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銀色世界  作者: レイ
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第十五話「二人の実力」

ある日、僕は葵さんに呼ばれ、アモスへと行った。


「何の用ですか?」


「今日は訓練以外をやろうと思ってね、ちょっと待ってて」


と、言われた通りしばらく待っていると、


「才人、いるか?」


誠さんがやってきた。

ただどうやら、恭介さんはいないようだ。


「ヤッホー、誠。ハロハロー」


「なっ、葵、何でここに!? 才人だけじゃなかったのか!?」


「そんなのウ・ソ、に決まってるでしょ。それより――」


葵さんは誠さんの腕に抱きつき、まるでカップルにでも見られそうな状態となった。

だが誠さんの表情は全く嬉しそうには見えず、むしろ化け物を見たように恐れている。

傍から見ているから冷静なものの、かくいう僕も何故だか、怖い。


「あの時、私が来るからって逃げたらしいわね?」


「あ、あれはだな、これ以上俺達が才人に出来る事もないから立ち去っただけだ!!」


あの時とはどうやら、葵さんと初めて会った時の事らしい。


「へぇ~? じゃあそれについては、そういう事にして上げるわ」


「……え?」


誠さんは心底意外そうな顔で葵さんの顔を見る。

僕も意外だった。

葵さんの性格からして、こんな簡単に引き下がるとは思えなかった。


「それはいいとして、あなた『下手な事を言うと殺されかねないんだ』って、言ったらしいわよね?」


「何故それを!?」


誠さんの表情が今までに見た事がない程の、驚愕の表情へと変わる。


「私の情報網を、舐めない方がいいわよ……?」


「し、知らん! そんな事を言った覚えはない!」


「あら、おかしいわね。……ねぇ、才人?」


「は、はい!?」


葵さんは笑顔でこちらに向き直る。

だが笑顔だからといってそれで安心出来るはずがなく、下手すると僕の命まで獲られてしまいそうだ。


「あなたなら、言ってたかどうか、分かるわよね?」


「え……?」


誠さんの目が、顔が、僕に対して懇願しているのが分かる。

「助けてくれ」と。

僕だって嘘をついてでも、誠さんを救ってあげたい。

上げたいのだが、残念ながら人間は、何よりも自己の防衛を最優先としてしまう。

そう、生物全てに備わっている本能で。


「言って、ました……」


「才人おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


限りなく憎悪の籠った声で誠さんは叫ぶ。

憎むべき仇がまさに目の前にいるような、そんな錯覚に襲われる。


だ、だって仕方がないじゃないか!?


