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FML2  作者:
3/5

Sad sad kiddie

 俺はこの世界が極めて平和で、限りなく争いから遠い世界だと思い込んでいたらしい。


 何故そんな事を思い込んでいたんだろうか?

 決まっている。俺達は普段そういう血生臭い争いとは無縁の場所で暮らしているからだ。一見平和に見えても世界の何処かでは鉛玉に晒される日々を送る子ども達がいるし、そんな世界が日常になっている人々がいる。そう、自分がただ世界は平和だと思っていてもそういう世界は確かに存在している。


 そして今日は俺がそんな世界に初めて足を踏み入れた日となった。


 始まりは今から数時間前……。










.










---------------










 5日、実に5日戦い続けた。


 周りを見渡すとそこは地獄絵図と呼ぶしかない光景である。うつ伏せになったり、天を仰いだまま、今はもう言葉を発する事を出来ない少年、そして少女達。

 決して賢いとは言えないようなやり方だが、それでも彼らは絶望から逃れるために抗い続け、1人、また1人……散って言った。


 この世界に住まうほとんどが、苦しみ、怨嗟の声をあげている。が、しかし、別に楽しみにしている者も、確かにこの世界には存在していた。


 俺はお前とは違うんだ、と苦しむ者を蔑み、見下しながら、淡々と作業のように目の前の敵を片付けていく者。

 もっと頑張りなよ、ともう口も開けぬ弱者を憐れみながら、心の中では俺はお前より上なんだよ、と優越感に浸る者。

 あるいは他者なんて関係無しにこの狂宴を楽しむ者、普段から刃を研ぎ続け、それを存分に振るう機会を得て歓喜している者もいるだろう。

 そしてもちろん、個々の理由でこの場にいない者にとっても、普段と変わらぬという点で良い日なんだろう。



(全く……やってらんねぇっての)


 大部分の苦しむ側、滝沢はその中にいた。

 この世界に来てまだ何も分からないような状況で戦う事を余儀なくされた彼が、戦いを楽しむ少数になる事など、無論出来る筈がなかった。

 それでも必死に戦いはした……が、死後の世界でも体力の限界はある。夜も休まず戦い続けた彼の腕は、既にその力を失ってきていた。 それほどの重量がなくとも、同じ姿勢を長時間維持するという事自体、筋肉を酷く痛めつける行為なのだ。


「へへ……俺、頑張れたよな……?」

「ああ、だから寝ちゃだめだ……!寝たらそこでお前終わっちまう……!」


 周りを見渡せばそこにいるのは、悲痛な印象をうける表情を浮かべる、名も知らぬ戦友達。彼らははどこか諦観を覚えたような、残酷なまでに安らかな笑みを浮かべて最後の時を待っていた。


 ……彼らを見ていたら思わずにはいられないだろう。

 どうして世界はこんなにも彼らに理不尽な目にあわせるのだろう、と。










.










 だが太陽が沈んでも必ずまた昇るように、苦しみに満ちた世界もいつかは終わり、闇に満ちた世界は週末を迎える……(誤字にあらず)。










.










「よっしゃァッー!!テスト週間終わったァ!」

 滝沢は食堂で腰をおろしながら、すっかりかたくなった体を伸ばす。


 いやーこっちの世界に来た翌週からテスト週間とかふざけてるとしか思えんわマジで……。

 まぁ何はともあれ無事 (……?)に終わってよかったがな、と滝沢は椅子を倒れるんじゃないかというくらい傾けて天を仰ぐ。



 テスト週間--月曜から金曜まで行われる学生にとっては悪夢のような一週間。死後の世界である、此処……天上学園でもそれは存在する。死んでまでこういう世界にしてくれた神様には惜しみない硝酸と恨み辛みの言葉をかけてやりたい。いつか死ねばいい。


 ……でももしかしたら? これは学生として、弛みきった生活を送ってはいけないよ、という神様からの慈愛に満ちた贈り物なのかもしれない。そう考えると神様への思いを改める必要があるかもな、うん。それでもやっぱり死ねばいい。

 というか一般生徒--NPCもこのイベントに好意的な奴は少ないあたり、神様が学生の事情を分かってないのか分かってるのか疑問である。ああ、それとも分かってやってるのか? いよいよもって死ねばいい。






 滝沢が長々とアホな事を考えていると、顔を上に向けたせいでがら空きになった喉に思い切りデコピンを叩き込まれた。

「グフォッ!?」

 かなり変な音が出たが、生徒達の声で溢れかえる食堂、そのざわめきにすぐ呑みこまれたようで、滝沢はなんだか少しホッとした。

 ……なんでホッとしてんだ。

 というか誰なんだ、こういう事するのは。自慢じゃないけど俺の友人は少ないわけで、数は限られるが。


「よぉ」

 というか両手程しかいない知人のうち、こういう事するのは2人だけだ。


「……なんだひさ子か」

 叩かれた喉をさすりながら恨めしげに、声の主にジト目で睨みつける。


「あたしもいるんだけど」

「犯人は、って意味だ」

 今度は岩沢にジト目で睨まれた。拗ねるような、子どもが蚊帳の外に置かれた時、自分の存在を主張するような不機嫌さだ。




 岩沢とひさ子、あと関根と入江。彼女らと会って、まだ1ヶ月も経っちゃいないが……俺は再び日常を取り戻し、何事もないかのように過ごしてきた。

 変わった事と言えば彼女らと共に好き勝手やる事が増えたくらいだろうか? 毎晩ヒーヒー言わされたおかげで今では俺も半人前のギタリストだ。 おまけに腱鞘炎という親友まで作ってもらって、本当に彼女達には感謝しないといけない。

