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銀色世界  作者: レイ
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第五話「誠のトラウマ」

尚も誠さんは喋り続ける。


「……まあ、性格は酷いが一応信用は出来る。信頼を得る為に提供しておいた方がいい情報はしっかり話してくるからな。だから俺たちは未だにあいつの部下なわけだし。ただ、あくまで話すのは最低限なんだが……」


説明しているようよりは、愚痴をこぼしているだけなんだろう。僕が聞いているかどうかなんて、おそらく気にしていない。


「へえ、二人はどれくらいアモスにいるんですか?」


「まだ大体三年程だな。俺も恭介も、……後一人いるんだが、三人全員が一緒にアモスに入ったんだ。その時から上司は一緒で、つまり上司とは三年の付き合いになるな」


何故か最後の一人の時だけ、妙に口を濁した。

その一人の事をあまり話したくないというのは、誠さんの雰囲気で分かる。

それでも好奇心には負ける。


「その後一人って、どんな人なんですか?」


「あー……いや、その……何だ?」


「いや、何って言われても困るんですけど……」


余程その人の事を話したくないのか、先程までの口数が驚く位になくなった。


苦手な人なのか、容易に人に話してはいけない人なのか、いやもしかして、


「あっ、もしかしてその人……故人、なんですか?」


だとすれば迂闊だった。

軍のような存在のアモス。

そんなアモスで仕事をしていたら死んでしまう人がいたっておかしくはない。


そもそも口を濁した時点でその可能性も考えるべきだった。

今更ながら聞いてしまった事に後悔する。


「「いや、それはない」」


しかし僕の予想は大きく外れていた。

シロクロコンビが同時に否定する。


「えー……」


「あいつはそう簡単に死ぬ奴じゃねぇ。あいつが死ぬくらいなら、先に俺達の方が死ぬ」


「ああ、それには同意するしかない。珍しく気が合うな」


かなり酷い事を言っている気がするけど、それぐらい凄まじい人なんだろう。

というかあなた達思ったより仲いいですね。


シロクロコンビの話を聞く限り、後一人は二人よりも色々と凄い人らしい。

二人の上司といい、その後一人といい、シロクロコンビも相当凄い人達だと思うけど、更にその上がいるなんて、アモスで働く人達はヤバイ人ばかりのようだ。


今のところ僕の知り合いには凄まじい人しかいない気がする。

個人的にはもう少し平々凡々な方と知り合いたい。


「とりあえず後一人についての説明は勘弁してくれ。下手な事言うと殺されかねないんだ……」


冗談ではなく、本気でそう思っているのは誠さんの疲弊しきった顔を見ればよく分かる。

第一印象はクールで冷静な人だと思っていたけど、あまりそうでもないみたいだ。

それとも上司とその人だけが例外何だろうか?


「別に俺らから説明する必要はねぇんじゃねぇか?」


誠さんに助け船を出すかの様に、恭介さんが口を挟む。

説明する必要がないって、どういう事だ?