「やっぱり言ってたわよねぇ。それで、何か言いたい事、ある?」


自分はあくまで寛大だと、そう言いたいのか、誠さんの遺言を聞こうとする。


「……頼む、許してくれ……」


「却下」


誠さんの最後の願いさえ、聞き入れてはもらえなかった。

その後誠さんはどこかへ連れて行かれ、帰って来た時には、それはもう誠さんではなかった……。


そうして誠さんが復活するまでに、いくらかの時間を要した。


「全く、あんまり時間取らせないでよね」


「誰の所為だよ……」


もうすっかり復活した誠さんは、葵さんに対して恨み事を呟いていた。


この二人の間には一体何があるのか、知りたいような、知ったら後悔してしまうような。

触れてはいけない事だと、心のどこかで言っていた。


「それで、結局俺を呼びだした用とは、何なんだ?」


「後で恭介も呼ぶつもりだけど、ちょっと才人と一緒に、仕事に行ってきてほしいのよ」


「「はぁ!?」」


「いやね、訓練ばっかしてても仕方ないじゃない? やっぱ実戦とか、体験しないと成長はしないかなぁ、って思って」


「待て、確かに言う通りも分かるが、聞いた話だと才人の能力は大分落ちているんだろう? 流石に危険すぎる」


「そうですよ、僕だってとてもじゃないですけど、犯罪者とか相手に出来ませんって!!」


今の実力だと、頑張れば一人や二人、多く見積もって三人までならどうにか出来るかもしれない。

でも本来その程度の実力では、アモスに入る資格がない。

僕は例外として置いてもらっているだけなのだ。

だと言うのに、今の状態で実戦などしたら、場合によっては大怪我してしまうかもしれない。


「だからそこで、あなた達シロクロコンビの出番ってわけ。ようは才人を護衛しながらやってくれたらいいわけ。ね、簡単でしょう?」


意外にも誠さんは、葵さんにシロクロコンビと言われる事を拒まなかった。

いや、拒む勇気がないだけか。


「簡単とは言うが、相手にもよるぞ……。流石に強すぎる相手だと守りきれる自信はない」


「大丈夫よ、ちょっと最近強盗や傷害で暴れまわってる奴ら捕まえてくるだけだから」


「あぁ、あの犯罪者グループか」


「えぇ!?」


それの一体どこが大丈夫なのか。

犯罪者グループという事は、相手は少人数ではないという事になる。

さらにおそらくその一人一人が凶器を持っている上に、中にはマジシャンだっているかもしれない。

そうなるとどう考えても、僕という存在は足枷になってしまうのは明確だ。


「ふむ……やつらなら、大丈夫だな」


「大丈夫なの!?」


僕の基準と、アモスでの基準は大きく違っているらしい。

その事に少しばかり体を震わせる。


「とりあえずごちゃごちゃ言ってないで、さっさと行ってきなさい。当然恭介も呼んで、ね」


「葵さんは行かないんですか?」


「私が行って、もし逆にやられちゃったら、どんな目にあうか分からないじゃない」


大丈夫ですよ、あなたなら負けませんから。

と思ってはいても、言うと代わりに僕がどんな目にあうか分かったものではないので、言わない。


「ま、葵の言う事も一理あるからな。仕方がない。才人、行くぞ」


「あ、はい」


その後恭介さんと再会し、事情を説明して一緒に行ってもらった。


「で、ここってわけか」


問題の犯罪者グループが、アジトにしているという建物の前に立ち、恭介さんは言った。

建物は廃墟となっており、以前は何かに使われていたらしいが、詳細は分からない。

更に周りにも民家等はなく、隠れるには恰好の場所とも言える。


「あの、それで……どうするんですか?」


アモスの存在自体を忘れてしまっていた僕に、アモス流のやり方が分かるはずもなかった。

だからこそ事前に知っておく必要がある。

そうでないとどういう行動を取ればいいか分からなくなり、混乱してしまうからだ。


「どうするも何も、向こうは既に問題起こしてんだ。乗り込んでぶっ潰すだけだ」


「いきなり暴力振るったりして、こっちが悪者になる事とかないんですか?」


勿論多少の実力行使なら認めて貰えるだろう。

だが恭介さんの場合、多少で済む気がしない。


そんな僕の疑問には、誠さんが答えた。


「今の世の中だと、アモスより偉い立場のところなんてないんだ。その一番偉い立場の者が何をしていようと、それに逆らえる者はいない。つまりはそういう事だ」


「そんな……」


それはアモスなら何をしてもいいという事になる。

昔、絶対王政という政治制度があった。

アモスは聞く限り、それとなんら大差がない。


それはどこか、おかしくないか?


