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生存狂騒  作者: numenume
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第四話

第四話です。

よろしくお願いします。

リラと名乗った目の前の女性についてチミウスは、夕食を恵んでもらった事を抜きにしても好印象を抱き始めていた。


食事をしている相手を凝視するのはマナー違反かもしれないが、リラの品の良い食べ方とこの質素な場とは不釣合いな美しさはチミウスを自然と惹きつけた。


「私は十七歳になるんですけれど、ずっとブレムおじいちゃんに育てられてきたんです。」


あらかた皿に載せられた料理が消えた頃、リラはそれまでの明るい口調から一転重々しく口を開いた。


「私は両親を知りません。戦争で今は消え去った国に置き去りにされていたのをおじいちゃんが見つけてくれてずっと育ててくれたんです」


リラは今にもこぼしそうな涙をそのままにしゃべり続けた。


「だからおじいちゃんが怪我をしてお店を続けられないと知った時、私神様を責めました。どうして幸せを奪われた人からさらに奪おうとするのですか。私がおじいちゃんの幸せを奪ったんだから私が怪我をすればよかったんだって。」


チミウスはぽつりぽつりとリラが言葉を投げ終わりうつむくまでただ黙って視線を下げて語った。


「僕はリラさんとブレムさんの関係をまったく存じ上げませんが、家族の愛がなんたるかは知っているつもりです。そしてあなたという人物の有り様は、愛情を十二分に受けている人のそれに違いないと思います。ブレムさんはリラさんを僕なんかが思っている以上に愛していますよ」


チミウスは心に浮かんだ思いをそのまま口に出したが、リラは顔を上げずに数秒の沈黙の後、ふたたび泣き出した。


「すいません、出すぎた真似をしました!」


先ほどよりもよほど強く泣き出したリラを慰めようとチミウスは焦りながら弁明した。


「違う、んです」


涙と鼻水が入り混じった顔のリラは呼吸の合間に吐き出すように言った。


「ずっと不安だったんです。おじいちゃんは私がお店を一人で守ると言うと嫌な顔をしました。私じゃ助けられないのかなって」


でも、とリラは赤く腫れた目をはっきり開いた。


「力になりたいんです!!いつか、ずっとずっと大切に育ててくれてありがとうございましたって言えるように!!」


リラは姿の見えない祖父にぶつけるようにチミウスの目を見ながら唸った。


チミウスは呆気にとられたが、初めてリルが見せた素の望みにいたく心を打たれ、ここで英雄が取るべき行動はたった一つしかないと自らに言い聞かせて相対した。


「そういうことであれば、今すぐにでも解決できてしまいますね。つまりおじいさんのお店を亡くしたくないリルさんは一人でなんとかしようとしていたがとても手が回らない。人を雇おうにも給金が出せない。ならこうすればいいんです。」


チミウスは椅子から勢いよく立ち上がり、リルの手を取りとりつつ優しく囁いた。


「なんということでしょう。リルさんとんでもないことをしてくれましたね。私の故郷には目には目をという風習がありましてね。リルさんが私に施してくれた食事分の恩を私は返さなくてはなりません。」


立ち上がったチミウスに手を握られたリラはえっ?と声を漏らした。


「ですから私を頼ってください。気に病む必要はありませんよ、あくまでこれは恩返しなんですから。」


「チミウスさんはやっぱりすごい大人の方ですね。私はさっきから泣かされたり驚かされたりしっぱなしです。でも私はあなたに何も返せないんです。受け取ってばかりの女なんです。」


リラが自嘲しながら言った言葉をチミウスは笑顔で受け取ると、テーブルの上を指差した。


「リラさんもやはり筋金入りのお人よしですね。でもうそつきです。あなたが用意してくれた食事はお世辞にも高級と呼べるものではなかった。しかし、振舞われた私の率直な感想を述べさせていただきます。母の料理を思い出したんです。愛のあふれた母の料理を。どうかご自身を卑下なさらないでください。」


