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銀色世界  作者: レイ
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第十一話「デート≒地獄」

あれからさらに移動し、最早警官どころか、あの状況に居合わせた人すら、一人もいないだろう。


「ここまで来れば、大丈夫ね」


そう言ってようやく止まり、手が離される。

うわっ、凄い汗掻いてるし……。

気持ち悪いとか思われてないかな……?


「ふぅ~……」


「何? 私といるの、嫌だったわけ?」


「い、いや、そんな事はない!」


ただ恥ずかしくて辛かっただけだ。

女性と手を繋ぐのがあんなに恥ずかしいものだったとは……。

こんなんじゃ彼女が出来たりなんて事はないんだろうな。

というか記憶喪失というこの現状で、彼女を作る余裕等あるわけがないから、結局は出来ないだろう。

まあ特別欲しいとは思っていないのだけれど。


「ふ~ん……まぁいいわ。それで、あなたはどうするつもり?」


「あ~、実を言うと、アモスに行きたいんだけど、道が分からないんだ」


「分からない? あなた、この辺の人じゃないの?」


「そういうわけじゃないんだけど、道にはあんまり詳しくなくて……」


流石に記憶喪失とは言えない。

相手も困るだろうし、それに、話す事でそれが瑠璃の耳に入らないという可能性が、ないとは言い切れない。

彼女と瑠璃が知り合いという可能性も、あるのだから。


「アモスなら一応場所教えて上げられるけど、知りたい?」


「是非」


意外なところから救いの手が。

もし教えてくれるなら、それは願ってもない事だ。


「じゃあ教えてあげる、その代わり!」


「そ、その代わり……?」


今まで出会った人達が、人達なので、無茶な要求をされないか不安で仕方がなかった。

激しく心配だ。

もしかしてアモスに連れて行く代わりに、「私を甲子園に連れてって」とか言わないだろうな?

