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銀色世界  作者: レイ
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第二十二話「初めての敗北」

「……参りました」


佑助のその一言により、勝敗は決した。


「「早っ!?」」


僕と雅は同様の反応をする。

そりゃあそうだろう。

勝負が開始されてものの一分も経たない内に決着がついたのだから。


先程、佑助が蘇芳に突撃しに行った時点で、勝負は開始した。


佑助は高校生の標準よりも速い足で、拳を構えながら蘇芳へと突っ込んで行く。

だが一度蘇芳の実力を見ている僕からすると、当たる事はないと、先の結末が容易に想像出来た。

蘇芳は佑助から振るわれた拳を避け、代わりにその拳を腹部に食らわせる。


「ゲホォ!?」


「佑助!」


僕は蘇芳の魔法の特性を知っている。

それだけに触れられた時の危険性もまた、重々承知している。


佑助は殴られた事により、よろめき、その場に膝をつく。

だがただ殴られただけで、魔法が使われた様子ではなかった。


僕の時は容赦なく魔法を使って来たのに、佑助には使わなかった。

僕がアモスだと知っていたからこそ、最初から本気で掛かってきたのだろうか。


「佑助~、生きてる~?」


雅が縁起でもない事を言う。


「いててて……」


佑助が腹をさすりながら立ちあがる。

佑助の顔は苦痛に歪んでいた。

魔法を使われなかったとはいえ、やはり痛い事に変わりはないらしい。


「どうしたよ。お前の力、見せてみな、後輩」


蘇芳は危険性等二の次で、どれ程の力を見せてくれるかという事に興味津々なようだ。

当然佑助もこのまま黙ってはいないだろう。

僕も気になる、佑助の実力が。

一体あれ程の自信を持たせられる力とは、どれ程のものなのか。


だが佑助は暫くの沈黙の後、その場に両膝をついた。

そして、こう言った、


「……参りました」


と。


「お前、俺様を馬鹿にしてんのか!?」


「そうよ、佑助。いくらなんでもふざけすぎよ!!」


二人から当然とも言える非難を浴びる佑助。

僕だって同じ気持ちだ。


「いやいやいや、無理だって! 一発パンチ食らったけど、マジで痛いって!!」


「何言ってんの、あんた主人公になるんでしょ!? だったら直ぐ諦めずに、主人公らしく最後まで戦いなさいよ!!」


「だから無理だって! 俺の魔法喧嘩だと大して役に立たないし、喧嘩割と強いけど、この先輩もっと強いし!」


「佑助の魔法って?」


雅に尋ねる。


「佑助の魔法は、私もよく分かってないんだけど、体を変化させる魔法よ」


「違ぇ、変身する魔法だって言ってるだろ!!」


「うるさい。黙ってて」


「はい……」


雅の容赦ない一言に、佑助は言う通り黙り込む。


「変化させるって、どんな風に?」


「多分才人の想像してる通りよ。姿形を変えるだけ。ついでに言えば質量も一応変化させられるわね」


「え、でもそれって……」


上手く使えば喧嘩にも活用出来るのではなかろうか。

勿論喧嘩に使って良いわけがないのだが、大して役に立たないとは思えない。


「言いたい事は分かるわ。あたしも同感。でもあいつ、いっつもある一つの姿にしか変化する気がないの」


「その姿って?」


「昔テレビで見たヒーローの格好」


「……」


そこまで徹底していると、もう主人公でいいんじゃないかと思えてくる。


「因みに、雅の魔法は?」


「あたしは炎を出して操る魔法。相手が佑助なだけに、喧嘩になると大抵あたしが勝ってるわ。ま、相手が佑助じゃなくても負ける気はないけど」


雅のそれは、おそらく絶対的な自信等ではないだろう。

プライドからの覚悟の様なものだと、彼女の瞳が語っていた。


「おい才人、こいつマジでもう俺様と戦う気無いみたいだ。だから今度こそお前が、俺様と戦え!!」


「え、えぇ~……」


結局そうなってしまうのか。

依然として変わらぬ展開に、自分の不運さを呪いたくなる。


「もう負けねえ。今回も、それ以降もずっと俺様が勝ってやる!!」


蘇芳は以前負けた事が余程悔しかったのだろう。

仮に今戦って勝ったとしても、一度負けた事は、この先一生引きずっていくのではないか。

そんな考えが胸によぎった。


「蘇芳……先輩。気分を害する様で悪いんですけど、僕はあなたと戦う気は鼻からありません」


「何? お前、勝ち逃げするつもりか!!」


「そういうわけじゃ……」


「なら戦え、今直ぐにだ! お前と戦って付いた俺様自身の黒星を、今直ぐにでも消さないと治まらねえ!!」


蘇芳は自身の感情を全て爆発させる勢いで、僕に不満をぶつける。

僕からすればたった一回負けただけ、だ。

だがこの蘇芳と言う青年にとっては、たった一回の負けすら許せないのだろう。

どれほどプライドが高ければ、そう考えられるのか。

つい先程雅もプライドが高い方だと感じたばかりだと言うのに、蘇芳はそれ以上だった。


「ちょっと、黙って聞いてたら、いくらなんでも身勝手すぎるんじゃない?」


どう対処していいものか悩んでいるところに、雅が助けに入ってくれた。

彼女は少し暴力的で、血の気が多いところが問題だ。

しかし助けてくれる事には有難みを感じずにはいられない。


「邪魔だ、雑魚は引っ込んでろ!」


「なっ――」


雅はカチンという音が、今にも聞こえてきそうな表情をしていた。

こんな事を言われると、怒って当然なのだが、出来れば事は穏便に済ませておきたいと言うのが本音だ。

ただ彼女の性格からして、それは叶わないだろう。


「……いいわ。なら、満足するまで、遣り合ってやろうじゃない!」


「み、雅、喧嘩は――」


「才人が!!」


「僕が!?」


一体どうしてそうなったのか、雅に激しく問い詰めたい。

別に決まっているわけではないが、これは普通雅が戦う流れじゃないのか?

