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銀色世界  作者: レイ
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第三話「自分調査」

結局、不安でいながらも調査は続いていく。

あれからも幾つか質問をされけれど、常識的な事は割と覚えていた。


「結果からすると、自分の事は全部忘れているのか? 過去の記憶や、自分がどんな感じの人間だったか、とかは全く覚えていないのか?」


「はい。自分がどういう人間で、一体何をしていたのか、全く覚えていません。そもそも今僕のこの性格ですら以前の僕と一緒だったのか分かりません……」


「ふむ……なのに常識的な事は覚えている、か」


パスティアさんは下を向き、考え込んだ。

そして数分後、改めて僕に向き直った。


「成程な。記憶喪失は身体や精神に強いショックを受け、気を失った時に本人が『忘れたい』、と願った事を忘れるケースが多いが、おそらくお前もそのケースだろう」


「それって、つまり記憶を失う前の僕は自分に関わる人達の事を忘れたいって願ったって事ですか?」


「そうとは言い切れないが、多分そうだろう。ま、以前のお前がさらに自殺志願者だったら、記憶喪失も研究所が破壊された理由も説明つくんだけどな」


「あの、記憶喪失が説明つく、って言うのは分かるんですけど、何で破壊された理由も説明つくんですか?」


「『研究所を破壊してその瓦礫に埋もれて死にたい』って考えてたなら、説明つくだろ?」


「……いや、確かにつきはしますけど、わざわざ死ぬ為だけにそんな事普通しませんって……」


「い~や、分からんぞ? 今のお前ならあり得ないとしても、以前のお前が相当なキ○ガイだった可能性もある。どうだ? 説明つくだろ?」


「何でそんなに自信満々なんですか……。忘れているからハッキリとは言い切れませんけど、以前の僕でも流石にそれはないと思います……」


いくらなんでも以前の僕がそこまでのキ○ガイであるはずがない。

というかそうではないと信じたい。

心の底から。


それよりさっきから『今の僕』や『以前の僕』って一々面倒くさいな、もう!


「そうか? 十分あり得そうな理由だが……。まあいい。結局のところ記憶喪失の理由で、今思いつくのはこれぐらいだ。あえて他にあるかと言えば、魔法で消されたぐらいだろうな」


魔法。


その単語を聞いた途端、僕の胸の中がざわつく。


「ぐっ……!」


「おい、大丈夫か?」


「だ、大丈夫です。気にしないで下さい」


どうしてこんなに苦しいのかは分からない。

と言うより覚えていないが、魔法についてはある程度覚えていたみたいだ。


魔法、それは今でも解明されきってはいない、人の持つ不思議な力。

色々種類はあるけれど、術みたいなものだと思えばいいだろう。


人が持っているとは言っても、全員が全員使えるわけじゃない。

世界の人口の半数は使えるが、それでも半数は使えない。

だからその所為だろうか。

魔法を使える者を『マジシャン』、使えない者を『ルーザー』と呼び、マジシャンにはルーザーを『敗者』と罵る者が少なくない。

そう、マジシャンとルーザーの間では差別意識が強く生まれているんだ。


だから差別の原因となる魔法があまり好きじゃない。

少なくとも今の僕は。


「そう言えば、お前魔法については覚えているのか?」


「はい、覚えていたみたいです」


「そうか。それはよかったな。マジシャンが魔法を使えないとただの出来損ないだな。それに困るだろう。俺はルーザーだが普段出来た事が出来なくなる事の辛さはよく分かる。で、お前はどんな魔法が使えるんだ?」


パスティアさんは「特技は何ですか?」程度の感覚で聞いたんだろう。


「……え? え~と、僕ってマジシャン何ですか?」


「……あ?」


「……」


「……」


「……」


「……お前、まさか……」


「……はい。魔法、使えません」


何という事でしょう。自分の事に関しては本当に綺麗さっぱり忘れてるじゃありませんか。


「……出来損ないが一人、ここに出来あがった」


「言わないでえええええええええええええええええええええ!!!」


何てことだ……。


パスティアさんに出来損ないとして認識されてしまった。

いや、パスティアさんだけならまだいい。

ただもしかすると一般人にも出来損ない認定されてしまいそうで怖い。


「い、いや、今のは俺が悪かった。スマン……」


「そんな素直に謝らないで! 後可哀想な人を見る眼で僕を見ないで! 泣きそう!!」


素直に謝ると言う事は、本気でそう思ったと言う事だ。

馬鹿にする為に言った言葉とかではなく、本気で。


「ま、まぁ一応お前はマジシャンだ。ただこうなるとルーザーと大して変わらないな……」


「……そうですね……」


僕が謎の水分で自分の目の前を見えにくくしていると、ふと何かに気付いたのか、パスティアさんの顔がハッとなる。


「しかしそれはちょっと不味いな。魔法が使えないとなると、アモスで働けるか微妙だぞ……」


「……はい? アモス、って何ですか?」


「何だ? 魔法については覚えているくせに、アモスは覚えていないのか」


「スイマセン……」


出来るだけ早く答えを聞きたかった。

だからあえて知らないといったけれど、アモス自体を全く覚えていないわけじゃない。

記憶が正しければ、確か旧約聖書に出てくる社会正義を説いた預言者のはずだ。


ただ、何で今その単語が出てくるんだ?

僕の知っているアモスとはまた別なのか?


