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銀色世界  作者: レイ
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第九話「弱点は女性」

色々と大変な事にはなったものの、どうにか夕食にありつく事が出来た。


夕食を食べ終わり、しばらく休憩した後、僕は自分の部屋へと向かった。

部屋の中を調べて、出来る限り自分について知るためだ。

部屋の位置については、休憩している間に姉さんから聞いておいた。

流石に記憶を取り戻す手掛かりがあるとは思えないけど、自分について少しでも知れるのならそれで十分だ。


階段を上がり、部屋の中へと入る。


僕の部屋は洋風の部屋で、広さは大体畳八畳分くらいだった。

一人で使う部屋としては十分すぎる広さだ。


部屋は 全体的に片付けられていて、埃が全く見当たらない。

以前の僕はずっとアモスの方で過ごしていたのだから、家に帰っているはずがない。

それなのにこれだけ綺麗に掃除されているという事は、瑠璃か姉さんが、小まめに掃除してくれたんだろう。


部屋の中はタンスやテレビ、机に本棚など、極々普通の物ばかりで、他には何もなかった。

アモスでもそうだったが、僕に趣味とかはなかったんだろうか?

ただアモスの時とは違い、意外と物寂しくは感じなかった。

あそこは僕が『過ごしている』場所だが、ここは僕が『住んでいる』場所だからだろう。


「さて、と。じゃあ始めるとしますか」


そう考えると、不思議とやる気が出てきた。


結構単純というか分かりやすいというか、自分でも少し呆れる。

それでも嫌な気は全くしないわけで、むしろ嬉しく思う。

そうして気分が高調になったところで、僕は部屋の探索を開始した。



◆優衣


「う~、また失敗しちゃった……」


夕食が終わり、サーくんと瑠璃ちゃんがリビングから出ていった後、私はソファに崩れる様に寝転がり、落ち込んだ。

夕食の準備で、またドジを踏んでしまったからだ。


お米の準備を忘れたりする人なんて、そうそういない。

しかもこういった失敗がよくあるとなれば、尚更落ち込んでしまう。

二人共何も言ってこなかったけど、確実に呆れていた。


あ~あ、何でこんなに失敗しちゃうのかな……?

こんなんじゃ「白銀一家のお姉ちゃんです!」って胸張れないよぉ……。


白銀兄妹は幼い頃に両親を亡くしている。

他に身内も居ず、二人は路頭に迷っていた。

だから私が彼らの保護者になって、せめて、せめて成人するまでは私が守っていこう、とそう考えている。


そのはずなんだけど、


「は、もう私がいなくてもいいのかな……?」


あまりに落ち込んでいたのか、つい声に出してしまった。

とは言っても、二人共今頃自分の部屋に戻っているはずだから、聞かれる心配はないはずだ。


それにサーくんに至っては、聞いたところでどういう意味か理解出来ないだろう。

記憶喪失で忘れている上に、教えてもいないのだから。


サーくんから記憶喪失の話を聞かされた時は、目の前が真っ暗になって、そのまま気を失ってしまいそうになった。

自分の事を忘れられた事も十分に悲しかった。

でもそれ以上に、サーくんが今まで過ごしてきた思い出すら、全部忘れてしまったのが一番可哀想で、悲しくて仕方がなかった。


「一番辛いのは、サーくんの方だよね」と言った時、サーくんは何て言いかけたのか。


別に辛くないよ?

僕よりも姉さんの方が辛い?

分からない、分からないけど、きっと自分の事よりも、私や瑠璃ちゃんの事を考えていたに違いない。

サーくんは優しいから。


それに比べて、私はドジばっかり踏んで、二人を守るどころか逆に困らせている。

サーくんとは大違いだ。


そう思うとまた、「はぁ~」と溜息をついてしまう。

本当に今日は落ち込んでばかりだ。

サーくんの記憶喪失でまだ動揺しているからかもしれない。

こんな事になるなら、サーくんがアモスに入るのを反対しておけば、良かったかもしれない。


そもそも、私は元からサーくんがアモスに入る事に対して、あまり乗り気ではなかった。

サーくんには普通に高校に入って、普通に大学に進学して、そして普通に就職してほしかった。

勿論これはあくまで、私個人の意見であって、どうするかを決めるのはサーくん自身だから、何も言えなかったのだけど。

でももしちゃんと反対していれば、そうすればサーくんはアモスに入るのをやめて、記憶喪失にならずに済んだかもしれないのに。

入らないとまではいかなくても、傍にいて守ってあげればよかった。


後悔しても、し足りない。

こういう時サーくんなら「姉さんの所為じゃないよ」と言ってくれるんだろう。

でも、私は……。


激しい眠気が私を襲い、少しずつ意識が遠のいていく。


ガチャとお風呂場の方で音が鳴る。

瑠璃ちゃんかサーくんがお風呂に入ったのかな?

そんな事を考えながら私は目を瞑る、そしてそのまま深い眠りにつく――筈だった。



◆才人


「はあ~」


深い溜息をつき、僕は椅子に座る。

たった今ようやく部屋の探索、もとい結果的に掃除になってしまった作業を、一通り終え、休憩する。


探索し始めたばかりの時は、これは何だろう、じゃあこれは何だ、といった具合に物を一つ一つ確かめていた。

だけど何となく、手掛かりになりそうな物はないと察した辺りから、部屋の探索から掃除へと作業が移っていた。

で、結果として、何も成果は得られなかったわけだ。


「はぁ……風呂でも入って、スッキリするかな……」


今度は軽い溜息をつき、風呂場まで向かう。

今日は本当に疲れた。

こんなに内容の濃い一日なんて、普通ないんじゃないか?