これではますます戦わなくてはいけない状況に、なってしまっただけじゃないか。


「あぁ、ハナからそのつもりだ。さぁ才人、やるぜ」


蘇芳は足元の小石を拾った。

その行動から予想される先の展開は、一つだけだった。

小石を投げ、それと同時に小石を破壊する。

そうする事で簡易的な散弾を作り、放つ事が出来る。

以前の僕との戦いで、閃いたに違いない。


もう何があっても、蘇芳は戦いを止めようとしないだろう。

それなら僕も精々大怪我をしない様、全力で相手をするしかない。

そう覚悟し、ポケットに隠し持っていたグロウシェイドに手を掛ける。

出来れば凶器をあまり振り回したくはないが、今回は止めてくれる人物もいない。

仮に雅が止めたとしても、二人の性格からして今度は雅が蘇芳と戦ってしまうはずだ。

二人を争わせるわけにもいかないし、それならもう、是が非でも勝つしかない。


「あら、散々嫌がってた割に、結構やる気じゃない」


「そっちがやるしかない状況にしたんじゃないか……」


「いいじゃない。コテンパンにしちゃいなさいよ」


どうやら本人に悪気はないみたいだが、それでも困る事には変わりがない。


「才人ー、俺以外の奴に負けんなよー!」


遠くで佑助が、地面に座り込んだまま声を掛けてくる。


「もし才人が勝っても、あんたが勝てるわけないでしょうが!」


「ぬ……」


雅の正論に、佑助は返す言葉もなく黙り込む。

蘇芳が佑助に勝って、僕がその蘇芳に勝ったとする。

そして佑助が僕に勝つ等という、じゃんけんの様な強弱の関係は、滅多にない。


「なら、才人負けろ!!」


「何て最低な奴……」


佑助のあまりのみっともなさに雅はほとほと呆れ返っていた。

最早放っておくが何故そこまで僕をライバル視するのか。

僕以外にもライバルとして相応しい相手はいるだろうに。


「おい、いい加減始めるぞ」


蘇芳は待ちくたびれたのか、急かす。


「はい、いつでも、いいですよ」


敢えて先攻は譲る事にした。

こちらから仕掛けようにも、仕掛けた瞬間散弾を放たれたら避けようがないからだ。

先ずは蘇芳に散弾を使わせ、それを全て防ぐ。

そして次にまた石を拾うよりも早く仕掛けなければならない。


言葉にするのは簡単だが、実際は相当難しい。

いくら手が分かっていても、散弾を防ぎきる事は容易でないからだ。


神経を集中させる。

全て避けられそうなら避けるが、駄目ならグロウシェイドを使う。

使いこなせているわけではないが、適当に振っていれば多少は防いでくれるだろう。


「なら遠慮なくいくぜ!!」


僕の予想通り、蘇芳は石を破砕させながら投げつけてきた。

だがそこまでの速度はない、これならば避けられる。


そう思ったのも束の間、一つだけ凄まじい速さで迫って来る石があった。

明らかに他のものに対して大きい。

つまり散弾に注意を惹かせ、隠し持っていた石を当てて怯ませるのが本当の目的だったみたいだ。


「まっず!?」


完全に散弾の方へと気を取られていた。

避けられないと悟り、ポケットからグロウシェイドを取り出し剣の形を造る。

そして素早く剣を振って石を切り裂く。

と、そうしようと考えた瞬間、


