祭り特派員 5
「えぇぇ!? 今年の特派員がまだ決まってない!?」
周りを気にせず、携帯電話を使っている男性は大声で驚いた。
『あぁ、そうなんだよこれが』
「こ、これがって、どうしてそこまで冷静なんですか!? 祭りは明日なんですよ!?」
『分かってるよ、だから慌てて連絡してみたけどな、なかなか過去の人達は予定が合わなくてな』
「では、どうするおつもりで?」
『まだ去年の人には電話してないんだ。とりあえずその人にお前が電話してみてくれ』
「はぁ、去年の……他には?」
『それは……お前が足で探してくれ』
「えぇぇ!? 丸投げですか!?」
『そういうことだ。では、健闘を祈る』
「あ、ちょっと、もしもーし!」
しかし、通話は切れていた。仕方なく男性は諦める。
「祭りは明日だというのに……まだ一人も決まっていないだなんて……」
はぁ、とため息を付くが、男性はすぐに気持ちを切り替え。
「……いいえ、諦めてはいけません。まだ期待があるのですから」
携帯を操作し、ある人物へと着信。
数秒して、相手は出た。
『はいはーい?』
電話の相手は、どうやら女性のようだ。
「あ、すみません、今お時間よろしいですか?」
電話先の主へ、低姿勢な口調で男性は話す。
『あれ? あなたは去年の?』
「はい、その節はどうもありがとうございました」
『いえいえー、なかなか楽しかったし』
そんなに楽しんでいただけたとは、と感無量な気分だが、男性は少し言いにくいことを告げる。
「それで……ですね、実は今年もどうかな? とこちらは考えてる所存でして」
『んー? つまり、2年連続で?』
「はい、そういうことなのですが……いかがでしょうか?」
『ふむー……ま断る理由はありませんけど、2年連続とか良いんですか?』
「こちらでは別に、無かった事例ではありません。ただ、願わくば別の方が良いのですけどね」
今だって、誰一人として決まってないから故のお願いだ。
出来れば良い返事を。
そう思っていた男性は、
『あ、じゃあー、うちの弟とかどうです? ルールとか教えられますし』
予想を覆された。しかしそれでも、目的は果たせる……のだが、
「それは願ってもいないことですが……よろしいのですか? ご本人の意志は……」
『なら会いに行って直接聞いて下さい。今さっき出掛けたとこなんで』
「えぇ!? し、しかしですね」
『帽子を被って、多分同い年ぽい女の子と一緒に歩いてると思いますんでー』
「はぁ……わ、分かりました。探してみます」
『はーい、ではではー』
着信が切られた。
「……」
予想外の返答で言葉を失う男性。
だが、再び気持ちを素早く入れ変える。
「帽子を被った男の子と、同い年っぽい女の子……早く探さなければ」
携帯をしまうと、男性は歩き出し、探し始めた。
歩き続けた男性は、帽子を被った男の子と同い年っぽい女の子を……二組見つけた。
「おそらく、どちらかがあの人の弟…………の、筈」
自信は全く無かったが、
「あの二組が、特派員をやってくれれば、今年は大丈夫……」
と、思いたかったのだけれど。
「……やはり、数はいても困りません……よね」
男性は、ある場所へ足を向けた。
明日、祭りが開催されるこの場所、そこに男性は訪れていた。
「おぅ、そこの兄ちゃん」
偶然歩いていた屋台にいた男性に声をかけられた。
日に焼けた、黒い肌の男性だ。
「は、はい? 自分、ですか?」
呼ばれたことに驚き、低姿勢な口調で男性は返す。
「他に居ねぇだろ。コレ今出来たんだが、良かったらどうだ? 試作品だから金は取らねぇし」
「は、はぁ、では、いただきます」
おどおどしつつも、男性はりんご飴を受け取る。
「どうだい? 去年と同じに出来たんだが」
「えっと…………去年は知りませんけど、とても美味しいです」
「そうかそうか、なら良かった」
「……」
男性は、りんご飴を黙って見つめる。
「ん? どうかしたか?」
「…………あの、少し、お話しよろしいでしょうか?」
「どうしたよ改まって」
「あの、ですね……」
「た、ただいま戻りましたー……」
「あぁ、お疲れ様」
男性を出迎えたのは、先刻携帯で話していた人物だ。
「本当に疲れましたよ……まさか今日で決めるなんて、特派員探しを頼まれてから初めての経験です」
「ついうっかりしててな。年間行事だってのに、りんごの発注は忘れなくても、特派員探しは忘れてたよ」
八百屋の主人は、悪びれることなくけらけらと笑った。
「そちらの方が重要だと思うんですが……」
「何を言う、りんご飴は屋台の定番だぞ」
「はぁ…………あ、実はですね、そのりんご飴の屋台をしていた男性にも、特派員を頼んでみたんです」
「え? 祭りの関係者だぞ」
「伝えておきました。高校生くらいの男女を見かけたら、祭り特派員かどうか聞いてみてほしい、それで妙に情報に詳しかったり肯定したり等、祭り特派員をしてると思われる人を見つけたら、その人に任せて下さい。と」
「へぇ、考えたな」
「二組ほどに声をかけ、明日祭り特派員は多くて6人ほどになる予定です……これが、急ご拵えで考え行動した結果ですよ」
「本当に大変だったな、お疲れ様」
「はい……祭り特派員、途絶えさせるわけにはいきませんからね。良い結果になることを、望みます……」
「あ、それとな」
「はい?」
「こっちでも少し動いててな、見つかったんだよ。1人だけ」
op その5