


 リネスはケンカイにもたれるようにして、自分の持ってきた弱い酒を飲む。

 頼ってもいい相手がいるっていいよね。

 そんなことを考えているリネスにとって、この平和な日々は実にすばらしいものであった。

 

 


 リオウは慎重に海姫の雷号の構成を見直していた。

 海竜リオウ。

 知のリオウを自称する彼にとって、古代魔法帝国の遺産であるこの魔動船を改造することは容易い事であった。

 いや、古代魔法帝国の遺産だから(・ ・ ・ ・ ・)こそ容易いというべきか。

 改造といっても、なにも外観や船体構造そのものを改造するのではなく、海姫の雷号の魔法回路を調整するための改造である。

 彼ら一行をバトア王国に連れてきた強力な力に対抗するための改造だ。


 ある者の魔法によってここまで連れてこられた。


 リオウはケンカイ達にそう説明していた。

 あの時口走った『東海母竜』の名も、それ以降口にしていない。

 それは、東海母竜に感知されることを避けるためだった。

 己を知る者を知ることができる。

 それは強力な魔法使いに備わる本能的な能力だ。

 リオウのような不完全な状態ならともかく、完全な状態の竜であるのなら、名を唱えたものの場所を一瞬で感知できるほどにまで能力の効果と精度が高まる。

 さらに、ケンカイの強すぎる魔力がある。

 魔力の影響のせいで、彼の発する念話は強力だ。

 本来、念話は対象者以外の者は傍受することが困難なものなのだが、ケンカイが無警戒に東海母竜の名を念話で話せば、それだけで感知される恐れがあった。

 やっかいなことに、ケンカイ自身にはその自覚が薄い。


 いずれにせよ、見つからないことが優先じゃな。


 リオウはそう思う。

 強力な魔法を行使できるようにしても、使った瞬間に居場所がばれるようでは使いようがない。

 さらに、こちらに運ばれた時の魔法の衝撃により、海姫の雷号の魔法回路は大きく損傷していた。もう空を飛ぶような強引な事はできない。

 リオウは慎重に海姫の雷号を改造していく。

 改造に用いる魔法も外部から探知されることをおそれて、大規模な魔法を発動させて一度に改造を終わらせるようなことは行わずに、小規模な魔法に分割させて少しずつ発動を行う。それは、極度の集中力を必要とし、精神を削るような疲労を伴う。

 海姫の雷号の甲板に横たわり、慎重に魔法を行使する大アザラシ。

 それは、傍から見ると非常にシュールな光景であった。



「爺さん、寝てるんじゃねーだろうな」

「き、きっと、連日の作業で疲れてるんですよ。リオウさんは」


 傍から見た素直な感想だと、ただ甲板の上で昼寝をしている大アザラシ。

 そんなリオウの姿を横目で見ながら、ケンカイはリネスに泳ぎを教えていた。

 大海蛇ナーガモを釣り上げた時、リネスが溺れかけたことを思い出して、暇なうちに泳ぎを仕込んでおこうと思ったのだ。

 泳ぎは海に生きる者の必須技能である。

 

「えーと、ご主人さま、ボクの恰好似合ってます?」


 リネスは恥ずかしそうに俯いている。

 最初、ケンカイは泳ぎを教えるためにリネスを海に放り込んだ。海の中では衣服は水を吸って重くなる上に、動かしたとき抵抗となるため、泳ぎのコツをつかむまでには非常に邪魔になる。

 なので、無理やり服をはぎ取って下着姿で海に放り込んだのだが、どうやらリネスはその扱いが気にいらなかったようで、顔を真っ赤にして猛抗議したあと船に駆け込んだ。

 ケンカイとしては近海で裸で泳ぐことは、島では普通の事だったので何を怒っているのか判ってなかったりする。

 リネスの事を、変なやつだ。と思っていたりすらするのだ。

 ちなみにケンカイは褌一丁。

 泳ぎと潜りを教えようと思うと、この恰好のほうが都合がいいのだ。

 リネスは暫くしてから、帆布の一部を切って体に巻きつけた恰好で出てきた。

 胸と尻に布を巻きつけた恰好である。


「さっきと、変わらなくないか?」

「さっきは、胸丸出しだったじゃないですかっ! パンツもぬれたから透けてたし」


 先ほどの恰好を思い出したのか、顔が真っ赤になっている。

 

