プロローグ
はじめましての人もおひさしぶりの方もこんにちは!
妄想だいすきバカな作者です!
このたびはこんな小説に目を通して下さってありがとうございます。
まだ前書きですがね。
最後まで見てもらえれば幸いです。
では、あとがきでお会いしましょう!
・・・。
――時は、満ちた。
今こそ、我が千年の悲願・・・。
偽神の創りしこの不完全な世界に終止符を打つ。
あと少し・・・。
あと少しだから・・・。
――だから、もう少しだけ待って・・・。
きっと、もうすぐだから・・・。
偽りの世界を憎んでも、
私のことは忘れないで・・・。
暗闇の中で一人祈る――。
☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆ー☆
『何故お前は生まれた。
産まれるべきではなかった。
生きるべきでもない。
死ぬべき、生きることが罪な存在だというのに・・・』
幾度となく聞かされた。
自分の兄は過保護と呼べる程溺愛していたくせに。
何故ボクはダメなんだ。
どうして兄は赦される。何故ボクは毒を飲まなければならない。
どうして兄は普通に食事をしている。
何故ボクは殺されかけなければならない。
どうして兄は、親は人はのうのうと生きている。
何故ボクは苦しまなければならない。
どうして、コロシテハナラナイ?
――この手を血で染めたのはいつのころだったろう。
指を流れる赤い血を眺めながら、
ボクはふとそんなことを思った。
それは、初めて刃物を握った時。
そう、確か小学校の、
調理実習の時だ。
初めて扱ったナイフで指を切ってしまった。
その時は、誰かがボクの左の人指し指を懐抱してくれたんだったな。
「高校生にも成って、情けない・・・」
今ボクは自宅――ではなく三船叔父さん宅の台所前で右の人指し指に絆創膏を張っている所だ。
叔父さんは仕事で、
今日は帰らないそうだ。
「そんなことないよー、
おにいちゃん」
隣で四分の三ほど切り残してしまった人参を切りながら、
妹の怜嘩がフォローを入れてくれた。
「わたしもまだまだへたくそだし」
照れたようにてへっと笑うが、
歪な形の人参が、怜嘩の手元で、
軽やかな音と共に綺麗な桜形に成っていく。
「兄の傷を広げるな・・・」
「? おにいちゃん、怪我ひどいの?
見せて・・・」
心配そうな怜嘩の顔が、
人参からボクに向き直った。
「心の傷だから見せられん」
真顔でそう告げると、
怜嘩は一瞬きょとん、とした後、
少し笑った。
「えー。
おにいちゃん、冷たいのー。
わたしが治してあげるのに」
気持ちは嬉しいが余計傷が増える。
「いいから、速く飯作るぞ」
口元で微かに笑いながら、
ボクは炊飯器を操作する。
・・・あー。
これどうやるんだっけな・・・。
操作に手間取っていると、
「おにいちゃん・・・ありがとね」
「ん・・・。どうした急に」
いきなりお礼を言われた。
「わざわざ帰って来てくれて」
「ああ・・・」
ボクは苦労して炊き込みを開始させた炊飯器を眺めながら、ぼんやりと頷いた。
「たまにはな。こんな災厄日でも、可愛い妹と夕食を共にするのは悪くないさ」「あはは。可愛いなんて、
思ってもないくせにー」
「・・・む。本心だよ、本心」
まな板の上で野菜がどんどん刻まれていく。
包丁捌きはプロ並みだ・・・。
しばらく見ない間に、
大きくなったな・・・。
と、娘を見守るオヤジみたいなことを考えながら、
ぼんやり怜嘩の綺麗な指先を眺めていると、
あんまりじろじろ見ないで、
と怒られてしまった。
ますますむさいオヤジみたいだ。
ただ違うのは、婿の心配をしないところか。
「おにいちゃん、お鍋とってー」
「おう」
やることが無くなってしまっていたので、仕事が回ってきたぞ、と
意気揚々に棚を開けると、
色々な種類の鍋がなだれ込んできた。
・・・うーん。
「もう、ちゃんと閉まってて、って言ったのにー」
「・・・ごめん」
わざわざ無理いって手伝う必要は無かったな。
と後悔。
・・・。
「おお、これは旨いな。
店が出せるぞ」
と、怜嘩の作ったカレーライスを絶賛する。