……阿呆だろ、僕。


「しばらく私に付き合ってくれない? 今直ぐ行かないと駄目なわけじゃないんでしょ?」


「あ、それなら別に」


思ったよりも普通の要求で、心底安心した。

確かに今直ぐ行かなければならないわけじゃない。

もし今直ぐ行かなければならないのなら、こんなところで喋っている暇なんて、あるわけがない。

アシュリーも、それを分かって言ったんだろう。


「じゃあ決まりね。ただその前に、ちょっと小腹も空いたし、昼食にしない?」


言われて時計を見る。

時刻は十一時過ぎ。

昼食にするには少し早すぎる気もするが、店が混むより前に食べておいた方が楽と言えば楽だ。

それに、先程のチンピラ達との喧嘩で動いた所為か、僕も小腹が空いていた。


「そう、だね。僕もちょっとお腹空いたし、少し早いけど昼食にしますか」


そして僕とアシュリーは辺りをうろつき、適当な店を見つけて入った。

店は落ち着いた雰囲気のレストランで、メニューを選び、料理が来るのを待った。

その間特に喋る事もなく、二人共静かに店の音楽に聞き入っていた。


こんなに落ちつけるのは、記憶をなくしてからだと、初めてかもしれない。

今まで明るい雰囲気等はあったが、皆が皆、元気過ぎて落ち着く余裕等はほとんどなかったと思う。


そしてそんな落ち着いた雰囲気の中だと、ついつい余計な事を考えてしまう。

彼女は何者なのか、どうして僕を付き合わせたのか、そもそも警察が来た時、どうして僕を放っておかなかったのか。

別にそれは全部彼女の意思だし、無理に知る必要は全くないのだ。

だと言うのに、気になってしまう。


「あの、さ……」


「……何?」


「その、どうして僕を付き合わせたのかなぁ? って、気になったり、しなかったり……いや、なんでもないです……」


あそこまで言っておいて、最後まで聞かないとはなんて情けないんだ。

やっぱり迷惑かと思って止めたものの、あんな変に止めたら余計迷惑だったかもしれない。


アシュリーの様子をおずおずと窺ってみると、怒った様子も、鬱陶しいといった感じの様子もなかった。

そして少し無言の時間が続き、


「別に……」


アシュリーが口を開く。


「別に、大した意味はないわ。ただ庇ってもらったわけだし、折角だからこの辺の事を教えてあげようかなって、そういうただのお節介よ」


庇ってもらったと言うのは、チンピラ達の事だろう。

アシュリーが出て来なくとも、止めには入るつもりだった。

だからそこまでして貰う必要は全くないのだが、どうせならその好意に甘えさせてもらう。

知れる事は何でも知っておきたいからだ。


「そうなんだ、ありがとう」


「別に、礼を言われる程の事じゃないわ……」


素っ気ない態度を見せてはいるが、頬がほんのり赤くなっている。

照れているんだろうか、元から可愛い事もあって、かなり可愛く見える。


「……何、その顔? 何か腹立つんだけど」


「え、僕変な顔してた?」


「ええ、とっても気持ち悪い顔していたわ」


「ひどっ!?」


あまりに容赦が無い。

そりゃあ確かに、少しはニヤニヤしていたかも、という自覚はあるが、あそこまで言われると流石に傷つく。


「お待たせしました~」


と、ウェイトレスの人が来て、頼んでいたメニューを一つずつ順々に、テーブルへと並べていく。


「ご注文はこれでよろしいでしょうか?」


メニューを一通り並べ終え、ウェイトレスが確認の言葉を入れる。


「はい、大丈夫です」


「かしこまりました。それにしてもお二人共、素敵ですね。とてもお似合いですよ」


「「……は?」」


ウェイトレスの女性が、輝かしい笑顔で、何やら謎の言葉を置いて、行ってしまった。


お似合い?

誰と誰が?


あまりにも突拍子な言葉で、二人共直ぐには反応出来ずにいた。


いや、待て、冷静に考えろ。

ここにその言葉を置いて行ったという事は、つまりお似合いなのは僕とアシュリーが、と言う事だ。

そしてこの場合のお似合いという意味は、おそらく……。


カップル、と言う事だろう。


「「……」」


アシュリーと顔を見合せる。

アシュリーも言葉の意味を理解したのか、かなり面倒くさそうな顔をしている。


「え、えーと……」


何を言っていいのか分からない。


「と、とにかく食べちゃおうか! 冷めると困るし」


「そうね」


短い返事だけをし、アシュリーは黙々と食べ始める。

僕も一応食べはするが、微妙に気まずい所為で美味しく味わえずにいる。


な、何だ、この状況?

落ち着いた雰囲気が良いとは言ったけど、これは流石に辛いぞ。


しかも二人共無言で静かな所為で、周りの声がよく聞こえてしまう。


「ねぇねぇ、あそこのカップル、両方とも超美形じゃない?」


「ホントホント~。あぁ~、私もあんな彼氏ほしいな~」


「ちっ、可愛い彼女連れやがって」


「爆発しろ」


少し物騒な声が聞こえた気もするが、気にしない事にしよう。

ただ聞く限り、大半の人達が僕達をカップルだと認識してしまっている。

そう勘違いされる事は、僕自体は構わないのだが、アシュリーの機嫌が益々悪くなっていくので、あまり口には出さないでほしい。


「……僕らってさ」


「……何?」


「割とお似合いみたいだね、ハハハ」


「寝言は寝てから言いなさい」


「ゴメンナサイ……」


ただ冗談を言っただけでも怒られるこの状況。

逃げたい。

一刻も早くこの空間から逃げ出したい!

どうしてただ昼食を取るだけでこんな思いをしなくちゃならないんだ!?


これも全部、あのウェイトレスさんの所為だ!

