第八話 王都にやっとこさ着きました
進歩しすぎた科学は魔法と区別がつかないのなら、逆に進歩しすぎた魔法もまた、科学と区別がつかないのではないかと思うんですよ。
馬車の運転は基本メイドさんor父さん時々僕で頑張った。
僕は夜中に父さんが運転している時に、少し変わって寝させてあげたくらいだが。
交代するさい父さんがとても渋ったことや、朝早くに目が覚めた母に見られてしまい一悶着あったことは割愛させてもらうとしよう。
そうして丸二日馬車に乗りっぱなしで、やっと王都に到着した時には、着いたばかりだというのに、旅行から帰って来た時のような疲労感が僕たちにはあった。
これだから旅行は嫌なんだ。
その上、これから一週間も自分の家とは違う所で暮らさなければいけないなんて・・・。
まあ決まったことは仕方がない。
「とりあえず、これから私たちが泊まる場所を探しますか?」
「その必要はないわ」
もう決まっているもの、と母は言った。
あれ?
未来と違って遠くの地から宿屋に予約する手段なんてないと思うのだが。
僕が疑問符を浮かべていることを察知したのか、父が補足してくれた。
「私たちが結婚する前、私が住んでいた家がまだあるんだ。当時は王宮で働いていたからね」
え、父さん昔王の下で働いてたの?
初耳なんだけど。
どんな仕事だったのかな。
何でやめてしまったんだろう。
「では、参りましょうか」
メイドさんが鞭を振り、馬車が動き出す。
活気溢れる城下街を抜け、いかにも金持ちの貴族が住んでいそうな屋敷が建ち並ぶ住宅街に入った。
とはいっても、実際に屋敷が見えている訳ではない。
見えるものといえば、他の家との敷地を区分する馬鹿高い塀と、その中に入る為の門ぐらいのものだ。
でも・・・。
「お父様、この家たちの中で実際に家主が住んでいるものはどれくらいの数なのでしょうか?」
「三分の一ってところじゃないかな。大抵は王都に来た時の為の別荘だよ」
でしょうね。
うちも人のことは言えないが。
「それだけじゃあないけどね。以前の私の様に仕事関係の場合もあるし。後は、子供が学園に通っているからという人も多いね。全寮制とはいえ、できるだけ近くににいたいという人も結構いるから。」
「そういえば、魔法学園は王都の近くでしたね」
「もーーーー!」
言い終わる前に母が大声をだし、僕の言葉はかき消された。
何事かと母を見る。
「そうやっていつも私をのけ者にして楽しそうにお喋りする!」
え? そんなに楽しい会話してたか?
キッ、と母は僕を睨む。
「明日は絶対二人でお買い物行くわよ」
「は、はい。仰せのままに」
目尻に涙を浮かべて言われると、逆に気圧される。
返事一つ間違えれば大泣きしかねない。
母は僕の返事に満足したのか、「よろしい」と笑顔で言ってくれた。
思わず見惚れちゃうな。
母じゃなかったら狙ってた。
何をかはあえていわないが。
父さんの方を見ると、僕の視線に気付いたのか、僕の方を向きながら苦笑いした。
僕も苦笑いを返す。
僕も彼も彼女に頭が上がらない者同士。何か通じ合う心があるのです。
彼女の笑顔に見取れてしまう辺りも含めて。
まあ、父さんは僕が見惚れていたこと、気付いていないと思うが。
いやだって、僕は見た目美少女だし。その上娘だし。
まさか、彼も僕が同性の肉親を狙いかけたなんて思わないだろう。
思っていたらドン引きだ。
どんだけ独占欲強いんだって話だ。
女の子ならそれもありだが、野郎はねえわ。マジねえわ。
・・・話が何かおかしい方へとんでしまった気がする。
気のせいということにしておこう。
とにかく、僕も父さんも母が大好きということで。
とか何とか考えているうちに、気付いたら馬車がとある門の前で止まっていた。
ギギギ・・・と、長年使われていなかったのか、開け難そうな音とともに門が開く。
開け終えて戻ってきたメイドさんがまた馬車を走らせる。
荒れた庭の先に見えてきたのは、実家の半分くらいの大きさの屋敷。
半分といっても、元が大きすぎる豪邸なので、この屋敷も大きいのには変わりない。
だが問題は、庭と同様に屋敷も荒れ果てていた。
壁面には蔦と苔を纏い、窓もところどころ割れ、一見廃墟にしか見えない。
これじゃあ中も酷いだろうな。
こんな場所で一週間も寝起きしなければならないのか。
前のとある人生の暮らしに比べれば全然マシだが。
「では、中に入りましょうか」
僕が馬車から降りようとすると、父さんが腕を掴んできた。
「レイン、本気で君はここで一夜を明かす気かい?」
「こうなっていることは予想の範囲内だったのでは?」
数年ほったらかしにしていたわけだし。
「いや、これは予想以上に酷い」
「魔法使いの試験の時には、この屋敷を使わなかったのですか」
試験は確か王の前で行われていたはずだから、少なくとも年一の割合で王都に訪れているはずだ。
「試験を終えたらそのまま家へ直行だからね。お土産以外に寄り道したら殺されかねないから」
誰に、などと野暮なことはきかない。
そんなことをしたら、僕の隣でぽわぽわと微笑んでいる女神がどんな行動を起こすか・・・。
どんな答えを返しても、父さんは確実にどうにかなってしまう。
「それでは、今日の寝床はどうしますか?」
とりあえず母がきいたりする前に話を先に進めよう。
「隣に私の旧友の家がある。彼はこの地に腰を下ろしているから、多分今もその家にいるはずだ。そこで泊めてもらうことにしよう」
「迷惑ではないかしら」
母が珍しく正論を言ってきる。
流石に他人にまであのような態度は出来ないか。
「大丈夫だよ。彼は賑やかなのが大好きな人種だから、客人は快く泊めてくれるよ。むしろ泊まれと命令されたこともあるくらいだよ」
勿論断ったけどねと、父さんは笑った。
なんか、泊まりに行ったら軽くパーティーでも開きそうな人だな。
奥さんはいるのだろうか。
人妻は大好物だぜ。
そういえば、と父さんは言う。
「確か、レインと同い年の男の子も居たはずだよ」
・・・何だろう。
凄く嫌な予感がするのだけど、これは何だろう。
とりあえず、子供が野郎なことに落ち込みつつ、まだ見ぬ人妻の姿に心を弾ませることにしよう。
日本の現代語が魔法世界で使われていることにはつっこまないでください・・・。
次回やっと転生する前の主人公が出てくる・・・予定です。
ご指摘ありがとうございます。
見取れ→見惚れ
誤字多くてすみません・・・