「もう、店なんて出せないよ。
市販のルーだよ?」
「それもそうか・・・」
兄よりもできた妹である。
湯気だつカレーを頬張り、
もぐもぐ食べる怜嘩。
小動物みたいだ。
「・・・」
・・・会話が途切れた。
別に、悪いものではないのだが。
「・・・本当に、カレーで良かったの?」
申し訳なさそうに口を開く怜嘩。
「カレーが、良かったんだ」
特に中辛の、このバーマンドカレーが好きだ。
「おにいちゃんがいいって言うなら、いいんだけど・・・」
口ではそう言うが、
どうにも納得できないといった感じだ。
「せっかくの誕生日なのに・・・」
「・・・。いいんだよ。
カレーが好きなんだから」
がつがつと、皿に盛られた残り半分を一気に平らげる。
「・・・うん。旨かった。
たまには帰るもんだな」
心の底から思う。
それが解っているのだろう、
どこか安心したように微笑む怜嘩。
「・・・いや、しかし旨かった」
再び褒める。
そう?と少し恥ずかしそうに身をよじる怜嘩。
それを見て思う。
「・・・気が変わったぞ。
怜嘩、しばらく嫁には行くな」
「ふぇ?」すっとんきょうな声を出す妹。
しかし頭がどうにか理解したようで、赤くなりながらも、
手と頭を一生懸命横にブンブン振っている。
「え、ふぇ?あ、どういう?」
理解しつつも完全にパニック状態に陥っている。
それが可笑しくて、
追い討ちをかけることにした。
「いやなぁ・・・。
このカレーが食べられない、
しかも他の男が、
この怜嘩特製あいじょーたっぷりカレーを食らうのかと思うとおとーさん悲しくて涙が出てくるから」
「・・・」
怜嘩の表情が固まる。
流石に、弄りすぎたかな、
と反省しつつ、
さて如何様にして謝るかと思考していると、
「あ・・・あああ・・・」
わなわなし始めていらっしゃられた。
・・・OK、爆発寸前だ。
既に時遅し。
・・・冷静に判断している場合でもないな。
一体どうなるのかと
恐ろしさに身構えた目の前で、
「あ、愛情なんて、そ、そ、そんなに込もって、な、ないんだからーーーっ!!」
と叫んで脱兎の如く素早さでリビングから駆けて行った。
・・・そっちか。
怜嘩、ツンデレ路線で攻めるのか。
しかもそんなに?
少し込もっているのか?
ま、いいか。
・・・。
・・・ボクは背もたれに、ゆっくりと体重を預けた。
・・・怜嘩のいう誕生日。
怜嘩も、あえて触れなかった、
今日という災厄日。
今日で、家族を失った、
あの狂気的殺人事件が起きて調度十年が経つことになる。
東京国立博物館での、
大量虐殺。
犯人は未だ捕まっていない。
だが、犯人と思わしき人物はいる。
いや、『居た』と言うべきか。
事件当日、刃物と銃を持っていた『彼』は、
『首を失った姿』で見つけられている。
博物館内、偶々そこに居合わせた、
ボクと怜嘩の目の前で。
あの日の事は、
あまり覚えていない。
何故ああなったのかも、
何故怜嘩以外の家族が、
他に来ていた客が死んだのかも。
・・・ただ唯一。
唯一はっきりと覚えているのは、
あのとき握ったもの。
怜嘩の小さな左手と――童子。
七歳だった少年には余りにも不釣り合いな、刀。
――銘、童子切・・・安綱。・・・。
「――ね、おにいちゃん」
リビングの、
少し開けたドアの向こうから、
怜嘩が声をかけてきた。
「どうした?」
「今日は泊まっていくよね?」
少し期待するような声。
もじもじしている気配もする。
だが、申し訳ない。
「・・・悪い怜嘩。
兄は帰るつもりなんだ」
だいたい、着替えを持ってきてすらない。
「あー、そうなんだ・・・」
きっと今、目が泳いでいるに違いない。
平静を装っているのだろうが、
声に含まれている残念そうなところも隠しきれていないぞ、怜嘩。
「というか、なんでこっちに来ないんだ?」
一瞬、狼狽える気配。
「う、うん。あのね、いつもの癖で、お風呂に入ろうとしてね・・・」
恥ずかしそうに語る怜嘩。
相変わらず可愛い奴だと思ったが、
「それがどうかしたのか?」
見当がつかない。
風呂に入る前にリビングに入るなって法律でも出来たのだろうか?