「だってよ、俺らがサポートするって言っても、助けれんのは精々仕事とかぐれぇで、生活面とかまでは無理だ」


「まあ、そうですね」


「だから記憶喪失になる前の才人とも面識があったあいつが、その辺をサポートする事になった。つまり遅かれ早かれ才人、お前はそいつと知り合う事になるってこった」


「そうなんですか!?」


そんな重要な事をサラッと話さないでほしい。

以前の僕を知っている人物に会えるとなると、当然以前の僕について聞けば色々分かるはずだ。


「あぁ、だから知りたかったら本人に会って話すのが、一番早いってわけだ」


「確かに、それなら別に話してもらう必要はないですね。それで、僕はいつその人と会えばいいんですか?」


「あー……すまねぇが、今からだ」


「「今からぁ!?」」


近いうちに会うだろうとは思った。

でもまさか今からとは、当然僕と誠さんは驚きを隠せないでいる。

誠さんに至っては、この世の終わりの様な顔をしている。

そんなに苦手なのか……。


「あぁ、今からだとよ。葵って名前の奴だ。後でここに来るみてぇだからそん時にでも本人について聞いとけ」


「はぁ、分かりました……。ところで、恭介さんはその、葵さんって人、苦手じゃないんですか?」


葵と言う人の話の時、誠さんほど嫌そうな顔をしていなかった。

だから少し気になった。


「あ? あー……苦手っちゃ苦手なんだけどよぉ、こいつ程じゃないわ」


そう言って恭介さんは先程からブツブツと暗い顔で何か呟いてる誠さんを指差す。


「俺が二人と知り合ったのは高校の頃なんだがよぉ、こいつらは家が近くの幼馴染らしいんだ。で、出会った頃から既に苦手意識持ってやがったな」


「そうなんですか……」


勝手に過去の話とかをされているにも関わらず、相変わらず誠さんはブツブツと何か呟いたままだ。

誠さん、一体何があなたをそうさせたんですか……。


「苦手な理由は一応分かるんだが、それについては言わねぇでおくわ。知らねぇ方がいい」


「はい、僕もあまり知りたくないです……」


「ともかく、俺もあいつには出来るだけ会いたくねぇんだ。ってなわけで俺は行く!」


言うと恭介さんはそそくさとどこかへ行ってしまった。

一人で行ったので、誠さんは置いてけぼりにされている。


「はっ!? そうか、あいつが来るのか!? おい馬鹿、俺を置いて先に行くな! 悪い、才人。聞きたい事があったらまた今度聞いてくれ!」


そして誠さんも颯爽といなくなってしまった。

あんな態度を見せられたら僕も会うのが怖くなってくる……。


勿論そんな我儘が言える立場なわけでもなく、僕はただ待つ事しか出来ない。


ただ、いつ来るのかも分からないのに、ずっと立って待つのは辛いものがある。

だから直ぐ近くなったベンチに腰掛けて、葵さんを待つ事にした。


ふと、病院が異様な位に静かな事に気が付いた。

さっきまではちらひらとあった人影が、今は全くと言っていいほどない。

何事かと気になってので、少し近くをフラフラうろついてみると、時計が目に入った。

見ると、今の時刻は大体十二時。

今は深夜ではないので、正午という事になる。


そうか、昼食時だから人がほとんどいないのか……ん?

それって葵さんも昼食でしばらく来ないという事では?

恭介談も『今すぐ』、ではなくて『後で』、ここに来るって言っていたし。


そう考えた途端、時間の立つ速さが急に遅くなったように感じた。

更には空腹が激しく自己主張し始めるようにもなった。


ただ来るまで待つだけならば大して苦ではない。

だけど、そこに空腹も混じるとなれば話は別だ。

人間は楽しい時間程短く感じ、苦しい時間程長く感じる事が多いけれど、今の僕がまさにそれだった。


一分経つのがあまりにも遅く感じる。

出来る事なら僕も昼食を取りたい。

でもいつ来るか分からないから下手に動けない上に、そもそも食事を取る手段もない。

つまり僕はここで葵さんが来るまでひたすら待つという選択肢しか選べないというわけだ。


「誰かー、せめて水……」


そんな事をほざいてみても、誰も来るわけがなかった。

もし今ここで僕に食事をくれる女性がいたら、思わず惚れてしまいそうだ。


結局、この時間僕はベンチに戻って、まぬけとも言える腹の演奏を聞きながら。休憩し続けるしかなかったという……。


一時間ほど経っただろうか。

いい加減空腹にも慣れた。

でも喉の渇きは慣れるはずがなく、既に喉はカラカラだが、どうしようもないので諦めた。


そして特にやる事も無く、僕は暇を持て余していた。

何かあればまだ暇を潰す事も出来たかもしれないのに、本当に何も無い。

何も持ってないからただボーッとしているしかなかった。


すると、一人の女性が近づいてきた。

最初は勘違いかとも思ったのだけど、目線が合うと迷わず僕の方へと歩いてきた。

青いショートの髪に黒いスーツ、年齢はシロクロコンビと同じくらいだろう。

スレンダーな体型で、仕事の出来る女性というのが第一印象が。


「久しぶりね、才人。とは言ってもあなたは忘れているみたいだから、一応『初めまして』にしておくわね」


女性は僕の目の前まで来ると、明るく話しかけてきた。

つまりこの人がシロクロコンビの言っていた、葵さん、で間違いないはずだ。


「えっと、葵さん、ですか?」


「ええそうよ」


ビンゴ。

この人が葵さんみたいだ。


「よ、よかった……」


「ちょ、ちょっと! どうしたのよ!?」


安心して気が抜けたのか、さっきまで感じなくなっていた空腹が急に耐えられなくなった。


「すいません、ご飯。それでなくとも水を……」


「そんな事言われても、今何も持ってないわよ!? え~と……分かった。直ぐ自販機で買ってくるわ、何がいい?」


「あ、出来ればカフェ・オレで……」


「了解。ちょっと待ってなさい」


そして葵さんは行ってしまった。

会っていきなり図々しいとは思ったが、そんな事を気にしている余裕は今の僕にはない。


しかし本格的にヤバイ。一体いつから僕は食べてないんだ?

それも記憶がないから分からない。


ただ言える事、それは、


「葵さん無理です。もう持ちません……」


そう言ったのを最後、僕は完全に崩れた。

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