第六話 お父様との交流会・父視点
最近投稿ペースがおちてきた・・・
「・・・お父様」
呟く様にレインは呼びかけてきた。
「何をお考えになっているのですか?」
レインは少し怒っているようだ。
ほっぺたを膨らまして睨んでくる。
レインの怒った顔なんて初めて見た。
それがあまりに可愛くて思わず頬を緩めてしまう。
「何を、とは?」
分かりきっていることをきく。
「決まっています。さっきのあの魔法をことです」
あれは・・・。
「少しやりすぎてしまったね」
もう少し弱くするつもりだったんだけど。
久しぶりだったから力加減が難しくて。
「少しどころじゃないですよ」
可愛らしい困った顔で言われた。
ごもっとも。
「まあなんとかなったからいいじゃない」
さっきのことを思い出す。
ハッハッハッ。
凄すぎるにも程があるよ、この子の魔法。
「ねえ、れいん。あれは本当に魔法なのかい?」
尋ねると、レインは表情はいつもどおり微笑んでいるが、青くなったり赤くなったりしている。
大丈夫かと思っていると急に彼女の唇が開いた。
「文字通り、煮るなり焼くなり好きにすればいい」
「は?」
この子は本当に大丈夫なのだろうか。
いきなり訳のわからないことをいいだした。
心の声が口に出たのか?
口調などが全然違う。
やはり今まで皮を被っていたのか。
「今のは忘れてください・・・」
耳まで真っ赤にして俯いている。
・・・可愛い。
この子、素のままの方が子供っぽくないか?
思わず笑みを零してしまう。
「レイン」
呼びかけると彼女は顔をあげた。
世界一可愛い私の娘の顔を見つめる。
まだ少し動揺しているようだ。
「深呼吸」
言うとレインは目を閉じ小さく深呼吸をし、目を開けた。
その目にはもう動揺の色はない。
よし、これで冷静に会話ができるな。
「君はたびたび迂闊な行動や言動をするよね」
「例えばどのようなことですか?」
無自覚か。
「教えてもらってないはずの言葉を知っていたりかな」
「はめたんですか?」
レインが睨んでくる。
睨んでも可愛いな。
「ごめんね」
私は肩を竦める。
こんな時に、君が勝手にはまっただけだよなんて言ったら絶対に敵視してくるよね。
彼女は溜息をついてから言った。
「どこで私が変だと思ったのですか?」
どこ、か。
それはやっぱり・・・。
「君が人より早く会話したり歩いたりできるようになった時かな」
「ですがあれは、不可能というほどの時期ではなかったでしょう?」
覚えているのか、そんな小さな時のこと。
いっても一年半だが、まだ物心がつく前の出来事。普通覚えているものだろうか。
しかも、彼女の言い方的に怪しまれない時期を計算していたようだ。
閑話休題。
どうやら私の言葉がたりず勘違いされてしまったらしい。
「いや、それ自体に疑問を持ったんじゃなくて、その後の天才って言われた時の反応がね」
ああ、とレインが納得したように声を漏らした。
やはりこちらも覚えているか。
この子はいつくらいから知性があったのだろう。
「喜べばよかったのでしょうか・・・」
何やら反省会を始めてしまった。
一応助言をしてあげよう。
「いや、天才という言葉の意味が分からないというような反応が自然だと思うよ」
とりあえず彼女の疑問には答えてあげる。
すると、レインは少し難しい顔をして考え事をし出した。
そして突然、
「貴方は何者ですか?」
などと言い出した。
・・・。
「え?」
それは本来私のセリフなのでは?
それに、この質問に私は何と答えればいいんだろう?
何者とか聞かれても・・・。
「普通の中流貴族だけど・・・?」
他になんと答えればいいんだろう。
「どのよな仕事をなさっているのですか?」
「ああ」
職業のことが聞きたかったのか。
「魔法使いだよ」
何故かレインが鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている。
私は何か可笑しなことをいったか?
