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銀色世界  作者: レイ
11/26

第十話「彼女との出会い」

「ん――」


眩しい、眼が覚め、最初に感じたのはそれだった。

そしてそれは、窓から差し込んできた朝日が原因だと、直ぐに把握した。


「まぶしっ――」


率直な感想を吐きながら起き上がる。

自分の寝ていた場所を見ると、どうやら僕はリビングのソファで寝ていたらしい。

けれど、何故なのか思い出せない。


「うーん、何だったかな? 何かあった気がするんだけどな……」


口に出しながら考えてみるが、結局思い出す事は出来なかった。


「あ、起きた? お兄ちゃん、おはよ」


「ん? あぁ、おはよう……」


「朝ご飯どうする? パン、それともご飯?」


「あ~、パンでお願い」


「うん、分かった。じゃあ出来るまで待ってて」


「ん~、了解~……」


寝起きの所為か上手く喋れなかったが、伝わったみたいなのでよしとしよう。

壁に掛けられている時計に目を移す。

現在、時計の針は七時三十分を指している。

早いとも遅いとも言えない時間帯、ただ二度寝はしないでおこう。


とりあえず顔を洗い、目を覚まそうと思い、ソファから立ち上がって洗面台まで向かう。


「ふぁ、ふぁーふん、ふぉふぁあふぉ~(あ、サーくん。おはよ~)」


「うん、おはよう。でも別に磨き終わってからでいいよ」


洗面台に向かうと、姉さんが歯を磨いていた。


姉さんは僕と瑠璃の世話をする為に、この家で一緒に生活してくれている。

姉さんの話だと、姉さんの両親は仕事が忙しくて、ほとんど家に帰ってこないらしい。

だから姉さんの家には普段誰もいないわけで、ここで過ごしていても大丈夫みたいだ。。

それでも一応、偶には家に帰っているらしいけど。


「姉さん、顔洗いたいから洗面台借りていい?」


「ふぉうふぉ~(どうぞ~)」


姉さんに許可を貰い、顔を洗う。

それと同時に姉さんも歯を磨き終わったらしく、今度は口を濯いでいる。


「そうだ、姉さん。実は昨日の記憶が曖昧なんだけどさ、どうして僕ソファで寝てたのか、分かる?」


「えっ、――ゲホッゲホッ!!」


「ちょ、姉さん大丈夫!?」


ぼ、僕今何か不味い事言ったか?

突然むせるなんて、予想してないぞ。


「うん――大丈夫、大丈夫。も~まんたいだよ」


「そ、そう? ならいいんだけどさ……それで、何で寝てたのか分かる?」


「いや~、お姉ちゃん分かんないな~……」


「そう、本当何て寝てたんだろう……」


そう言いながらリビングへ戻る。


「昨日の事、覚えてないんだ……瑠璃ちゃんの為にも黙っておいた方がいいよね……」


僕の後ろで姉さんが何か呟いていたが、僕にはそれを聞き取る事は出来なかった。


「ご馳走様でした」


瑠璃の作った朝食を美味しく頂き、そう言った。

昨日食べた姉さんの料理と言い、今の瑠璃の料理といい、二人共料理は上手いみたいだ。


僕はどうだろう?

