月曜日の未明 1.2
まず何から記すべきか。
それはこのガールズデッドモンスター、略してガルデモのメンバーのことだろう。
ちなみにガルデモとは私こと関根がベーシストとして所属するロックバンドの事である。
ちなみにこの名前、岩沢先輩とひさ子先輩があまりに厳しくて恐ろしくてえげつなくて……そんな先輩方にあやかってつけた名前なのだ。
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という訳でメンバー紹介。一番目はひさ子先輩、通称みなみちゃん(○しドラっぽいね☆)。
ひさ子先輩はガルデモのリードギターを担当している。
だが裏の顔は賭博師である。
その筋では知らない者がいないくらいの麻雀打ちである。
以前、それを見る機会があった。
それは壮絶なものだった。
その日私は夜遊びして帰ってこないみゆきちを探しに寮を抜け出した。
すると普段は真っ暗なはずの教室、その一つにカーテンの隙間から光が零れている部屋があった。誰かいるんだろうか。
私は気になってその教室を覗きに行ってみた。
でも、そこでまさか、ひさ子先輩の裏の顔を知ることになろうとは!
その時のメンバーは、妙に顎やら鼻が角張っている白髪の兄ちゃんに、黒いシャツをきた兄ちゃんに、大山先輩に、ひさ子先輩の4人だった。
じゃらじゃらと牌を掻き回し始める。後から考えるとその時から勝負は決まっていたのかもしれない。
「あぁ、全然駄目だね……」
一巡目、大山先輩は顔をニヤニヤさせながら九萬を捨てた。露骨に良い牌配なんだなぁ、と分かるあたりなんかもう色々残念な人だ。
「そいつは通らねえぜ、ロン。満貫だ」
黒シャツの兄ちゃんが手牌を倒した。速攻である。
この時私は気づいていました。黒シャツの兄ちゃんが山と手牌をすり替えていたのに。
あれはツバメ返しというイカサマだ。漫画とかでちょくちょく出てくるけど実際やったらバレない訳がないアレ。
「そ……そんなぁ……」
大山先輩は大きい声が出せない人なのでしょうか、素直に点棒を支払います。
「きたぜ。ヌルリと……」
白髪も負けじと3枚一気に引いてきたりとやりたい放題です。でもやっぱり大山先輩気づきません。気づいてるとしても声を出せません。
「リーチ」
ここで大山先輩がついに、反撃に討ってでました。
まだ2巡目。ひさ子先輩は動きを見せず、他の2人も苦い顔をしています(しかしここはみんなの顔色までよく見渡せるグッドなランドスケープのロッカーだね☆)。
と、ここでひさ子先輩暴挙にでます。手牌から6枚を握り込んで
「カン、追っかけリーチ」
メンツが2つ完成するやいなや、しかもうち1つをご丁寧に右手側に置いてから、リーチ棒を卓に投げます。明らかに不自然です。大山先輩の手牌の半分どころか暗カンした事で4枚しかないのですから。
これにはさすがに大山先輩も口を開きます。
「それ……13枚ある?」
「ある」
「しかも4ソーカンしてるけど……僕の手牌の中に一枚あるんだけど……」
「眼科いけよ」
えぇ……と大山先輩はドン引きしてましたが、誰もひさ子先輩には逆らえないのか、結局大山先輩は黙り込み、牌を引きます。
「ツモれっ! ってこれは危険牌だぁ!」
「ロン。リーチ一発、トイトイ、ドラ3……裏8。15飜か、数え役満だな」
「房州さんよりすげぇ……」
思わず感嘆の声を漏らす黒シャツ。
「いやいや面前対々和でなんで3暗刻つかないかとかこの際置いておくけどさ!そりゃ8枚なら簡単に出来ちゃうよ!しかも裏ドラ堂々とすり替えてたでしょ!」
「知らないって。はい、次いくぞ。」
冷酷無比にして残忍。傲慢。そんな悪魔のようなイカサ……麻雀打ちがひさ子先輩なのだった。
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次は、私とほぼ同時期にガルデモに加入したドラムの入江。通称みゆきち。なんとなく、どこか、魂レベルで岩沢先輩(後述)と関係ありそうな名前である、たぶん。みゆきちはひさ子先輩を悪魔としたら小悪魔といったところだ。
