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生存狂騒  作者: numenume
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第一話

第一話です。

よろしくお願いします。

「決めたぞ。やはり間引くほかならん。」  


テムッキ族の栄華を示すため建造された、天にも届かんといわんばかりの巨城の最高部。

静寂に満ちた空間を、玉座に座る男が切り裂いた。


火傷と闘いによる傷跡を体中に撒き散らした、テムッキ族の王、レグーは無数の種族が、蠢くこの世界において、正しく絶対的な存在であった。


虚ろな視線は、眼前の配下一同の間を縫うように落ち着きなく宙を漂う。


レグーから最も近い位置に伏していた、老齢の大臣、アジスが四肢を重たげに伸ばし立ち上がった。


「王よ。あなたがお決めになった事に我等は従うのみです。しかし、どういった方法で、減らしていくべきでしょうか」


最も賢い者に与えられる、翡翠をあしらった長帽子を前後に揺らしながら、アジスは尋ねた。


「決まっている。俺がここに居るように、一族の中で一番優秀な奴だけが子孫を残せるようにすればいい。」


腕を組み、傍若無人にレグーは言い放った。


「委細承知いたしました。お任せください我等が王よ。」


老齢に似合わない鋭い眼光を持ってアジスは答えた。



テムッキ族特有の眼色差異は、彼らの種族内での地位を推し量るために備わった性質であると言われている。


明色から暗色に近づくに連れて、地位は上がってゆくが、面白いのはこれが後天的に成長していくということだ。


上の者を越えればその瞳はより深みを増してゆく。


固まりかけた血液、その表現がおそらく一番ふさわしいであろう目を持つ彼らの王は、この世界を弱肉強食のルールで取り巻いた。












ネノマモ族に対する世間一般の評価と言えば、きっと辛辣なものに違いないと、ネノマモ族の少年、チミウスは物心がつき始めたころから想像していた。


可愛さを惹かれない、柔らかくだらしのない体に、はっきりとしない輪郭。表情から感情を読み取るどころか肝心の表情自体があやふやで意思疎通をするのが困難な種族というのがチミウス

の自己分析である。


「きっと僕が他に種に生まれていたのなら、ネノマモ族なんて毛嫌いしていたろう」


チミウスは昼寝を決め込みながらいつもの日課である瞑想を始める。


「大空を庭のように駆け回るススペガ族もいいけど、ゴラドン族もいいなあ・・・」


想像の中で、チミウスは大地を砕く勢いで突き進む勇敢なゴラドンの戦士であったし、天空を駆け回る優雅なススペガ族にも成れた。


「にいちゃ、あそぼ。」


そうだ、世話を任されてたんだったなと、現実に引き戻されたチミは弟のナンジーと目を合わせた。


オムツが取れてから日が浅い弟の行動範囲は日数を重ねるたびに広くなってゆく。


成長の著しさに喜ぶと同時に、とうとうここまで登ってきてしまったかと残念な気持ちもあった。


この屋根裏部屋を発見した時はそれはそれは嬉しかった。


狭く息苦しさもあったが、それ以上に現実には不可能な、まるで孤高の王のようなふるまいを実行できる空間であった。


少なくとも今さっきまでは。


「しょうがない、ナンジー。貴殿をチミウス国の大臣に任ずる。」


チミウスはナンジーを抱きかかえ語りかけた。


ナンジーは、きょとんとしていたがチミウスが手をかざすと笑顔になり小さなハイタッチを交わした。



チミウスは、はしごをゆっくり下り、就任仕立ての大臣を地に降ろしてやった。


農具置き場の戸を開けると、赤い夕日が地平線をじっくりと焼いているのが目に映った。


「今日の夕飯は何だろうな?兄ちゃん肉が食いたいよ」


食欲を刺激する太陽を尻目に、チミウスは、ナンジーと手を繋ぎながら農具置き場から二十メートルほど離れた自宅に向かった。


「ただいま戻りました。」


先ほどまでの労わりを持った様相から一転、きりっと精悍な声でチミウスは帰宅を告げた。


玄関戸からは見えない位置に在る奥の大部屋へと足を踏み入れたチミはまず、感謝を告げるべく正座をして深くかしずいた。


ネノマモ族は総じて誇りが強く、それは日常でのあらゆるものへの感謝という形で表される。


チミウスは祈りを終えて、チミウス以外の家族全員が席に付いている四人掛けの机の椅子に腰を下ろした。


父の名はウサント、この農場を経営している地主である。


厳しさが最初に立つ人物であるがその裏にはしっかりとした愛情を持ったチミウスにとって尊敬できる自慢の父であった。


母のアンサカは夫の手となり足となり、仕事だけでなく母としても皆を支えている心優しい女性であった。


「どうだ?内で取れたトッテポは絶品だろ。素材が一級品なだけじゃねえ。母ちゃんの凄腕料理術で、この世のものとは思えねえほどうまく調理されてやがる」


豪快に笑い、豪快に食すウサントは、妻を褒めちぎりながら食卓に笑顔を灯す。


ナンジーは笑顔の両親を見てけらけら笑い、チミウスも家族団らんのこの瞬間を料理と一緒に味わっていた。


玄関戸が強く叩かれたのは、丁度机の上の料理があらかた片付けられたころであった。


いぶかしげにウサントは、玄関戸に向かっていき、戸を開けた。


そこにいたのは近隣のネノマモ族の族長でもありチミウスの祖父でもあるオーサであった。


闇夜に染められてもなおここまでは白く染まらないだろうと思わせるほどに顔色悪く、老体に鞭を打って来たのか、がくがくと体を震わせた姿は哀れみを誘った。


「ウ、ウサントよ。大変なことになってしもうた。」


「親父!とにかく中に入ってくれ。」


震える声で語り始めたオーサをウサントは自宅の中へと招き入れた。


母に命じられ、余計な心配をかけないためにナンジーを床へと連れて行ったチミウスは、いったい何が起きたのだろうと気になったが子供が首を突っ込んでいい話ではないと感じ取り、しかたなく眠りについた。


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