 いや、冗談はおいておくとして感謝はしているが張り詰めた糸を緩めさせて欲しいとも思う。


「つかずいぶん疲れてるようだけど?」

「……滝沢さんはテスト頑張ってたんだよ」


 目を閉じると脳裏に浮かぶあの景色。

 思い出すぜ……あの血の滲むような努力の日々を……








---------------










ジャジャッジャジャジャッジャ


「おい滝沢、この問題解いてみろ」


ジャジャッジャジャジャッ……


「はい? あー、ちょっと待ってくださいな……っと、y=274/13ですか?」

「正解だ、よく暗算で解けたな、とほめたいが……」


ウシ……ジャンジャンジャーン ジャンジャンジャーン


「授業中にギターを弾くのは止めないか。そういうのは休み時間に……というか放課後にやりなさい」


ジャンジャンジャンジャン ジャンジャン


「……お言葉ですが先生、放課後はまた練習がありまして……


それに休み時間に休むとしたら必然的に授業中しか練習する時間がないんです!」

「廊下に立ってなさい」

「はい……」










.










ジャジャッジャ

「滝沢! お前グラウンドに立ってろ!」










.










---------------










「お前がそれをテスト勉強頑張ってるってんならナマケモノだって日々を精一杯生きているって言えるぜ……」

「ひさ子、ナマケモノだって頑張って生きているんだぞ?」

「そーだそーだ、頑張ってんだよー」

「うるせぇ、岩沢もいらん弁護しなくていい」


 全否定とかひさ子ひどい。

 そうは思っても大体あってるので滝沢はこれ以上の口答えはやめておく。誰だって無駄にアザを作りたくはない。







「----で、そういや何の用だ? 今日と明日は練習休みとかじゃなかったか?」


 だいぶ話がそれて迷子になっていたが本題を切り出しておく。

「いや、明日はやるよ?」

 ……関根め。


「----実は今度からライブ手伝ってくれるって奴らがいてさ。教えとこうと思って

……何て言うんだっけひさ子」

「死んだ世界戦線」

「そう、その死んだ世界戦線のゆりって奴が手伝ってくれる事になったんだよ」

 へぇ、と小さく相槌を打つ。

 しっかし親切な人もいるもんだなぁ、機材の準備とか何やらで相当面倒なのに。


「代わりに余った食券をくれって言ってたからOK出したんだ」

 やっぱりそんな露骨に親切な人なんていないよなぁ……。あ、食券ってのは……俺達がライブとかすると一般生徒達がチケット代わりって言って置いていくんだな、これが。正直使い切れない程置いていくもんだから人手の少ない俺達にとって良い条件だと言える。




「まぁそれだけなら何も問題ないな」

「でもそれだけなら明日でも良かったんだよね……」


 ……?岩沢は何やら目線を宙に泳がせている。はて、どうしたんだろうか。


「向こうもちょっと男手が欲しいみたいでさ……」

「おい、まさか……」

「悪いが頑張ってくれ。早速だけど今日から」







 ……






 …………







 ああ、それから本当に、重ねて言うが本当に、大変だった。

 すったもんだの末に、とりあえず渋々了承。まずこの選択を下した時点で誰か俺を褒めてほしい。


 んで、俺は岩沢に連れられて戦線? が拠点にしているらしい校長室に向かった。部屋に入るといつぞや屋上から降ってきた男 (日向というらしい)と、男を蹴り落とした猟奇的な女、ゆりが待ち構えていた。岩沢から話は、もとい通告は受けていたが揉めた。

 まず俺がなんで手伝いなんかしなきゃいけないかって事で揉めて、さらに天使と戦うためにだの意味不明な理由を聞かされて更に揉めて、「まぁまぁお二人とも落ち着いて~」とか脳天気な声で話しかけてきた日向を窓の外に2人で蹴り飛ばして。


 そんなこんなで揉めに揉めたが結局、岩沢のお腹が空腹を訴えだしたので、ライブだけじゃなくなんかあったら相互協力、って事で話を落ち着かせた。


 ……色々酷い女だった。人間見てくれだけが全てじゃない。

 そしていつの間にか部屋に戻ってきていた日向から「頑張れよ、俺も頑張るから」と、何故か哀愁を漂わせる激励を受け取った後、なんかイラッときたのでまた蹴り落として、よろよろと2人で部屋を後にした。

 ……いや、しようとした。



「あら、岩沢さんから聞いてないの?」

「あ? 何をだよ」

「今日から手伝ってほしいって」

「…………」










 ……説明終わり。冒頭に戻るとしようか。

 未だ手に馴染まない重さを弄びながら、やり切れなさについため息を吐く。


 そして俺は、満月をバックに、眼前でこちらを見据える女に冷たく光る銃口を向けた。

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