「あ、あれ瑠璃ちゃんじゃね?」


という佑助の言葉により、その考えはどこかへ消え去ってしまった。


「嘘、瑠璃!?」


現状を、飛んでくる石の存在を忘れ、僕はそれ以外の別方向へと顔を向けた。

だが瑠璃はどこにもいない。

一体どこにいるのかと尋ねる為に、佑助の方を見る。

すると佑助は、悪戯小僧の様な笑みを浮かべ、こう言った。


「スマン、アレ、嘘」


「…………は?」


佑助の言葉に脳が硬直した。

そのまま一秒どころか一瞬も経たない内に、現状を思い出す。

だが時は既に、遅かった。


ゴッ、というにぶい音と共に、凄まじい速さで迫ってきた石が、僕の頭にめり込み、脳を揺らす。

頭が真っ白に、視界は真っ黒になった。

抵抗する事も出来ないまま、僕は体を地面へと倒れさせていく。

そして地面に倒れると共に、僕の意識はなくなった。


僕が意識を失った直後、


「ちょっと何してんのよ!?」


「いやぁ、どうにか負けてくれないかなぁって思ってやったんだが、まさか本当に決定打になるとは……」


「おい、こんな勝ち方納得いかねえぞ!!」


等々のやり取りがあったらしいが、詳しくは知らない。

いや、知りたくもない。


目が覚めると、僕はベッドで寝ていた……ってこの文章、前にもあったな。


「あ、お兄ちゃん、大丈夫?」


僕は何故か自分の部屋のベッドで寝ており、傍には瑠璃が居た。


「も~、心配したんだよ? お兄ちゃんのお友達が近くに居なかったら、今頃どうなってたか……」


どうやら佑助達が、僕を家まで運んでくれたみたいだ。

段々記憶も思いだしてきた。

僕は佑助の嘘に引っかかり、石を避けられずそのまま気絶したのだ。


「何があったかは聞いたんだからね」


「ゴメン……」


瑠璃の性格からして、喧嘩や争い事は嫌いなんだろう。

大した言い訳も思いつかず、ただ謝る事しか出来なかった。


「全く、どうして頭で石を割ろうとなんかしたの?」


待て。

色々とおかしい。


「瑠璃、それは誰に聞いたんだい?」


「えっとね、確か男の人の方かな。でもその後直ぐに女の人に引っ張られて行ったよ?」


「そうか、それならいいよ」


僕が制裁を下す必要はないようだ。


「とにかく、私もお姉ちゃんも心配するから、そんな事二度としないでね?」


「うん、分かったよ」


そもそも一度もしていないのだけど。


「じゃあ思ったより大丈夫そうだし、夕飯の支度してくるね」


「あぁ、行ってらっしゃい」


瑠璃が部屋から出ていき、一息つく。

確かに瑠璃の言う通り、体に異常はない。

ないのだが、入学初日でいきなりこんな怪我を負って、どうも先行きが不安になる。


明日学校へ行ったら、雅にお礼言っておかないと。

佑助は一発ほど殴っておこう。


自分の鞄から、携帯を取り出す。

葵さんに電話をする為だ。

念の為毎日連絡するように、葵さんに言われていたのを、たった今思い出したのだ。


携帯を開き、葵さんへと掛ける。

その行動によって僕が後悔するのに、然程時間は経たなかった。

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