その小動物的な守ってあげたくなるキャラを狡猾に利用して一般生徒--通称NPCを色香に惑わせたりしている鬼畜な女だ。
「ねぇねぇねぇ、今日さぁ、食堂行ったんだけどさぁ、ふとぉ、階段で妙な視線感じちゃってぇ、まぁあたしってば可愛いし? しょうがないんだけどぉ」
まず自慢話から入る。
「誰かなぁって振り向いたらぁ、NPCのぉ、大山先輩だったっけぇ? あいつがめっちゃ顔赤くしてかたまっちゃっていやがんの。ミニだからってガン見し過ぎって言うか? 超うけるんですけどー」
NPC恐るべし。ってあれ? 大山先輩って確かフツーの先輩じゃなかったっけ。どうでもいいけど。
「で、あたしが振り向いた後微笑んでやったら顔ますます赤くしちゃってさぁ。逃げてっちゃったよ。いなくなった後1人で大爆笑しちゃった」
そして、こいつの畜生っぷりと言ったら……。
私は友達でありながらも、内心引かざるをえない。
「でぇ、しおりんにそうだ~ん。大山先輩に、パンツ見ましたよね? って詰め寄って何かさせようと思うんだけど何がいいかな? 多分何でも言うこと聞くよ?」
「いやいや、みゆきち、もう十分だろ。あの人だって生きてたんだよ」
かつては。
みゆきちもモラルを思い出すんだ。
「でも、NPCの限界を知りたいわけじゃん? 死んだ世界戦線の諜報員としてはさぁ?」
いつお前が、戦線の諜報員になったんだ。そもそも死んだ世界戦線は筋肉マニアが参謀名乗りだすようなアホの集まりだし、そんな役員はいない。そしてやっぱり彼はNPCじゃなかったような気がする、たしか。
「天使に告白なんてどう? 上半身裸で乳首に☆とかつけてさ。これ超ウケるんじゃない? 考えただけでや・ば・い~☆」
「よしときなよー。没個性に無理やりそんな事させたりしたらダメっていうか、それはなんというかエグすぎるよ」
「よぉーし、明日から恋人が出来るぞ、大山先輩!」
と、まぁ、みゆきちは、決して悪い奴ではないんだが、愛らしい口からは想像出来ないような口を利いて、純情なNPC達をたぶらかし、最後は辱める鬼畜外道だ。
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そして次に紹介するのは、我らがガルデモの元黒一点、滝沢先輩だ。
何で元かって言うと、ガルデモという名前が決まったのと同じ時期、リズムギターとして所属していた滝沢先輩はガールズ、ということで女装してステージに上がれとゆりっぺさんに強要され、「音楽性の違い」を理由にメンバーを抜けてしまったからだ。
ひさ子先輩を傲慢な悪魔、みゆきちを鬼畜外道とするなら、滝沢先輩は、女の敵だ。某ロボットゲーム風に言うなら「理論家だけど異性好き」と言った所だろうか。
だがその節操の無さはとんでもなく、相手が女の子なら全員に良い顔して一週間以内にはほぼ必ず食べちゃうという、お前はどこのエロゲ主人公だ、といった有り様である。ガルデモを抜けるきっかけになったあの事件も滝沢先輩に女にさせられたゆりっぺ先輩の独占欲から来たもの、と噂されている。更には天使との抗争も実はそのせいなんだそうな。
「……みたいな悪い噂しか聞かない、っていうかそんなの存在がOUTだと思うんですけど」
「違うな関根、俺様はただ博愛主義なだけだ」
まず一人称が俺様だ。そんな人レディコミとかの中だけだと思ってた。
「大体さ、人類皆兄弟とかって言うだろ?俺様はただ皆と仲良くしたいだけなんだって」
兄弟というか学園の半分位がもう姉妹かもしれません。消えたりした人を含めたら2万人くらい姉妹がいるかも、とセキネは恐ろしい考えを巡らせます。
「でも関根、勘違いしないで欲しいんだが。俺様が本当に好きなのはお前だけなんだぜ?」
このセリフを今まで何人に囁いて来たんでしょうか。何人の1番がいるんでしょうか、とセキネはセキネはジト目で睨んでみたり。
……2つの意味で危ないネタ思わせないでほしい。
しかし、滝沢先輩は完全に暴走している。こんな世界じゃ無理もないかもしれないが……。それでも、みんな神に復讐するために真面目に過ごしているっていうのに……。
「だからさ、ちょっと遊びいかね? 今夜あたり」
ばちぃん!