「アモスって言うのは、『対魔法犯罪特殊部隊』Anti Magic Offender Special Unit、A.M.O.S.U、で通称アモスだ。アモスのスペル自体違っていれば、名称だって無茶苦茶だ。馬鹿なお偉いさんが『何かいい名前はないか』って考えた末に無理矢理付けられたふざけた名前だよ」


「えっと、アモスって単語が出てくる理由は分かったんですけど、今度はその、対魔法犯罪特殊部隊? っていうのが分かりません……」


「分からないも何も、名前の通りだ。魔法を使う犯罪者への対策として、政府が作った『軍』みたいなものだ。魔法は強力な上に危険だ。それを犯罪者が使っているとなると警察じゃ手に負えなくなる事も出てくる。警察の中にはルーザーもいるからな。だからこそそれに対抗出来るような奴らを集めたのがこの特殊部隊ってわけだ。そしてお前も、それに所属している」


「はぁ、そうなんですか……」


凄い事を言われている気はしないでもないのだけれど、今一実感が湧かない。

これはとどのつまり、僕は凄い人、って事でいいんだろうか?

いや、流石にそれは自惚れすぎか……。


「因みに、今お前がいるここも、アモス本部に大量にある医務室の一つだ。アモスの人間だけが使うわけじゃあないんだが、説明が面倒くさいからそういう事にしておくぞ。ただ言っておくと、医務室が大量にあるように、当然俺以外の医者もたくさんいる」


「そりゃあ、そうでそうねえ……」


そんな重要な特殊部隊の隊員の健康管理を、こんないかにも「藪医者です」、って格好をしている人一人だけでやっていけるわけがない。


「まぁ俺以外にも医者がいるとはいえ、そうそう他の医者と知り合わない事を願うんだな。お前だって怪我や入院はそう何度もしたくないだろ?」


「そりゃあ当然、そうですね」


「さて、と。これぐらい調べればもういいだろう。面倒くさいがお前のカルテを書かなきゃならんな……」


「それ面倒くさがるって、医者としてどうなんですか……」


「いいんだよ。一々気にしてたら禿げるぞ」


「……それは嫌ですね」


「だろう? ま、それはともかく、いい加減書き始めるか……」


「ん? あの、その書類って一体何なんですか?」


パスティアさんは未だ散らかっている机に向き直り、カルテを書き始めた。


そして調査を始めた時、机に放り投げていた書類をまた拾い上げて、それを見ながらカルテを書いている。


僕が聞いたのはその書類の事だ。


「ん? あぁ、これか。これはお前の個人情報がそれはもうたっぷりと載っている、いわゆる履歴書だ」


「……すいません。それ、渡してもらえませんか?」


わざと個人情報が載っている事を強調して言ってくるのが腹立たしい。


そんな物があったのなら最初から渡してほしい……。

いや、ワザとか。

この人絶対ワザと渡さなかったな!


「ほう、そんなに欲しいか? ほわ、受け取れ」


そう言ってニヤニヤしながら履歴書を無造作に放り投げてくる。


「うわっ!? ――っと、ふぅ……。存外に扱わないで下さい!」


僕が怒鳴りつけてもなお、ニヤニヤしながら見てくる。

本当に嫌な人だな……。

良い人だけど意地悪なだけなのか、ただの嫌な人なのか全く判別がつかない。


いつまでも怒っていても仕方がない。

とりあえず書類に目を通そう。


履歴書によると、僕の名前は白銀しろがね 才人さいと

年齢は十七歳。

当然分かってはいたけれど、男性。


と、ここまで読み上げたふと違和感を感じた。


「あの、僕まだ未成年みたいなんですけど、ここで働いていてもいいんですか?」


確かに未成年で就職する人だっている。

だとしても、危険な仕事を未成年にやらしてもいいんだろうか?

そういうのは、偉い人とかが黙っていないんじゃないか?


「あぁ、アモスへの入隊条件はやる気と実力だけだ。それ以外は過去の経歴とか、年齢とか、あまり気にしないいい加減な部隊だからな」


「それって……」


「おっと待て、お前の言いたい事は分かるぞ。確かにこれだと一見問題はありそうだが、強者しか求めない分、そう簡単に入れはしない。それに、そもそも強者揃いのところにわざわざスパイしに来る奴はいないだろう。そういう考えから、基本そういうのは気にしない事になったんだ」


それでいいのか、日本政府。


心配な事には変わりなかったが、今は自分の事の方が重要なのでそれ以上突っ込まない事にした。


そして僕は続きを読む。


どうやらイギリス人と日本人のハーフみたいで、髪は銀髪。


さっきから微妙に目に入ってくるこの髪、銀髪だったのか。

白髪じゃなくて本当に良かった。

別に白髪が特別嫌いってわけじゃないけれど、この歳で髪が白髪になるほどの苦労をしていたくはない。


瞳の色はコバルトブルー。

顔立ちは多分悪くはないと思う、思いたい。


日本人とのハーフの割にはあんまり日本人らしい特徴が見当たらないな。

あえていうなら顔立ちや、骨格がどちらかと言えば日本人寄りな気がする。


家族は良心が既に他界していて、妹が一人いるみたいだ。

一応は妹と二人暮らしらしいけど、親戚とかはいないんだろうか?

後で調べておくか……。


学歴は、中学校までが最終学歴で、高校には通っていないらしい。


特にといった怪我や病気もない健康体。

アモスに志願した理由は「魔法を犯罪に使う人達が許せないから」か。

かなり嘘っぽく思えるくらいベタだな。


これで大体一通り見終わった。


とりあえず今一番思っている事は、

自分の事なのに、履歴書を通して知るのが何故か虚しい……。

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