リルが口を開いて言葉を発す前にチミウスは畳み掛けた。


「だから、毎日私にリルさんの料理を振舞ってくれませんか?そうすれば私は満足です。」


リルは悔しいとも取れる表情のまま言った。


「朝昼晩のお食事と一番いいベッドの部屋。それは譲れません。」


「ええ、それでは働かせて頂けるのですね?」


今度こそリルは観念したように笑顔でおどけたチミウスの手を握り返した。


明くる日の早朝すっきりとした顔をしたリルと気合の入った様子のチミウスは、二階の加工室に居た。


「それではチミウスさん、お仕事を説明しますね。まずは基本となる板金の加工ですが万力にこうはさんでですね。」


昨夜付けで無事ブレム雑貨店の従業員となったチミウスに作業内容を説明するためリルは実際に加工を実演してみせた。


「なるほど、直角に曲げてから他の板金と組み合わせるのですね」


言葉の端はしに始めて体験するものへの好奇心をかもしながらチミウスはおっかなびっくりやってみせた。


「そうそう。すごいじゃないですか、私の作った物とまるで変わりませんよ!」


自分が始めてこの作業を習った時はとてもではないがまともな物はできなかったのにと世辞ではなく本心からリルは驚いた。


「ありがとうございます。それでこれはいくつ作ればいいんでしょうか?」


「ええと、家具の補強用ですからあと二十六セットつくれば納品できます」


「以外に少ないんですね。それでは作っていきましょうリルさん。」


「板金を何度も加工する手間がありますから、チミウスさんが想像するよりきついと思いますよ。」


会話しながら作業に入り始めたリラとチミウスであったが、一階から野太い男の声が響いた。

「リルちゃーんおるかー?」


声を聞いたリルは思い出したような顔をして、立ち上がった。


「ごめんなさいチミウスさん。今日は月に一回の商品充填の日でした。応対してくるので少しの間お任せしてもよろしいでしょうか?」


「任せておいてください。リルさんが帰ってくるまでに終わらせておきますから。」


軽い口調でチミウスは答え、リルはくすっと笑みを一つ落としながら一階へと降りていった。


「カタラさん、お待たせして申し訳ありません」


リルを二人分重ねたほどの巨体を持つラト族の男、カタラは心配そうにリルを見つめた。


「リルちゃん、どうしたい?二階に誰かおるとか?」


「そうなんです。実はですね。」


昨夜の経緯を説明したところリルの言葉にカタラは時折感嘆しながら唸っていた。


「そげえたいしたやつは、なかなかおらねえな。リルちゃん大事にすっだで。」


「はいっ!本当に優しい方なんです。じっと私の泣き言に耳を傾けてくれたかと思ったらそっと慰めてくれたり。チミウスさんは私のことをお人よしだといってましたが出会って間もない他人をあれだけ気にかけてくれるあの人こそ本物のお人よしに違いないですよ!」


カタラが先月この店を訪れた時リルは体中に不のエネルギーを纏割りつかせていたが、目の前の女性は果たして同一人物なのかと疑念がでてくるほど明るく振舞っている。


リルをこうも変えたチミウスという男は大したやつだと心のそこからカタラは思った。


「じゃあ品物を置いていくでな、チミウスってやつによろしく言っといてくれ。」


「はい。それじゃあカタラさん、お疲れ様でした。」


外までカタラを見送った後リルはすぐさま二階に戻った。


「すいませーん、チミウスさん。遅れました。」


「あ、リルさん。納品分は既に作り終えてますよ。」


リルは冗談で作り終えたと言ったのだと思い、チミウスの隣に立ったが、その体の

影に隠れていた納品物の山に言葉を失った。


「だいぶ前に終わっちゃったので、少し遊んでいました。」


チミウスはいたずらを反省する子供のように頭を下げた。







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