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銀色世界  作者: レイ
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第十二話「再びアモスへ」

「疲れた……」


あの後、ゲームセンターや、動物園や、とにかく色々の場所に連れまわされた。

そしてそのことごとくを僕が奢っていき、結果的に分厚かった財布は、二分の一ぐらいまで薄くなってしまった。

自分から進んでした事とはいえ、財布が薄くなる事には流石に目尻が熱くなってしまう。


「あらそう? 私は楽しかったけど?」


僕は疲労困憊しているというのに、一方のアシュリーは何事もなかったかのように平然としている。

女性が幸せを感じている時の体力は、無尽蔵なんじゃないかと思えてならない。


「というか、行きたいところがある、って言った割には普通の場所ばかりだったね」


そう、今まで行ったところは、最近の若者ならよく訪れる様な場所ばかりだった。

別にそこへ行きたいと思うのは自由だが、行く度々の反応が、新鮮味を感じさせられるというか、あまり慣れていないような感じだった。

まぁ、こんな金髪美少女がゲームセンターとかで遊びまくっている姿など、想像出来ないのだけど。


「仕方ないじゃない。今まで行った事なかったんだから……」


僕の言葉がお気に召さなかったのか、少しふて腐れる。


「行った事ないって、何で?」


「家が許してくれないのよ。だから今日はこっそり抜け出してきたわけ」


「え、っていうことはアシュリーってもしかして……お嬢様!?」


「そうよ、何か悪い?」


「い、いや、別に何も悪くないけど……」


確かにお嬢様と言われれば、納得するしかない。

仕草の一つ一つが一般人のそれとは違うし、それらしき風格もある。

だとしても、今の今まで一緒に過ごしていた人物がお嬢様だと知って、驚かない人物がいるだろうか?

