プロローグ「決意」
馬鹿だ、と思った。
誰が?
自分が。
何故って?
どうしようもなく愚かだからだ。
「ちっ……」
思わず舌打ちをこぼしていた。
自分の愚かさにか、それともまた別の理由か。
自分は一人で何でも出来ると思い込んでいた。
どれほど高い壁があろうと、乗り越えられると思っていた。
不可能な事はないと思っていた。
まだまだ子供だと言う事も知らずに、だ。
人間一人の力なんて、世界全体に比べれば限りなく無いに等しい。
例えば仮に世界のどこかで、誰かが人を殺したとする。
確かにその場合、その人物や周りにとっては大きな変化と感じるかもしれない。
だけど世界全体から見れば、ただ人が一人死んだだけにすぎない。
それで変わる事なんて、それこそ人口の数値ぐらいのものだ。
そう、ただそれだけ。
それほどまでに人間一人の力というものはちっぽけだ。
俺はそれに気付くのが遅すぎたんだ。
それはもうどうしようもなく、取り返しのつかない事だった。
過ぎた時間は、どう足掻いても取り戻す事など、出来はしない。
激しい爆音が俺の鼓膜を震わせる。
直ぐ近くで爆発があったんだろう。
わざわざ眼で確認するまでもなく、火が激しく燃え盛っているのが分かる。
このままだと俺の心の灯さえも巻き込んで、辺り一帯を焼きつくすだろう。
それまでの時間も、おそらくそう長くはない。
ならばどうする。
このまま諦めるのか。
まさか、そんな気は毛頭ない。
自分にはまだやる事がある。
その為ならどんなことだってするつもりだ。
たとえ自分がどうなろうとも。
だからこそ今は、今だけは退こう。
俺はある物に手を伸ばす。
その結果俺がどうなってしまうかは分からない。
運命なんてものを信じているわけじゃないが、今回ばかりはそれに身を委ねるしかなさそうだ。
そうして俺の意識は、白い闇に取り込まれていった。