「まあ、お前がいいならそれでいいさ。ほれ、さっさと海に入れ」

「だから、投げないで―」


 腰を抱えてリネスを海に放り込むケンカイ。

 別にいじめているつもりではなく、これくらいが普通だと思っているので動作に遠慮がない。

 うまく着水できずにお腹を打ったリネスを横目に、綺麗な姿勢で海に飛び込むケンカイ。

 着水の波しぶきはごくわずかで、するりと滑り込むように海に潜る。

 航海中は泳ぐわけにはいかないので、ケンカイも海に潜るのは久しぶりだ。

 故郷の海とは違う水の感触を全身でで感じながら、海底付近まで一気に潜った。

 

(水温は結構あるな。暖かい海だ)


 島の様子からそうだろうとは思っていたが、この辺りは気温が高いだけでなく海水も暖かかった。

 泳ぐには適した海だろう。


(でも、魚はまずいかもなあ)


 極彩色の魚の姿が見える。ケンカイには見覚えのない魚が多い。


(見る分には綺麗なんだがな)


 女子供なら喜びそうだと思いつつ、ゆっくりと海底を観察した後、水面のリネスめがけて浮上した。



 ご主人さまが浮かんでこない。

 リネスは不安に捉われていた。

 海に飛び込むケンカイは、まるで魔法でも使ったかのようだった。

 リネスの横に着水したにも関わらず、波しぶきがリネスにかかることは無かった。

 さきほど自分がたてた大きな波しぶきと比べると信じられない。

 すごいなあ。と感心しながらケンカイが浮かんでくるのを待つリネス。

 1分が過ぎた。ケンカイは浮かんでこない。

 2分が過ぎた。さすがに、長い時間潜れるよねー、と感心する。

 3分が過ぎた。どこか別の場所にいったのかと、周りを見回してみる。いない。

 4分が過ぎた。まさか、溺れてたりしないよねと不安になる。

 5分が過ぎた。ご主人さまが溺れて沈んでしまったー。

 リネスは慌てた。

 おぼれたのなら助けに行かないと!

 ばちゃばちゃと海面を掻いて、なんとか潜ってみようと身動きをするリネス。

 潜ろうとして態勢を崩してひっくり返ったところに浮いてくるケンカイ。

 リネスは頭をケンカイにぶつけて気絶した。


「それで、急に動いたのか」

「はい。ご主人さま、ごめんなさい」

「謝られることじゃないが、リネスこそ大丈夫か?」

「ちょっと、くらくらします」


 ケンカイは気絶したリネスを砂浜まで引き上げた。

 幸い水を飲んではいなかったので、リネスはすぐに目を覚ました。


「あれくらいの時間なら、潜っても平気だからな」

「すごいです。さすが、ご主人さまです。化け物です」

「・・・だれが化け物だ」


 余計な事を言ったリネスを、ケンカイが軽く睨んだ。

 

「ごめんなさい、つい本音が。あっ」

「平気と言ったのはな」


 ケンカイはリネスの首筋を掴んだ。

 