お嬢様みたいな自分に取ってあまりに上過ぎる立場の人と過ごすなんて、創作上の世界でしかハッキリ言ってあり得ない事だ。


「さてと、時間も時間だし、そろそろアモスまで送ってあげる」


「ありがとう、でももう少しぐらいなら普通に付き合えるけど?」


時計は四時を指しているが、時間的には十分余裕がある。

家の位置自体は把握しているから、迷わず帰る事も出来る。


「別にいいわ。十分楽しんだし、何より、あまり遅くなると家がうるさいのよ……」


「あぁ、成程」


やはりお嬢様っていうのも、大変なんだな。


家が裕福で生活に何一つ不自由が無い代わりに、自由が少ない。

その点で考えると、ある意味一般人よりも不自由だ。

適度に裕福な家の方が自由もあって一番いいんだろう。

僕の家はどう考えても貧乏だけど。


「とりあえず早く行きましょう。ここからだとちょっと遠いのよ」


そして僕はようやく、アモスへと向かう。

アモスへ行く時も葵さんに案内してもらったわけだが、今のところ僕が率先して歩いていた事はない。

記憶を失ったから仕方が無い、と言われればそれで終わりなのだが、こうも小判鮫のように付いて行っているだけでは、流石に自分が情けなく思えてしまう。


あれからまた、二十分程歩いた。

記憶喪失を知った時から、未だ少し疲労しているこの体に、今日歩いた距離は流石に辛いものがあった。

精神的な疲労とはいえ、疲労には変わりがない。

態度には出さないものの、もうこれ以上長い距離を歩ける気がしない。


「はい、着いたわ」


着いた場所を見ると、そこには確かに、以前見たままのアモスがあった。

何度見てもその大きさに圧倒されてしまう。


「じゃあ私はさっさと帰るわね」


「いや、ちょっと待って」


アモスに着くなり、直ぐに帰ろうとするアシュリーを呼び止める。


「何、まだ何か用事あるの? 言っとくけど、携帯は持ってないからアドレスとかは交換出来ないわよ」


「何だ、それ……。それはどうでもいいんだけどさ、ただお礼がしたくてさ」


「お礼? お礼なら色々奢ってもらったりしたじゃない」


「それは僕も楽しませてもらったから、そのお礼、かな」


「一々律儀ねぇ……」


「いいんだよ。恩知らずよりは律儀の方が。ともかくこれ、特に大切な物でもないだろうし、上げるよ」


僕が渡したのは、家で自分の部屋を漁った時に見つけた、謎の指輪だった。

姉さんや、疑われないか心配だったが瑠璃にも聞いてみたが、誰に知らなかった。

一応葵さんにも聞いてみようかと、思って持って来たのだが、特別必要そうな物ではないのでアシュリーに上げる事にした。


「……何これ?」


「指輪、なんだけど……?」


「それは分かってるわよ。私が言いたいのは、男性から女性に指輪を送るのが、どういう意味か知っているのかって事」


「あ……」


「あなたねぇ……」


「ゴゴゴゴ、ゴメン! そういう意図は全く無かったんだ、決して、これっぽっちも!!」


つくづく僕は間抜けだ。

カップルに見られるような行動に加え、プロポーズしているように見えてしまう行動までしてしまっている。

こんなの、彼女に気があるようにしか思えない。


「……まぁいいわ。一応貰っておく、ありがとう」


僕から指輪を受け取るなり、アシュリーは指輪をはめた。


左手の薬指に。


「ぶっ!?」


「冗談よ」


僕があまりの事に仰天したのを確認すると、指輪は直ぐに外された。


……もしかして、仕返しされたのか?


「それで、今度こそ用事はこれで終わりよね?」


「あ、うん……」


「そう、今度こそさようなら」


「さ、さようなら……」


そしてアシュリーはゆっくりと去っていく。

僕はそんな彼女を、見えなくなるまで見つめていた……。


アシュリーが見えなくなった後、僕は早速アモスに入り、受け付けで葵さんを呼んでもらった。

アモスのカードを見せると、何も聞かれず普通に呼んでもらえた。

やはりアモスのメンバーはそれだけ特別なのだろうか。


「どうかした? 何か顔色悪いじゃない」


因みに現在、魔法の使い方を教えてもらう為に、訓練場に向かっている。

ついでに以前の実力を取り戻す為の訓練もつけてくれるとの事だ。

葵さん曰く、「本当なら訓練なんていらないぐらいの実力」らしい。

それなのに訓練をするという事は、それだけ弱くなっているという事だろう。


確かにチンピラ達と喧嘩をした時、かわす事は出来たものの、まともに攻撃が出来ずにいた。

チンピラ達がそれだけ強かったという可能性もあるが、それでも僕は弱くなっているんだろう。


「いえ、さっきまでちょっとある女の子に、付き合わされていたもんですから。まぁ僕も割と楽しんだんですけどね」


僕は何気なく言ったのだが、葵さんはそれを聞くと目を光らせた。


「へぇ、誰? 才人の知り合い?」


「いえ、赤の他人ですけど……?」


そう言うと葵さんはますます目を明るく光らせた。

何をそこまで目を光らせる事が、あるんだろうか?