「あ、あのね、途中でね、
おにいちゃん、今日はどうするのかなー、って思いだしてね、それでねっ」
あたふたと、何やら幼い子が言い訳するみたいに話す。
だからなに・・・って途中?
何の途中?
こっちに入れない理由で・・・。
嫌な予感が脳裏を掠める。
・・・まさかな。
「服を着てない、とか?」ははは、と自分で笑う。
・・・笑えないか。
いくら怜嘩でも、ないない。
当然表情は見えないが、
怜嘩も無言だ。
「・・・お」
微かに、何か聞こえた。
・・・お?
「お嫁さんに行けない・・・」
ボクは椅子から転げ落ちた。
なるほど。
全てを語る、
これ以上ない返答だ・・・!
「怜嘩・・・、速く服を着ろ!
いや、やはり先に風呂に入れ・・・!
叔父さんが帰ってきたらどうすんだ・・・!」
「ふぇ?」
矢継ぎ早に喋ったせいで、
よく理解できていないようだ。
くっ、今すぐ風呂に投げ入れて教え諭してやりたいがそれは出来ない・・・!
服を着てないのだから・・・!
「お、叔父さんが帰ってきたら、ダメなの?」
惚けたことを・・・!
「ダメさダメに決まってる!」
このまま叔父さんが帰ってきたら、確実にボクは変態だと思われる・・・!
普通に考えろ。
貴様が仕事に疲れて家に帰ってみら、兄の居る部屋の外で妹が産まれたままの姿で以下略!
・・・いや待て、冷静になれ。
取り乱すな・・・。
確か、叔父さんは今日帰らないと・・・。
『――ただいまー』
帰ってきやがった・・・!!
何故だ!
神はボクが嫌いなのか?!
このままではボクの体裁はズタボロだ・・・。
なんとかせねば!
「怜嘩、速く風呂場に!」家の構成上、見つかることはないはずだ・・・!
「ぱぱお帰りー」
どてどてと玄関に向かう、
ボクの体裁の崩れる音が聞こえた・・・。
あれからボクを変態鬼畜非道男と罵る叔父さんに事情を説明し、
どうにか状況を飲み込んでもらった。
ボクの顔を見て満足したらしく、
今は風呂に入ってもらっている。
見送りをさせるのも、申し訳ないから。
しかし・・・。
「まったく、怜嘩にも困ったものだ」
「むぅ・・・」
膨れっ面を作る怜嘩。
だが自分に非があると解っているからだろう。
しょんぼりとした表情になり、
俯いてしまった。
ボクは苦笑しながら、怜嘩の頭をポンポンと軽く叩く。
「はは。ま、怒ってないから安心しろ」
「・・・ほんと?」
ボクを見上げる怜嘩を、
濡れた子犬みたいだ。
と思った。
「ああ、怒ってない。
・・・じゃ、帰るな」
地面に置いておいた細長い荷物を担ぐ。
「うー、ほんとに帰るちゃうの?」
まだそんなことを・・・。
聞き分けの悪いやつだ。
再び苦笑。
「嘘ついてどうする。
帰るったら帰るんだよ。
・・・三船叔父さんに、よろしく。
・・・あと風邪引くなよ?
夜更かしせずに速く寝ろよ?
勉強も良いが体調管理を大事にな?」
ボクはこいつのお袋か。
「うん、ありがとう、おにいちゃん」
そう言って、にっこり笑う怜嘩。
・・・ふぅ。
「じゃあな・・・」
もう一度頭に手を乗せ、
一度撫でてやる。
あんまり居過ぎると、
帰れなくなるからな・・・。
ボクは三船宅に背を向けた。
「――おにいちゃん!」
ボクは振り返らない。
「いつでも帰ってきていいからねーっ!」
・・・。
右腕を上げて、ぶらぶらと振った。
多分、もう帰らない・・・。
生涯のお別れは言えなかったが・・・。
怜嘩。
お前にも、いつか世界が見えるさ・・・。
この理不尽で、
偽りと穢れに満ちた世界が・・・。