私はその頬を思い切り叩いていた。滝沢先輩の視点が定まらず虚空をさまよっていた。
その滝沢先輩に私は言ってやる。
「NPCも、そして私たちも感情を持ち合わせてるの。そして女の子はみんな純情なのよ! それをあなたは面白がって弄んで……人として恥を知りなさい!!」
「な……一緒に楽しんでると思ってたのに……」
「騙された人達の事を考えてよ! 彼女らの方がよっぽど人間らしいわ」
「俺が……NPC以下だって言うのか……」
「そうよ。悔い改めなさい」
滝沢先輩は膝をついて反省し始めると、皆に謝ってくると走り去ってしまった。
……やれやれ。
これで滝沢先輩も少しはまともな人間になるんじゃないかな、と私は思う。
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そして最後に紹介するのが岩沢先輩だ。
この人は、音楽キ○ガイだ。
この人は本当に音楽の事しか----
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「興味を、示さない……っと」
あたしがペンを走らせていると、
「お疲れさん」
ガシリ、と肩を強く押さえつけられた。
「へぇ、なかなか面白いじゃねーか」
この声は……ひさ子先輩?
振り返るとひさ子先輩にみゆきち、岩沢先輩、滝沢先輩が部屋に揃っていた。
一瞬で血の気が引く。
「あたしは、イカサマなんて卑怯な真似、一度たりともしたことねーが?」
口の端がぴくついているひさ子先輩、恐い……。
「ねぇ、しおりん、誰が鬼畜外道だってぇ?」
あの温厚なみゆきちも珍しく、青筋を額の隅に浮かべて笑っている。でも大山先輩はスルーなんだ。
「……おい、滝沢これはどういう事だ?」
「いや、岩沢、関根の妄想だから。
キャラの方向性さえ分かってもらえてないのに性犯罪者みたいなイメージ与えられて、俺今すげぇ泣きたい気分なんだから」
岩沢先輩は何故か滝沢先輩の胸ぐら両手で掴んで睨みつけている。
そして滝沢先輩は凄い勢いでブンブンと首を横に振っている。なんて元気なんだ、あたしがやったら間違いなく首を痛めるんじゃないかと思う。
「つかお前はお前でキチ扱いされてんだろ? 怒るならそっちじゃねーの?」
「そんな事どうでもいい、話をそらすな。
本当に誰にも手ぇ出してないんだろうな?」
言って担いでいたギターケースを下ろし、胸ぐら掴んだまま前後に激しく揺すりだした。
滝沢先輩の頭はぐわんぐわん揺られながら壁やらに何度も激突を繰り返している。……なんて痛そうなんだ、あたしじゃなくてもやられたら間違いなく首から上を痛めるんじゃないかと思う。
この時、私の日誌のせいでばらばらになりかけていたみんなの心は再びひとつになった。
……また痴話喧嘩始まったよ。
track ZEROオマージュ。