「へ~、じゃあ知らない子に声掛けられたわけ?」


「いえ、チンピラに絡まれていたところを助けたんですけど、そのお礼として辺りや、アモスまでの案内をしてもらっただけです」


本当に絡まれたのはオジサンなのだが、面倒くさいので省く事にした。

オジサン、スイマセン……。


「へぇ~、ふ~ん、そっか~。助けてあげたんだ~」


「……何ニヤニヤしながら一人で納得してるんですか……?」


「いや~やっぱり才人ってモテるんだな~、って思っただけよ?」


「別にモテてるわけじゃないでしょう……。本当にただのお礼ですって」


「いやいや~、普通なら助けてもらったらお礼だけしか言わないわよ? ま、私の場合は、助けられる前に大抵私が潰してるけどね」


「潰すって……」


アモスに入れる程の実力なのだから、襲われた場合確かにそういう結果になりそうだが、あまりに男の出番がなさすぎる……。


葵さんは先程からずっとニヤニヤとこちらを見ている。

本当にただのお礼だと、経緯を最初から最後まで言えば信じてもらえるだろう。

だけどその場合、手を繋いだ事等も話す事になるかもしれないので、やっぱり話さない事にした。


「大体、もし僕がモテるんでしたら、彼女の一人や二人ぐらい、いるでしょうが。いや、二股する気はありませんけど」


こんな事を言っても、まだからかってくるかと思っていた。

しかし葵さんは急に困った顔をして、


「あ~うん、そう……ね」


と口籠ってしまった。


「そここそハッキリと否定してくださいよ!? 流石に傷つきますよ!?」


「いえ、今のあなたなら別にいいのよ? 普通に彼女ぐらい出来そうだわ。でもね、以前のあなたは、性格がちょっと……」


「……」


葵さんにそう言われ、僕も納得した。

昨日葵さんに、僕はどんな人物だったか、と聞いた時、葵さんは「一匹狼みたいだった」と答えた。

つまりはそう言う事だ。

僕は仲間や親友どころか、女性と関係を持つ事もあり得なかったらしい。


「いくらなんでも今の僕と違い過ぎませんか、正確」


「多分今のあなたが歪んで育った結果が、以前のあなたなのよ……」


「歪んで育ったって、本人の前で言いますか……。記憶取り戻した後どうなっても知りませんよ? 自分の事ですけど……」


そんな事を話しながら歩いているうちに、僕と葵さんは一つの部屋の前に到着した。


「ここ、ですか?」


「そうよ、この先が訓練スペースになっているわ」


扉自体は普通の、白く汚れのない、どこにでもあるような扉だった。

ただ何故だろうか、一目見た時から、何とも言えない、『ズレ』みたいなものを感じる。


「あの、葵さん。この扉、何か変じゃありません?」


「あら、気が付いた? 記憶を失くしてても、感じとれるものなのね」


「へ?」


意味が分かっていない僕を放置し、葵さんは近くにあった機械にカードキーを通し、扉を開け、中に入る。

僕も続いて入ったのだが――


そこは、明らかに建物よりも広い空間が広がっていた。


「な、なんですか、これ!?」


「やっぱり最初は驚くわよねぇ。これも魔法の力よ」


「これも、ですか……?」


部屋の内装はある程度予想した通りだった。

白い壁や天井に囲まれ、そして何一つ無駄な構造になっていない。

訓練にはもってこいの空間だった。

ただ広さが、学校によって違うが、大体グラウンド程の広さはゆうにあるだろう。


「どうなってるんですか、これ?」


「空間をちょっと弄ってるのよ、魔法でね。外側からだと何も変化が無いから、気分的には私達が小さくなっているようなものよ」


「あ~、それなら何となく、納得です」


納得ではあるのだが、魔法は一体どこまで活躍の幅が広いんだ。

空間を弄る魔法なんて、使いようによってはあまりにも強力すぎるじゃないか。


「こんな魔法、一体誰が使っているんですか?」


人によって使える魔法は元から、それこそ生まれた時から決まっている。

魔法何て呼ぶより、超能力と呼んだ方が分かりやすいし、良い気もするのだが、それを変える事なんて僕には出来ない。


ただ超能力だとか魔法だとかはどうでもよく、空間を弄れる力があるというのが、驚きだ。


「誰だったかしら……? かなり上の立場だって事は確かだけど、よく覚えていないわ」


「やっぱり上の人なんですか」


こんな強力な力を持っていたら、上の立場のいるのも納得だ。


「後一つ心配な事があるんですけど、魔法が切れたりとか、しないんですか?」


「あぁそれなら大丈夫よ。この空間は弄られた今の形で固定されて、使用者の支配からはもう抜けているもの。それにもし切れても、元の空間に私達が戻る事になるだけよ。まぁその場合、部屋があまりに狭くてぎゅうぎゅう詰めになるでしょうけど」


「そうなんですか、それなら安心です」


もし魔法の効力が切れた時、その空間の中に居た僕達は消滅してしまうんじゃないか、と不安に駆られてしまった。


「安心したならそれでいいとして、そろそろ始めましょうか」


「そうですね、それで、何からするんですか?」


「そうねぇ、あなた、今魔法についてどこまで覚えてるわけ?」


どこまで、その質問に僕は悩まざるを得なかった。


魔法の存在自体は覚えていた。

人によって使える魔法が違う事も覚えている。

なら一体僕は何を忘れたというのか。


忘れているのだから普通、何を忘れているというのは分からない。

分かる限りだと、魔法の使い方と、僕はどういった魔法を使えるか、だ。


しかし一体どういう事だろう?

魔法の存在全てを忘れているなら、まだ何となく分かる。

でも自分についての魔法だけ忘れているのだとすれば、何か意味があるんだろうか?


「多分、ですけど、魔法の使い方とかぐらいしか忘れてないと思います」


「それだと説明少なくて済むわね」


と、葵さん安心したような顔を見せるものの、それは直ぐに暗くなった。


「あ~でも、無理っぽいわね……。だって魔法の使い方なんて、説明出来るものじゃないもの」


「どういう事ですか?」


「凄い分かりやすく言うと……あなた、空気を吸ったり吐いたりする方法説明出来る?」


「えっと……無理、ですね。そもそもその行為を説明する事自体に、吸ったり吐いたり出来る事を前提として話さないといけませんし」


「そういうわけなのよ。何て言うのかしら、こう、気を溜めて放出する? みたいな感じなんだけど、それで分かるわけないわよね」


「すいません、分かりません……」


なんという事だろう。

この時点で魔法をまた使えるようになるのは、ほとんど無理だという事を悟ってしまった。

記憶が戻れば使えるだろうが、それがいつか分からない以上、魔法は使えないものと判断するしかない。


「「はぁ~……」」


結局は二人して落ち込んでしまう。

もしかしたらここに来たのは失敗だったかもしれない……。

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