文句を言ってやろうか……あ、これ美味い、何も文句なんてないです、はい。


「ご馳走様」


馬鹿な事を考えている間に、アシュリーは食べ終わったみたいだ。

あまり待たせるのも良くないので、僕も急いで食べ終わる。


「ご馳走様、じゃ、じゃあ行こうか」


ようやくこの空間から逃げ出せる。

その事実が僕を救ってくれる。


「そうね、行きましょう。どれだけ食べたかよく分からないし、割り勘でいいわよね?」


「あ、いや、僕が全部出すよ」


女性に払わせるのもどうかと思うし、この辺を案内してくれるお礼の意味でもある。

幸い、財布には今日一日では、流石に使いきらないぐらいのお金が入っている。


「お金もちゃんと払ってあげるんだ~。ホントあんな彼氏ほし~」


「羨ましいわ~」


「ちっ、貧乏人の癖に変に格好つけやがって……」


「爆発しろ」


「……」


どうしてだろう、好意のはずが逆効果な気がするのは。


「あなた、それワザとやってない?」


それとは、カップルに見られてしまう様な行為という事だろう。


「いやいやいや! そんな事ないから、本当にただの好意だから!!」


弁明してみるも、全部は信じてもらえなかったようで、未だ疑いの目をしている。


「うぅ、本当なのに……」


ただでさえ辛いこの状況に、自分の言っている事が信じて貰えない事に、少し涙が出た。

これ以上ここにいると、精神的にもちそうにないので、さっさとお金を払って店を出た。


外に出て、空気を吸う。

生き返ったと言っていいほど、気持ちいい。

ようやく解放された、本当に助かった。


「それで、どこへ行く? どこか行きたいところ、ある?」


アシュリーは一刻も早くこの場所から離れたいのか、早速次はどこへ行くか、の決断を、僕に求めてくる。


「特にはない、かな」


「そう、それなら私が行きたいところ行ってもいいかしら?」


「うん、別にいいよ」


とりあえずどこでもいいから、僕もここから離れたい。


全く皆カップルだなんて、ただ普通に話したり、一緒に食事したり、一緒にその辺歩きまわったりしているだけじゃないか。

……あれ?

確かにこれ、デートだ……。


本人達にその気はなくても、傍から見たら普通にカップルが行うと言われる、デートだった。


「じゃあ早速行くわよ」


「了解、それでどこへ?」


「行ってからのお楽しみって事にしておくわ」


と、アシュリーは悪戯っ児の様な笑顔を見せる。

一体何処なんだろうか。

アシュリーの少し楽しそうな様子からして、僕にとってもつまらない場所ではなさそうだ。

その事に少し期待を覚え、僕は彼女の後を付いていく。


「そういえば、一つ聞いてもいいかしら?」


歩いている途中、アシュリーがふと思い出し様に聞いてきた。


「いいけど、何?」


「あなた、どうしてアモスに行きたいの?」


「あ、あぁ、それね。えーと……」


さて、どう言い訳したらいいものか。

確かにアモスに行くのなら、何か理由ぐらいあって当然だ。

あり得るとしたら、家族に忘れものか何かを届けに行く、とかだろうけど、詮索されると直ぐにボロがでそうだな。

それならば、言いたくない事は避ける形で、本当の事を言った方がいいだろう。


「僕実はさ、アモスに所属しているんだけど、方向音痴な所為で、まだ道覚えていないんだ」


よし、嘘は言ってないはずだ。

不自然な事は言ってないはずだ。

その確認として、アシュリーの顔をチラリと横目で見る。

だがアシュリーは、心底驚いた顔で、こちらを見ていた。

もしかして、何か変な事言ったのか……?


「嘘……あなた、アモスに入ってるの!?」


「え? うん、そうだけど……?」


な、何なんだ?

入っていたら何か不味いのか?


一体どうしてあんな顔をされているのか分からず、僕はただただ、相手の言葉を待つしかなかった。


「だってアモスって言ったら、相当な実力がないと入れないのよ?」


「あ、あれ? そうだっけ?」


そういえばそんな事を葵さんだか、パスティアさんだか、誰かが言っていたような気がする。

自分が強いという自覚がないからか、そんな話はとうの昔に忘れていた。


「そうだっけ、ってあなたねぇ……。よくそんな調子で入れたわね……」


「いやぁ、僕にもどうして入れたのか、よく分からないんだ」


忘れましたから。


「全国の努力家を、的に回した気がするわ……」


「うん、本当に回してそうで怖い……」


なぁ以前の僕。

君は一生懸命努力した結果、アモスに入れたんだよね?

そうであってくれ、でないとたくさんの人に妬まれる。


「しかしどおりで、馬鹿相手に冷静に戦えたわけよね。普通あんなに攻撃かわしたりなんて出来ないわ」


そう言われてみると、確かに僕はまともな攻撃は食らっていない。

精々挙げるとしたら、鉄パイプを右手で受け止めた時くらいだが、それでも少し負傷しただけに過ぎない。

これも体が覚えていた、と言いたいが、体が覚えていただけであそこまで出来るものだろうか?

分からない、が、何となくただの記憶喪失ではない、そういう気がした。


「何はともあれ、これで色々と納得言ったわ」


「そ、そう? 良かった……」


どうにか誤魔化す事が出来たみたいだ。


「何か言った?」


「いいや、何も」


「そう、ならさっさと行きましょうか」


そして先程よりも、少し早く歩きだす。

当然付いていけない速さではないので、僕も普通にその後を追う。


この傍から見たらデートに見えてしまう行為を、僕は一体どれだけ満喫する事が出来るのだろうか。

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