「それはどのような仕事なのですか?」
今度はこちらが驚く羽目になった。
「驚いた。君にも知らないことってあるんだね」
この子は何でも知っていると思っていた。
何でもは言い過ぎだが、常識レベルの知識は全てあるとばかり思っていた。
でも何だか少しホッとした。
「まあ言ってしまえば軍人かな。戦争が始まれば真っ先に戦いに行かされる立場だよ。その代わり何もない時は家でのんびりしながら国から給料が貰える。一年に一回目の試験で腕が落ちてたら減給もしくはクビだけどね」
腕が上がっていたり新しい魔法などを開発していたりすれば給料がアップや昇格できたりもするからいいけど。
でもなかなか・・・。
まあそんなに簡単に強くなれたら誰も苦労はしないんだけど。
さて、そろそろ・・・
「私からも質問していいかな」
まさか自分が質問される立場になるとは思いもしなかった。
今まで得体の知れない感じで少し怖かったのだが、蓋を開けてみれば案外子供っぽかった。
得体の知れない存在なのは変わらないけど。
「どうぞ」
彼女の許可を得てから口を開いた。
「まず、あの魔法は何だい?」
「何と言われましても・・・。少し水の量を増やしただけのただの水魔法ですが」
「うん、あの量は凄かった。威力も凄いし。君は凄いねえ。どんな魔力料をしているんだい?」
思い出しただけで鳥肌が立つ。
実を言うと、あの時私は恐怖した。
それを『ただの』とは。
本気の半分も出していないかのような言い方だ。
実際そうなんだろうけど。
「えっと・・・。質問とはこれのことですか?」
あ、話が逸れてしまった。
「いや、ごめん。ききたいのは魔法陣のことだよ」
「魔法陣?」
私が何を気にしているのか心底分からないという顔わをしている。
この子にとって手を使わずに魔法陣描くことは至極当たり前のことらしい。
最近思うんだけど、私と彼女の価値観はかなりずれている。
ここまで常識を逸脱した存在ならば仕方のないことなのかな。
「手を使ってなかったよね」
やっと彼女は納得したようだ。
「魔法陣を描く時、お父様は指に魔力を集中していました。しかし私はそれを空中に集中したんです」
「ごめん、よくわからない」
申し訳ないけど、何を言っているのかわからない。
いや、言いたいことはわかるんだけど、本当にそんなことが可能なのかな。
すると、私の説明の仕方を真似したのか、実践しだした。
私がしたように指に魔力を溜めた。
「これを空中に飛ばします」
本当に出来るのかなと思って見ていたら本当に宙を飛んだ。
しかも簡単に。
凄いな・・・。
まるで生き物のように空を飛び回っている。
「この玉を操って魔方陣を描くんです」
まあこれなら確かにできそうだ。
でも・・・。
「一つ質問いいかな」
「何でしょう」
魔力の玉を眺めながらいう。
「こんなに小さい魔力の玉だと魔力が足りないんじゃないの?」
「 はい。ですから実際に描く時はもっと大きくします」
「ふーん」
まあそれはそうか。
実際に魔法を使わないのに使うときと同じ魔力を使うなんて勿体無いもんね。
ああ・・・。
私もできるようになりたいな。
もしなれば魔法の使い方の幅も広がる。
でも。
「ねえ、やっぱりそれって、できるようになるまで凄い年月が掛かるよね」
「そうですね・・・。才能などにもよりますが」
才能か。
できるようになったのは老人になってからとかは何としても避けたいところだ。
「もう一つやり方があるのですが、もしお父様がなさって見る気があるのでしたら、多分こちらの方がやりやすいと思います」
本当に?
「こちらはお父様のやり方の応用のようなものです」
ビシッと彼女の指が前方を指す。
ちなみに私は今彼女に横に立っているので、私が指さされたことにはならない。
そしてその指の先に玉のようにたまった魔力がまっすぐに伸びる。
「長い指になるような感覚です」
何だか気持ち悪い。
「これで魔力だけ動かして描きます」
その長い指が蛇のようにニョロニョロと動く。
気持ち悪い気持ち悪い。
と思っていたら、先端がさっき飛んでいた玉のようになって、指と玉を、一本の見えないほどに細い紐が繋いでいる形になった。
なるほど。これが最終形態か。
こちらはまだ難しそうだけど指みたいな方は頑張ればいけそうだ。
でも、今更だが、わざわざ指で描かないことに何か意味があるのかな。
はっきり言って魔力を伸ばしただけだし。
集中力を無駄に使うだけではないのかな。
「私の説明分かりにくかったでしょうか」
私が難しい顔をしていたからか、心配そうに尋ねてきた。
「いや、そうじゃなくてね」
学校などの講義ほどではないが、三歳時には不自然な程上手い教え方だった。
この子実は三歳ではないんじゃないか?
