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銀色世界  作者: レイ
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第十三話「上には上がいる」

「魔法については教えれそうにないし、諦めるとして、最悪魔具ぐらいは使えた方がいいわよね」


「そうですね……」


というかそもそも、魔具すら使えなかったら、ここでまとも働いていける自信がない。


「でも葵さん。魔具の使い方、以前は知らないとか言っていませんでしたっけ?」


「それなら大丈夫。使い方は既に知り合いから聞いてあるわ」


「そうなんですか」


「そうよ、だからほら、さっさと魔具出しなさい」


葵さんに言われた通り、魔具であるグロウシェイドを、ポケットの中から取り出す。


「それで、え~と、ちょっと待ってね……」


葵さんがどこからか紙を取り出し、何かを確認する。


「まずそれを持って……」


紙を見ながら話しているという事は、あれは魔具の使い方をメモした紙という事でいいだろう。

メモするぐらいならその知り合い本人を連れてきた方がいい気がする。

忙しいから連れて来られなかったのかもしれないが、時間がかかってまどろっこしく感じる。


「いや、あの、その紙渡してくれれば自分でしますよ?」


「そう? ありがと、なんか説明しにくくって、わけわかんないのよ」


助かったという表情で葵さんは僕に紙を差し出してくる。

僕はそれを受け取り、内容を確認する。


「え~と? まず、これを持って……?」


紙に書かれている内容に従い、行動する。


「次に、魔具に力を解放するように念じる、って言われてもなぁ……」


念じるだけというのは簡単だが、表現が曖昧な所為か、どうすればいいか実感が湧かない。

ただそれでも一応、書いてある通りに念じてみる。


「念じるって、これでいいのかな? お、出た――って、うわああっ!?」


念じるだけで確かに刃は出た。

ただ持ち方が逆だったみたいで、手よりも上側に出るかと思われた刃が、下側から出てきた、危うく僕の腹を突き刺しかける状況へと陥った。


「ちょっと、大丈夫!?」


「だ、大丈夫です」


流石にこれには葵さんも驚いた様で、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


剣を正しく持ち直し、改めて出てきた刃を見る。


「これが、グロウシェイドの、刃……」


形状としては刀に似ている。

だが刀のそれよりも大きく、刀背の部分は刀に比べて全く異質で、そして歪な形をしている。

その所為もあってか、より鋭く研ぎ澄まされている様に見える。


「何かこう、ゲームで言う聖剣みたいなのをイメージしていたんですけど、これだとむしろ魔剣ですね……」


大抵の人は、聖剣と聞くと白く、美しい装飾の施された剣を思い浮かべるだろう。

だがこの剣は、見ていると飲み込まれてしまいそうな、深い蒼。

施されているのは蛇のように波打って描かれている、黒い線のみ。


以前の僕は一体どうしてこんな剣を、好き好んで使っていたのか皆目見当がつかない。


「その剣が作られたのは大分昔だし、感性が違っていたのかしらね。まぁ人生そうそう美味い事にならないと思って、諦めなさいな」


「うぅ、格好いい剣で皆を救って、ヒーローみたいになれると思ったのに……」


馬鹿みたいだが、誰だって一度くらいはそういう事を考えるだろう?


「見た目については諦めますけど、この剣ってどうしたらいいんですか?」


「どうしたらって?」


「魔具って言うからには、他に何かあるんでしょう?」


まさか、ないとか言わないよな?


今のところこの魔具の特徴は、好きな時に刃を出す事が出来るだけだ。

それだけでも確かに凄いとは思うが、それだったら拳銃の方がよっぽどいい。


「えぇ勿論。魔具には必ずと言っていいほど、能力の一つや二つぐらいあるわ」


「そりゃそうですよね。それで、どんな能力があるんですか?」


「知らない」


「……え?」


数秒の沈黙。

その間の僕の思考は、完全にフリーズしていた。


「ええええええええええええええ!?」


知らないと、葵さんはそう言った。

葵さんの物ではない以上、葵さんが知らない可能性は確かにある。

あるのだが、だからと言って。それではいそうですかと、納得出来るかと言われれば、出来るわけがない。


「知らないって、どうしてですか!?」


「そんな事言われても、以前のあなたが私に何も教えてくれなかったんだからしょうがないじゃない」


以前の僕、あまりにも役立たず過ぎるぞ!

いくら他者と関わりたくないからって、それぐらい知られていてもいいじゃないか!

誰にも何も教えないから、結果として今の僕は大分困っているんだぞ!?


心の中で、叫び続けた。

以前の僕に対して罵詈雑言を浴び続けた。

そして浴びせられているのは、結局僕だという事に気付き、泣いた。


「それじゃあ一体、どうすればいいんですか……?」


「確かに。魔法も駄目、魔具も駄目、身体能力も落ちている、となればここでは働いていけないわよねぇ」


「そんな……」


ここで働いていく事が、僕の記憶を取り戻す手掛かりを見つける可能性が最も高い。

それなのにそれが出来なくなると、記憶が戻る可能性はより低くなってしまう。


「だ、大丈夫よ! うちの上司に言っとけば多分なんとかしてくれるわよ、多分!」


「多分じゃ心配なんですけど……」


だが他に何か方法がるわけでもなく、それに頼るしかない事も事実。

不安は残るものの、とりあえず葵さんにお願いした。


「ちょっと待ってて、電話するから」


と言って、葵さんは携帯を取り出し耳にあてる。

そして僕より少し離れた場所に移動した。


葵さんは少し話した後、直ぐに戻ってきた。


「『俺の部下になるならいいよ』ってさ」


「毎度思うんですけど、葵さん達の上司って、正直と言うか何と言うか、建前とか全く使いませんよね……」


「まぁそういう人だし、気にしてもしょうがないわよ。それよりあなたはどうするの?」


「条件としては十分良いですけど、部下になった後僕何させられるんですか……?」


人が人なだけに、怯えずにはいられない。

だってシロクロコンビや葵さんの上司だぞ?