簡単な料理なら出来そうだ。

料理が出来るに越した事はないし、今度してみよう。


「ご馳走様、と。じゃあそろそろ時間だし、行ってきまーす」


と、少し急ぎながら瑠璃は家を出ていく。

こんな朝早くから、一体どこに出掛けるのだろうか。


「はーい、いってらっしゃ~い」


「姉さん、瑠璃はこんな朝早くからどこに?」


「中学校だよ~」


「あ……」


学校、言われてハッとなる。

確かに今よくよく思い返すと、瑠璃は制服を着ていた。

馬鹿だろ僕……。


「あれ? と言う事は今日平日?」


「うん、そうだよ~。どうかしたの?」


「平日なら、僕も出掛けようかと思ってさ」


「え~、折角サーくん家に帰ってきたから、いっぱいお話しようと思ったのに~。どこ行くの~?」


「とりあえずまたアモスに行こうと思って、まだ知りたい事もあるしね」


平日には大抵の人が働いている。

なら葵さんもきっとアモスにいるだろう。

行動は早い方がいい、折角だし今日にでも魔法の使い方等を教えてもらおう。

わざわざ休日に呼んで教えてもらうのも気が引けるし。


「昼食は財布の中に金がいくつか入ってたから、自分でなんとかするよ」


自分の財布をパンパンと軽く叩きながら言う。

そして僕は出掛ける準備をする。

財布は勿論、魔具であるグロウシェイドや、他に必要な物を一通り持つ。


「よし、大体こんなものかな。これからはちゃんと家に帰ってくるつもりだし、話すのはまた今度しようか」


「そう? ならいいかな、いってらっしゃ~い。気をつけてね~」


「うん、行ってきます」


姉さんにそう言い、家を出る。


本当に魔法がまた使えるのか、アモスで働いていけるのか。

一抹の不安が残りながらも、僕はアモスへと向かった。


「……迷った……」


人々が大勢行き交う道の中、僕は一人そう呟いた。


僕が家を出た時、腕時計は八時ピッタリを指していた。

しかし今は十時を指している。

つまりあれから二時間ほど経った現在、僕は道に迷っていた。


葵さんに車で送ってもらっていた時に、中から道を見て、ある程度覚えたし多分大丈夫だろうと思ってしまったのが、失敗だったみたいだ。

あまり近辺の建物に詳しくないから、どれがどれだか分からなくなってしまった。


こういう時、大抵は交番に行って、道を聞くのが普通で、妥当な判断だろう。

だけど、アモスは警察署としての役割もはたしてある。

その近くに交番があるとも考えにくい。

仮にあっても、交番の場所すら分からないのでどうしようもない。


本当にしまった。

こんなことならせめて地図を見るくらいはしておけばよかったと思う。

誰かに道を聞こうか、と悩みながら辺りをうろつく。

その辺の人に聞いてもいいのだけど、「記憶喪失で場所が分かりません」なんていきなり言われても困るだろう。


気が付くと現在時刻はおよそ十時二〇分。

あれから更に二〇分もたってしまったらしい。

というかこのままじゃ下手すると家にも帰れないんじゃないか?


このまま悩み続けても埒が明かない。

誰でもいいから聞こうと決心し、誰がいいかと見渡していると、ふと何やら小さな人混みを見つけた。

どうやら何か揉めているらしい。


「あの、どうかしたんですか?」


人混みへ近づき、直ぐ近くの二つか三つほど年上であろう青年に、事情を聞いてみる。

単なる好奇心だ。


「ん? あぁ、ヤクザがチンピラか分かんないけど、オジサンに因縁付けてるんだ」


「ヤクザ、ですか……」


そんなのは恭介さんだけで十分だ。


小さな人混みを軽くかき分けて、原因となっている人物達を見つけた。


因縁をつけているらしいのは二人組で、片やスキンヘッド、片やオールバックと、あまりにも分かりやすすぎるチンピラだった。

逆に因縁をつけられているらしい人物は、小太りな体型に白髪、そして眼鏡、とチンピラにとっては恰好の獲物になりそうな見た目だった。


「一体どうしてくれんじゃ、ワレェ!?」


スキンヘッドの男が、台本でも用意しているのかと思うぐらいベタなセリフを吐き、小太りな男性を威嚇している。


「いえ、本当にスイマセン、スイマセン!」


ただひたすらに謝る小太りな男性。

あまりにも情けない姿かもしれないが、相手が相手なだけに誰も非難等出来ないだろう。

チンピラの方はそのあまりに情けない姿が癪に障ったのか、益々声を荒げて怒鳴りつける。


流石に不味いな、このままだと暴力に発展しかねない。


いい加減止めに入るべきかと思い、足を進める。

が、僕よりも先に、別の人物が先に割って入って行った。


そこには、この状況にはあまりにも似つかわしくない、美少女がいた。

完璧に作り上げられたかのような、白く透き通った肌、闇に晒せば、何よりも美しく光り輝いてしまいそうな金色の髪、そしてそれらに勝るとも劣らない、整った顔立ち。

瑠璃以上の美少女だった。

自分と同い年くらいかと思ったが、そのあまりの美しさに、もっと年上かとも思わされる。


最初は割って入られた事に、チンピラ二人共癇癪を立てたが、少女の顔を見るなり、下種な笑みを浮かべる。


「おぅ、嬢ちゃん、何か用かい?」


小太りな男性の時とは大きく態度を変え、今度はオールバックの男が、あくまで表面上は紳士的に話しかける。


「いい加減飽きたんじゃないの? そろそろ見逃してあげたら?」


一方少女は、チンピラ如きに物怖じする様子もなく、冷静だ。


「おいおい、先にそのおっさんがぶつかってきて、俺のスーツ汚してくれたんだぜ? クリーニング代は払って貰って当然だろ?」


するとオールバックはほら、と何かの液体で汚れた自分の来ているスーツを見せてきた。

男の片手には缶ビールがある。

おそらくあれを飲みながら歩いている時に、ぶつかって零したんだろう。

もしそうなのだとしたら、確かに小太りな男性にも責任はあるが、ハッキリ言って自業自得だ。


「だからクリーニング代は払います、って言ってるじゃないですか……!」


小太りな男性は涙目になりながら訴える。


「あぁ~? じゃあしめて十万円、払ってくれるのかい?」


「何で、そんなに……」


そんなにも払えないと、言葉にせずとも態度で分かる。

確かに、数千円程度ならば、まだ納得もいくだろう。

でもクリーニングをするだけでそんなにも金を必要とするわけがない。


「あなた達の言っている額は明らかにおかしいわ。どう考えても高すぎよ」


「別に高くはねぇだろ、十万円くれたら、それで綺麗サッパリ忘れてやるって言ってるんだぜ、なぁ?」


と、オールバックは、隣のスキンヘッドに同意を求める。


「あぁ、それとも何か? 嬢ちゃんが代わりに体で払ってくれるってのかい? だったら大歓迎だぜ」


「あなたみたいなハゲ男なんかお断りよ」


「なんだと、テメェ!?」


ハゲという単語にスキンヘッドは激しく反応する。

言われたくないのなら、そもそもスキンヘッドにしなければいいのでは、と思うが、そんな事を言っても無駄だろう。


というかあれぐらいの挑発で簡単に怒るか、普通?