本来はそれも一つの国としての形だ、と割り切ればいいのだろう。

だが僕にはそんな事、到底出来そうにはなかった。

葵さんや、シロクロコンビは納得しているのだろうか。


「とりあえず、まずは恭介、お前が行け。その後に俺達も続く」


「あいよ、了解」


面倒臭そうにしながらも、建物の入り口まで歩いて行く。

恭介さんは息を深く吸い、そして――


「おらぁ!!」


入口である扉を、体当たりで吹き飛ばした。

扉は勢いよく飛んで行き、丁度部屋の真ん中に、その体をひしゃげさせて落ちていった。


「な、何だ、お前達!?」


中に居た人物達は、当然の事ながら、目を見開き仰天していた。

だが数人はあまりの出来事に、全く反応出来ないでいる。


もし今の僕が同じ状況に陥った場合、おそらく後者だろう。


「アモスって言ったら分かるかぁ?」


恭介さんは余裕の笑みを見せながら、自分達が何者か名乗った。

すると中に居た人物達は、先程まで臨戦態勢を取っていたにも関わらず、アモスの単語を聞くなり、みるみる逃げ腰へと変わっていった。


「なっ……!」


「お前達、何故こういう状況に陥っているか、分かるな?」


誠さんが歩み寄り、犯罪者グループに自分達のしでかした行為を、おそらくは再認識させる目的で、質問する。


「く、くそっ、やっちまえ!」


中からリーダーらしき人物が現れ、声を発する。


「でも相手はあのアモスだぜ!?」


やはり相手がアモスとあってか、命令におとなしく従うものは一人としていなかった。


「馬鹿野郎! アモスが相手だからこそ逃げられないんだろうが!! 幸い相手は三人だ。全員で掛かれば負けねぇよ!!」


ほんの少し、グループの人物達は考え込んだ。

そしてリーダーの言っている事が正しいと判断したのか、グループの人物達は一斉に襲いかかってきた。


「ちっ!」


恭介さんはそれに素早く対応し、容赦なくその拳を、集団の中の一人に叩きつけていた。

拳を食らった人物は呻き声を上げる事すら叶わず、床に伏せ、それ以降起き上がる事はなかった。

そんな仲間を気遣う事もせず、グループ全員が或いはその自らの拳を、また或るいは隠し持っていた刃物を、恭介さんに対して振るう。


しかしそれの一つも恭介さんに当たる事はなく、ただの一撃で全員が全員、意識を失わされている。


「すごい……」


目の前で繰り広げられる光景を、僕は呆然と見ていた。

行われている行為自体はただの喧嘩と言ってもいい。

ただ恭介さんだけは、一人で戦争をしているかのように、無類の力を発揮させていた。


恭介さんが犯罪者グループとやりあっている中、一つ、建物の二階へと上がる人影があった。

それは、先程のリーダーらしき人物だった。


「追うぞ、才人!」


「はい!」


誠さんに言われ、まだその形を形成させていない剣を片手に、人影の後を追い階段へと向かう。

階段には僕の方が近かった為、僕が先頭する形となった。


そして階段を上り、今まさに上りきろうとしたその瞬間、耳を塞ぎたくなるような音が鳴った。

それと同時に、僕の目の前に何かが横切り、直ぐ横の壁に減り込んだ。


「うわっ!?」


それを何かと判断するよりも早く、僕は素早く階段から下へと跳び降りる。

そして改めて何かが減り込んだらしい壁を見てみると、見た記憶がなくても分かる。

銃痕だった。


「どうした、才人!?」


先程まで前を走っていた人物が、突如後ろへ跳んだ事に異変を察知したのか、誠さんは僕に何事かと聞いてくる。


「誠さん、あのリーダーらしき人物、銃を持ってます!」


「く、来るんじゃねぇ! 来たら撃つぞ!?」


僕の言った事が正しいと証明するかの様に、男は叫ぶ。


「誠さん、どうします!?」


僕にはこういう時、どうすればいいか分からない。

それならば、と僕よりも経験のある誠さんに指示を仰いだ。


「銃、か」


少し不味いな、と誠さんは小さく舌打ちをした。


「銃を持っている可能性も予想していたが、ここで出されるとはな……」


誠さんは少し下を俯いたまま、手で口を覆い、考え込んだ。


近くではまだ恭介さんが戦っていた。

何人もの声が乱雑し、それがまだ争っている事を悟らせた。


そして誠さんは手を口から離し、顔を上げる。


「ならここは、俺が行こう」


「だ、大丈夫なんですか?」


「安心しろ、俺はマジシャンだ。俺自身も、武器を持っているんだよ」


その言葉が意味する事とはつまり、魔法を使う、という事だ。


「誠さんの魔法って……?」


「見れば分かるさ」


誠さんは何の躊躇もなく階段を上がっていく。

心配かどうかと問われれば、当然心配だと答える。

だが誠さんの自身に満ちた表情を見ると、任せてもいいと、そう思えた。


「お前、来たら本当に撃つぞ!?」


銃なんて何の問題もないと向かってくる誠さんに、男は恐怖をあらわにしていた。


「撃つなら、撃てばいい」


誠さんは余裕の表情で、相手を挑発する。

その挑発に、男は応えた。


「し、死ねええええ!!」


男の両手の人指し指が、手に持っていた銃の引き金に、力を加える。

それと同時に誠さんは右手を自分の体の前で、大きく横に振る。

すると引き金が引かれ、銃弾が飛ぶよりも先に、男の持っていた銃の上半分が、切断された。


「なにぃ!?」


男が突然の事態に動揺し、大きな隙を見せた。

そこを誠さんが、人間ではあり得ない程の速さで男に迫り、取り押さえる。

僕は僕で、予想外の出来事に脳が判断しきれていなかった。


「誠さん、今の何ですか!?」


「魔法だよ。俺の魔法は、風を操る魔法なんだ」


「そ、そうなんですか?」


「あぁ、それでまず風の刃を作り、銃を切り裂いた。そして次に風で急加速して、相手に近づいた、というわけだ」


それならば先程の異様な速さも納得だ。


「でももし撃たれていたら、どうしてたんですか?」


「様子からして明らかに素人だった。素人がまともに銃を扱えるわけ、ないだろう?」


……凄い。

誠さんも恭介さんも、僕が予想しているよりも遥かに強かった。

僕が足枷になるかもしれないとか、そういうのは全く気にする必要はなかった。

僕は二人の強さに、感激していた。


その後、誠さんと共に下へと降りると、既に恭介さんが全員気絶させていた。

そして犯罪者グループは全員、僕ら、というよりもシロクロコンビによって捕まえられる事となった。


「よくやったわね。私の思った通り、何の心配もなかったみたいね」


アモスへ帰り、葵さんに報告すると、称賛の言葉が送られた。


「それで、誠と恭介の活躍は聞いたけど、才人はどうなのよ?」


「え……?」


僕の、活躍?


「……ん?」


僕今回、何か活躍したか?

一人や二人しか倒せない以前に、一人もまともに相手にしていなかった。

はっきり言って、僕が居ても、何の意味もなかった。


「まさか、何もしてないの?」


「え、あ……はい」


「ま~こ~と~」


葵さんは顔をゆっくりと、誠さんの方へと向かわせる。

誠さんはビクッと体を震わせた。


「何の為に才人を行かせたと、思ってるの?」


「あ、いや、それは、その……」


しどろもどろになる誠さん。

この時点で、僕は誠さんがどうなるか、悟ってしまった。


「おい、才人。俺らは行くぞ」


恭介さんは僕の肩を掴み、立ち去ろうとする。

僕もそれに続く。


「恭介も才人も、ちょっと待ちなさい」


今度は僕と恭介さんが、二人して体を震わせる。


「な、なんでしょうか……?」


恐る恐る葵さんに問う。

その答えは、予想通りのものだった。


「あなた達だけ見逃すと、思ってるの?」


僕と、誠さんと、恭介さんは、三人仲良く――しばかれた。

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