こんなに疲れた日は、風呂に入ってゆっくりして、そして布団でグッスリ寝るのが一番だ!


「よし、じゃあ入るか――」


「え!? お兄ちゃん、まっ――!」


風呂場だと思わしき場所のドアを開ける。

そこは予想通り風呂場だった。

そして誰もいない風呂で、一人ゆっくりと湯船に浸かり、鼻歌でも歌う予定だった。


だがそこには瑠璃が居た。

いや、居る事自体は別にいい。

僕はまだ服を着ている。

ただ瑠璃が、下着だけという、大抵の女性なら恥じらうのであろう姿だった。

一糸まとわない姿ではなかっただけ、まだマシとも言えそうだが、下着だけでも十分問題だった。


「……」

「……」


僕も瑠璃も、何も言わず固まっている。

そりゃあそうだろう、こんな状況を全く予想していなかったのだから。


「――っ」


この静寂が、まだしばらく続くかと思われたその瞬間、


「き、きゃああああああああああああああああああああ!!」


それは瑠璃の叫び声によってかき消された。



◆瑠璃


私は叫んだ。

それはもうこれでもかと言うぐらいに思い切り。

叫び声は近所の家まで、響き渡っていると思う。

意識して叫んだのではなく、反射的によるものだった。


もしかしたらお姉ちゃんが来てしまうかもしれない。

でも今は、出来れば来ないでほしい。

今の状況を見られると、私はともかく、お兄ちゃんが不味い。


お兄ちゃんの性格からして、偶然こうなってしまった事は分かる。

それは分かるけど、やっぱり私は恥ずかしいし、お兄ちゃんの事を知らない人が見たら、間違いなくお兄ちゃんを変態呼ばわりするだろう。


それだけは避けなければならない。

折角久々に会えたというのに、こんな事になるなんて本当に困った。

しばらく家には私とお姉ちゃんしかいなかったから、油断していたのかもしれない。


突然の事態に困惑している私。

一方お兄ちゃんはと言うと、私と顔を合わせた時から、ずっと立ったまま硬直している。

お兄ちゃんは女性とどう接すればいいかよく分からないらしく、ある程度仲の良い女性じゃないと上手く話せないらしい。


「はっ!? あ、あれ……?」


兄はようやく我に返ったみたいで、まだ下着姿のままの私を、改めて見直す。

そして――物凄い量の鼻血を噴き出し、倒れた。


「きゃあああああああああああああああ!?」


再び叫ぶ、しかしさっきとは別の理由で。

お兄ちゃんが女性に苦手意識を持っていたのは知っていたし、ある程度の理解もあった。

それでも、流石にここまで酷いとは思っていなかった。


そ、そういえばお兄ちゃんの部屋を掃除した時も、裸の女性が移ってる本とか、全くなかった……。


お兄ちゃんが家に帰って来なくなってから、部屋の掃除は主に私がしていた。

その時にお兄ちゃんの部屋を散々漁っても、それらしき物は出てこなかった。

あの時はしばらく家に帰らないから、見つからないように処分したんじゃないかと、疑っていたけど、元から持っていなかったのだと、今ようやく確信が持てた。


お兄ちゃんの鼻血がようやく止まった。

気付けばお兄ちゃんは既に気絶している。

風呂場全体が血の紅に染まっている。

ここで何か火曜サスペンスみたいな惨劇があったんじゃなかと思わされてしまう。

私の下着や、脱いで畳んでおいた服も、血で染まっており、簡単には落ちそうにない。


はぁ~、これお気に入りだったのに……。


「瑠璃ちゃんどうしたの!? こ、これは一体何!?」


落ち込んでいるところに、リビングの方からお姉ちゃんが慌ててやって来た。

髪がよれよれで、顔も寝ぼけ眼になっている。

さっきまで寝ていたのかな?

お姉ちゃんはこの状況を見て、私かお兄ちゃんが怪我をしたと思ったのか、激しく困惑している。


「な、なんでもないよ、お姉ちゃん。ちょっとお兄ちゃんが……」


お兄ちゃんが……何て言ったらいいだろう?

兄が妹の下着姿を見て鼻血を噴き出しましたとでも言えばいいのか、それだとどう考えてもただの変態だ。

上手く言葉が出てこず、黙っているしかなかった。


お姉ちゃんは心配そうに私とお兄ちゃんを交互に見ている。

この状況は、流石にお姉ちゃんでもどうしたらいいか、皆目見当がつかないようで、アタフタとしているだけだった。


「とりあえず、お兄ちゃんをソファまで運ぼう。その後ここ二人で掃除しよう」


「そ、そうね。とりあえずサーくんをソファまで運んで、その後ここを掃除しましょう」


お姉ちゃんが私の言った事を、そのまま復唱する。

誰が見ても混乱しているのが分かる。


しかもちょっと口調、変になってるし……。


その後私とお姉ちゃんは、先程言った事をそのまま実行した。

風呂場は酷い有様で、お風呂になどとても入れそうにはなかった。


今日の惨劇は、そのまま夢に出てきそうで、今日は少し眠りたくなかった。

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