あいぼー 2
「アイボー、今日は何匹負かして来たんだい?」
独り言のように俺が呟くと、
彼は食べるのをやめ、こちらを何度かにわけて見る。
「そうかい。流石だなぁ、アイボーは。」
人間、1人の時間が増えると自然と独り言が多くなるものだ。
しかもここまで長い間1人で居ると、わかるはずもない声が聞こえてしまう。
そのせいか、住み着いたネズミを
“相棒”
と呼んで話し相手になっているのだから、相当な重症だ。
ブーブー!!
棚上のアラームが鳴った。
おっと、そろそろ時間のようだ。
アイボーに負けてばかりはいられない。
そう言っても、俺は誰かと競いに行くわけではない。
ただ1人、依頼された仕事を執行しにいくだけだ。
あえて誰かを負かすというのなら、
この荒んでしまった国を、だろうか。
「こいつを殺ってくれ。」
数百万入った紙袋と、
かつては最愛と呼んでいたであろう女性の写真を差し出す男。
「俺は今愛しているやつと幸せになりたいんだ。」
だからこいつを…。
人間の情などとうの昔に忘れた。
いや、この国でまだそんな情を持っている人間が果たしてどれくらいいるのだろう。
男にも、写真の彼女にも、今は同情する気さえない。
“幸せ”…?
そんな言葉、
そんな時間が訪れるはずがないのに…。
薄暗い部屋の中、手探りでいつものバックに道具を詰め込んでいく。
見えなくても全てを完璧に入れてしまうのだから、自分でも対したものだと思う。
ボストンバックのチャックを締め、よっこらせと立ち上がる。
俺もそろそろ歳かもしれない。
「じゃあアイボー、ちょっくら行ってくらぁ~。」
まだ食事最中の彼は、俺に見向きもせず、
その短な尻尾を小さく揺らしていた。
錆び付いた扉が鈍い音を立てて開く。
階段を降りるとネオン街。
今日もいい天気だ。
空も見えぬ淀んだ街に、
俺は1人呟き歩き出した。
それに答える声はあるはずもなく
生暖かい風邪が宛もなく吹き抜けるのであった。
END
。
完結です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。