私の目の前で生まれたんだからそんなはずはないけど。
まあそんなことは今はいい。
「何で指から魔力を放すんだい?」
「人間が身体でできる速さや正確さには限りがあります。ですが、魔力だけならば想像したスピードや魔法陣の形をそのまま現実にすることができます」
ほー。
それは凄いな。
ゆっくり描かないと魔法陣を描けない私にはありがたい。
どうしても身に付けたい技術だ。
それに、どれだけ想像力があるかが問題ということは、イメージトレーニングを頑張っていればあり得ないほどのスピードを出しそうだ。
ん?
「そういえば、レインは普段魔法陣の書き方、どちらをつかっているんだい?」
話しが急に戻ってしまったが、レインはきちんと理解してくれたようだ。
「時と場合に寄りますが、基本後者のほうです。わざわざ魔力計算しなくてすみますし、その分速く出来るので。前者は、自分のいる位置から離れた場所で魔力を発動する場合や、先ほどのように魔法の規模や強さを制限したい時に使います」
あ、さっき使ってたのは前者だったのか。
ではやはり全力ではなかったと。
少し興味が湧いてきた。
「一度本気で描いてもらっていいかな」
「はい」
どれくらい速いんだろう。
彼女の描く姿を少しでも捉えてやろうと思いながら彼女を見つめる。
彼女は手を前に出した。
その時には既に魔法陣があった。
まるで、ずっとそこに存在していたかのように。
・・・え?
本当に描いたのか?
少しでも捉えるなんてとんでもない。
私ならば、どれだけ頑張ってもあの刹那よりも短い時間に魔法陣を描きあげる想像など出来ないだろう。
しかし、もしこれに近いことができるようになれば・・・。
そして・・・。
「これを広めたら・・・これを広めたら、魔法はすごい進化を遂げるんじゃないかな・・・」
「そうですね」
もしかすると、自分は魔法の進化の手助けをできるかもしれない。
魔法を使い研究する者としてこれ以上の喜びはない。
実際に広め名を売るのはレインになるだろうけど、少しでも手伝えることがあれば手伝いたい。
これは必ず何百年、何千年後にも受け継がれるであろうことなんだから。
「お父様、広めるとは厳密にはどのようになさるおつもりですか?」
とりあえずレインのでしになるかな。
娘が師匠というのも変な話だけど、この子が相手だと不思議と嫌ではない。
その後は・・・。
「そうだね。魔法学園の先生にでもなるかな」
広め方としてはこれが無難だろう。
レインもいつか教師になることになりそうだ。
「学園に就職出来る可能性は低いけど・・・国王にこのことを言えばお許しになってくれるだろう」
「学園以外ではいけないのですか?」
やはりり常識が少しずれている。
まるで違う時代の人間みたいだ。
「魔法の学習機関はこの国ではあそこ一つだけなんだよ。レインもいつか通うことになるね」
初等部は魔力のコントロールだけだから、レインは中等部からになるだろうけど。
「お父様。私には魔法を学ぶ必要はありません」
確かに必要ない程の実力が持っているけど。
「でも、魔法学園を出ていないと魔法を使えると認めてもらえないんだよ」
だから人に魔法を教えることもできない。
彼女が手を使わない魔法陣の描き方を広めることがかなわなくなる。
「あ、そうそう」
そういえば一番ききたかったことを尋ねるのを忘れていた。
「最後に君と全く同じ質問をするよ」
ちょっとした悪戯心がめばえ、彼女の言い方を真似てみることにする。
「貴女何者ですか?」
レインはこの質問わされるのをわかっていたらしいく、余り慌ててはいないようだが、うんうん唸って困っている。
どうやって誤魔化すか考えているのかな。
「まあ、言いたくないなら言わないでいいよ」
本当の事を言ってくれる確証もないし。
むしろ優しくした方が信頼して話してくれるようになるかもしれない。
「君がどんな存在であっても、私の可愛い可愛い娘であることには変わりないからね」
レインは目を潤ませながら、こちらを見つめる。
「いつか、君が自分の秘密を打ち明けられる人に出会えることを祈っているよ」
彼女は涙を滲ませながら、幸せそうに微笑んだ。
結局レインは打ち明けてくれなかった。
でも、レインが私にとてもなついて、ヒヨコのように可愛らしく後ろついてくるようにかったから、結果オーライということでいいよね。
一応、主人公は口調が少し乱暴で、お父さんは少しやわらかいはずなんですが、ごっちゃになってしまいます。
ご指摘ありがとうございます。直しておきました。
不自然と→不思議と
優しくした方→優しくした方が