ただ心配な事があるとすれば、少女の方だ。

何か理由があって挑発したんだと思いたい。

何の作戦もなくただ挑発しただけなら、少女が危険だ。


嫌な予感は的中しスキンヘッドが少女に掴みかかろうとする。


「あの、待ってください!」


流石にこれ以上、黙って見ているわけにはいかない。

僕はスキンヘッドを呼びとめ、少女の前に立つ。

するとスキンヘッドは、また割って入られた事が気に喰わないのか、僕の話を聞こうともせず、拳を振るう。


「うわっ!?」


寸前のところで体を左に動かす事で避ける事が出来た。

ただそれで安心する事は出来ず、スキンヘッドは続けざまに拳を振るってくる。


「いやっ、ちょっと、タンマ!!」


制止の声を呼び掛けてみるも、当然受け入れてはもらえなかった。

右に、左にと、素早く体を動かす事でどうにか避ける事が出来ている。

男の拳は、格闘技でもやっていたのか、無駄な動きが少なく、速い。

ただそれを僕は全て見切る事が出来ている。

これもやはり体が覚えていたんだろう。


「危ないっ!」


少女の声がし、後ろを振り返ると、オールバックがどこから持ってきたのか、鉄パイプを持って殴りかかってきた。


これは避けられない。


そう判断するが速く、僕の右手は鉄パイプを受け止めていた。


「っ……!」


だが衝撃を完全には消せていらず、右手から激しい激痛が走る。

右手が痺れて上手く動かせない。


「オラッ! これで終わりだ!!」


チャンスと見たのか、スキンヘッドが大きく拳を振り上げ、明らかに今までよりも強く振るってくる。


「ヤバッ!?」


激しい痛みを覚悟し、目を瞑る。

だがそれと同時に、意図せず無我夢中で振るった僕の拳が、スキンヘッドの顎に直撃する。


「ぐおっ!?」


スキンヘッドは呻き声を上げ、地面に倒れ、そしてそのまま気絶した。


「あ、あれ……?」


「なっ!? テメェ!!」


予想外の事態にオールバックは驚きながらも、再び鉄パイプを振り上げる。

だがその隙は大きかった。

僕は素早く男の足をすくう様に蹴り、転ばせる。


「うおっ!?」


オールバックは仰向けの形で、地面に倒れる。


「こ、の野郎……」


頭を手で押さえながら、オールバックは立ち上がる。

そしてこのまま仕掛けて来るかと思われた、その時、


「こら、君達! 何をしている!?」


少し離れた場所から、警官の姿が見えた。

いい加減誰かが呼んできてくれたんだろうか。


「や、やっべ!?」


オールバックは気絶しているスキンヘッドを担ぎ、そのままそそくさと逃げて行った。


「ふぅ、行ったか……」


安堵の息を吐き、呟く。

そしてそのまま地面に座り込もうと思ったが、突如何者かに右手を引っ張られる。


「いたたたたたた!?」


未だジンジンと痺れている右手は、引っ張られる事で更に激しい痛みを訴える。


「何してるの! 私達もさっさと逃げるわよ!!」


引っ張っていた人物は、先程の美少女だった。

少し焦りながら僕の右手を引っ張り、走る。

その所為で右手がかなり痛いのだが、今はそんな事より、


「え……何で?」


「何で、ってあなたねぇ……警察に事情聴取されたら面倒くさいでしょ? それとも警察の人達と延々と話していたいの?」


「うっ、それはちょっと、嫌かな……」


一応警察署、というかアモスには行きたいのだから、警察の人達に連れて行ってもらえば楽かもしれない。

でもその結果何十分、下手すると何時間も事情聴取されて、それで葵さんに魔法を教わる事が出来なかったら本末転倒だ。


「でしょ? じゃあさっさと行くわよ」


「いたたたたた!? 行くのはいいけど引っ張るならせめて左手にして!!」


「全く、うるさいわねぇ……ほら、これでいい?」


「う、うん。どうも……」


引っ張られる手が右手から左手に変わりようやく痛みが治まった。

そして気付いたのだが、僕は今とんでもない美少女と手を繋いでいる、恋人でもないのに。

そう思うと何だか急に気恥ずかしくなり、普通に喋っていられなくなった。

だけれど、このまま黙っていると余計恥ずかしさが増してしまう。


「あー、あのさ。僕の名前は才人って言うんだけど、君の名前は?」


とにかく何か話していないと恥ずかしさで死んでしまいそうだった。


「……アシュリー」


「へぇ、アシュリーって言うんだ。よ、よろしく……」


そしてそのまま、無言。

男女が手を繋いで走っている、しかも繋いでいるのが美少女ともなれば、嫌でも人の注目を浴びてしまう。


無言で手を繋ぎ、それを周りに見られている。

このあまりにも恥ずかしい状況を、僕はただひたすらに、耐えるしかなかった。

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