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脇役の舞踏会

作者: 三色団子
掲載日:2025/12/12

 馬車に揺られながら、間を埋めるようにお父様が口を開く。

「そのドレス似合っているね」

「化粧をしたら見違えるほどきれいになった」

「まるで若い頃のお母さんのようだ」

「おっと、今もまだ若いけれどね。お母さんには内緒だよ」

 私は、「ええ」とか「まあ」とか「そうですね」とか気のない返事をしては、窓の外の景色をただぼんやりと眺めていた。

 今日はこれから社交デビューを兼ねた舞踏会に参加する。

 もしかしたら、物語のように運命の相手と出会うかもしれない。

 胸中で渦を巻く不安と期待に呑まれまいと、気を強く保つだけでいっぱいいっぱいだった。


 会場に到着し、受け付けを済ませてお父様と別れ、案内された控室に行くと誰もいなかった。

 外の空気でも吸いに行こうと廊下に出ると、おしゃべりをしている人がちらほらいた。もうすでに社交は始まっているようだ。男性からダンスに誘われている人も見られ、心の中に焦りが募っていく。

「おーい」

 声がして反射的に振り返った。

 そこには物語に出てくる王子様然とした人が、満面の笑みを浮かべて子供のように元気よく手を振っていた。

 ——私に?

 思わず私も手を振り返した。

 男性が近づいてくる。

 近づいてきて、私の横を通り過ぎていった。

 後ろには、これまた物語のお姫様然とした女性がおしとやかに微笑んでいた。

 カッと顔が熱くなる。

 恥ずかしさに居たたまれなくなり、私は駆け出していた。

 しかし、慣れないドレスとヒールに足を取られ、盛大に転んでしまった。

 見えていないが、周りからはくすくすと笑われているに違いない。

 恥の上塗りとはこのことだ。

 すっと影が差した。

「手を。お怪我はありませんか」

 顔を上げると、給仕の恰好をした男性が手を差しのべていた。

「大丈夫です」

 私は手を取って立ち上がり、犯罪者か何かのような面持ちで控室へと戻った。


 そうして始まった私の舞踏会は、想像もしない大失敗に終わった。

 ダンスの相手は一向に表れず、男性たちはただ遠巻きに、私を押し付けるように見ているだけだった。

 ラスト一曲だけ情けを掛けるみたいに誘われ、踊って、それで終わり。

 歓談の間もなく私は会場から出て行った。

 出て行く直前の会場は、あの王子様とお姫様とを中心として一体となり、華やかで品のある盛り上がりを見せていた。私がいてもいなくても、その会場は完成されていたのだ。

 ——そうか。

 夜気に吸い込まれていく外灯に影を伸ばしながら、私は気が付いた。

「私は脇役だったんだ」

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