「人間なら誰でもそれくらい潜れるってことだ」


 ケンカイは実にいい笑顔を浮かべる。


「もちろん、リネスにもできるさ」


 その日の潜水訓練は過酷なもので、頑張ったリネスは3分間は潜れるようになった。

 訓練が終ったころは、くたくたで指一本動かすのも大変なほど疲れていたが。


 この日の夜の料理はケンカイが行った。

 そしてケンカイの作った料理は見た目は無骨だが旨かった。

 ちと扱きすぎたかと反省したケンカイに世話されて、リネスは幸せな気分になっていた。

 こうして今日も平和な日は終わったのだった。




 東の海、ケンカイ達がいる場所より更に東の場所。

 東の大陸の人間達からは世界の果ての海と言われ、航海に使われることはほとんどないそんな海。

 恐ろしい魔物が棲んでいる海と伝説に言われ、危険な海の生き物が大量にいる事実から、漁師ですら入り込むことがない。

 その海には一つの島がある。

 正確には島に見える何かだ。

 もっともその姿を見ることは常人には不可能だろう。

 その島は常に嵐に覆われている。

 嵐の中に入り込まない限り、島影すら見ることができない。

 だが、もし見ることができたのなら、その者は世にも珍しい物を見ることになる。

 それは、海に浮かぶ王宮。

 島のようにみえる何かは、優美で巨大な城を有した宮殿であった。

 すべてが宝玉で作られているかのような巨大な柱は、伝説の世界樹のようにすら見える。

 様々な象嵌で飾られた壁は、それ一枚だけで巨大な芸術作品を思わせる。

 それらが連なり城の形をなしていた。

 だが、それらさえその王宮の一部だ。

 本当の王宮は海面の下。海の中に隠れた部分にあった。

 海面に出ている部分など、只のささやかな看板に過ぎないのだ。

 そんな海中の宮殿に眠っているものの名は東海母竜。

 古代魔法帝国の残滓というには、あまりにも巨大な王宮である竜の宮の支配者である。

 休眠期の彼女は眠っていた。

 先日、夢うつつの中で放った魔法のことなど、今の彼女の夢にすらでてこない。

 だが、主は動かずとも動く者達もいる。

 彼女の僕たちにとっても、先日の魔法は今まで経験したことのない出来事であった。

 僕である彼女達にも、母と慕う東海母竜の真意は判らない。

 だが、彼女達は動き始める。

 母が求めたものを知るために、そしてそれを得るために。


 竜の宮にて、指導的な立場を持つ者は、'姉達'と呼ばれていた。

 4人の'姉達'は母である東海母竜のお気に入りでもある。


 1人が言う。


「今回の任務を命じた'妹達'を転移門にて外海に送り出しましたわ」

 

 1人が言う。


「妾たちが行けばすぐに見つかりましょうに」


 1人が言う。


「下賤な外海など行きたくありませんわ」


 1人が言う。


「それに妾たちが居なければ、母様がお目覚めになった時、寂しがられるではありませんか」


 4人が言う。


「然り、故に'妹達'だけで充分なのです」


 1人が言う。


「妾たちの'妹達'も優秀ですわ。すぐに目的など果たせましょう」


 1人が言う。


「母様の目的はなんでしょうか? わかりませんわ」


 1人が言う。


「あの時狙っていたモノではありませんか。それが何かはわかりませんわ」


 1人が言う。


「魔力の波動はわかっていますわ」


 1人が言う。


「それらしいものを全部持って帰ればよいですわ」


 4人が言う。


「然り、故に魔力の波動を追って、それらしい変わったものを全て奪えばいいだけですわ。世界は全て母様の物ですもの。誰も文句などいいませんもの。邪魔をされても'妹達'だけで充分ですわ」

 

 1人が言う。


「だが、一人、出来損ないが混じっておりますわ」


 1人が言う。


「不格好な上に、母様に対する敬意も欠けておりますわ」


 1人が言う。


「出来損ないだけど、強いですわ」


 1人が言う。


「不格好だけど、役に立つ場合もありますわ」


 2人が言う。


「出来損ないなら、失敗して無くしても惜しくありませんわ」


 2人が言う。


「出来損ないだけど、強くて役にたちますわ」


 4人が言う。


「然り、故に出来損ないを送ったのも正しいのです」


 意見の一致をみた'姉達'は、満足そうに顔を合わせて笑いあった。

 彼女たちは全員が美しい顔立ちをしていた。

 似通っているが、別々の顔にきちんと見分けがつく美女の顔。

 男なら、いや女でも見惚れてしまう造形だ。

 その美女の顔は、それぞれ長い首で一つの大きな胴体につながっていた。

 巨大な竜の胴体。そこに生える4本の首の上で笑いあう4人の美女の顔。

 これが、竜の宮の'姉達'。

 4本首一胴無翼の海竜である。


 

 

 この時より、東の大陸の東の海の様々な場所で、怪物とも海魔とも呼ばれるモノが出現するようになる。

 大陸の者達は、それが'妹達'というべきものであることを知らない。

 だが、彼女たちの出現は脅威となり、海の平穏を大いに乱していくのであった。


 

 


 そんなことが起きているとは知らないケンカイ達は、某無人島で海姫の雷号の改修が終わるのを待っている。

 彼らの平和な日々はもうすぐ終わるのだが、それは退屈を持て余し始めたケンカイにとっては幸いなのかもしれなかった。

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