部下になったら何されてもおかしくなさそうで怖い。


「とりあえず私や馬鹿達のサポートをしていればいいらしいわよ」


馬鹿達って、シロクロコンビの事ですか……?


「それなら何とか出来ると思いますけど、そもそも何で僕を助ける気になったんですか?」


「それは私も謎なのよね……。多分記憶喪失になる前のあなたを必要としてるんでしょうけど、ホント謎だわ」


「……」


以前の僕にはやはり何かある。

とんでもない秘密を抱えている。

これは最早予想などではなく、確信を持ってそう言える。


「……分かりました。部下になるって、伝えておいて下さい」


この決断は間違えていないはずだ。

今の僕にとって、記憶を取り戻す事が最優先である以上、協力してくれると言うのなら、それに甘えさせてもらう。


「オッケー。後で伝えとくわ」


葵さんは明るい笑顔で応えた。


「さてと、魔法は無理だったし、魔具も微妙、となれば……」


と、先程までの明るい笑顔が、一気に怖く感じられるようになった。


な、何だ?

何やらよく分からないけど、寒気が……。


「身体を鍛えなおすしか――ないわよね?」


「ひぃっ!?」


どうしてそんなに嬉しそうなんですか!?


「そういえば最近体動かしてないのよ。久々に腕がなるわぁ……」


いえ、ならさなくていいです、本当に。


「さ、才人も準備なさい。あ、勿論魔具は禁止ね☆」


ね☆が全く可愛く思えないのは、何故だろう……。

魔具は使っても使わなくても、結果が変わらない気がするのも、何故だろう……。


僕はガタガタ震えながらも、一応構えを取った。

持っていた荷物は念のため、先に避難させておいた。


「あの、もう色々教えてもらったし、別にいいですよ……」


「安心しなさい。魔法は使わないであげるわ」


あ、駄目だ。

人の話聞いてない。


「さぁ、いくわ――よっ!」


その後、訓練室から謎の悲鳴を聞いたという噂が、短い間アモスの間で流れたという。


「い、生きてた……」


これほどまでに生きている事に感謝したのは、初めてかもしれない。

姉さんの胸に圧迫された時は、何が何だか分からない状況だった上に、気を失ったので、死への恐怖を感じる余裕はなかった。


だが今回は、本当に死ぬかと思った。

葵さんは容赦なく僕に対して攻撃を仕掛けてきた。

それはあのチンピラ達の比じゃなく、避け続ける事は不可能だった。

そして一撃食らってみると、これが痛いのなんの。

攻撃を食らう度に口から何かが出そうになった。


やられてばかりじゃこちらの身が持たないので、一応反撃してみても、全部いなされてしまった。

あまりにも強すぎて、本当に人間かと疑ってしまう程だ。

魔法も使わずこの実力って、もしかしてシロクロコンビよりも強いんじゃないか?


「だらしないわねぇ~。ま、私にとっては良いダイエットになったけど」


葵さんは手を上に上げ、体を伸ばしている。

ほんの少し、軽い運動でもしたような態度だった。


「ダイエットって……十分細いじゃないですか」


そう、全体的に細くて、スレンダーだ……胸も。


「あら、まだ訓練続ける?」


「ごめんなさい! 勘弁してください!!」


相変わらず胸については何故か心を読まれてしまう。

今この状態であんな事を考えるなんて、迂闊すぎるぞ、僕……。


「さ、今日はこれぐらいでいいわね」


「今日はって、次もあるんですか!?」


「何言ってるの、当たり前じゃない」


こんなハードな訓練を何回もだなんて、生きていられる気がしない。


「訓練って、どれぐらいの頻度でやるんですか……?」


毎日とかはやめてください、お願いします。


必死の祈りが届いたのかどうかは知らないが、葵さんの返答は予想外のものだった。


「あぁうん、また今度来た時でいいわよ?」


「……へ? また今度って、何時になるか分かりませんよ?」


「いいわよ、別に。それに私だって多少は忙しいんだから、毎日とか毎週とかは無理よ」


また今度来た時、と言う事は、一生来なければ一生しなくてもいいって事だ。

とはいえ、勿論そんな事を実際にするわけがない。

ハードでも何でも、訓練が必要な事は分かっているから、時間があればこれからも当然通うつもりだ。


「えっと、じゃあいつになるかは分かりませんけど、また来ます」


「あら、もう帰るの?」


「いえ、その前にちょっと葵さんにお願いがあるんですけど」


「お願いって?」


「その、僕が倒れていたらしい研究所に……行きたいんです」


と、前々から考えていた事を、葵さんに伝える。


「行きたいって、あなたねぇ……」


葵さんの表情が、困惑したものへと変わる。


「それ、本気で言ってるの?」


葵さんの言いたい事は分かる。


記憶喪失の原因となった場所に行けば、何か思い出すかもしれない。

だがそれはつまり、もしその場所へ行ったとして、何が起きるか分からないという事だ。

ついこの間目覚め、まだまだ精神的に疲労している現状では、どちらかと言うと反対なんだろう。


「はい……」


だがそれでも、僕は行きたいと、そう伝えた。


「はぁ、しょうがないわね。ドクターストップが掛かってるわけでもないし、私に止める権利はないわ」


「すいません……ありがとうございます」


迷惑を掛けている事を詫び、そして付き合ってくれる事に礼を言う。


「距離ちょっと離れてるし、来るまで行くわよ」


「はい!」


そうして僕は、研究所へ向かった。

たった二日間の出来事とは思えないほどに、僕は動き回っていた。

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