脇役の舞踏会
馬車に揺られながら、間を埋めるようにお父様が口を開く。
「そのドレス似合っているね」
「化粧をしたら見違えるほどきれいになった」
「まるで若い頃のお母さんのようだ」
「おっと、今もまだ若いけれどね。お母さんには内緒だよ」
私は、「ええ」とか「まあ」とか「そうですね」とか気のない返事をしては、窓の外の景色をただぼんやりと眺めていた。
今日はこれから社交デビューを兼ねた舞踏会に参加する。
もしかしたら、物語のように運命の相手と出会うかもしれない。
胸中で渦を巻く不安と期待に呑まれまいと、気を強く保つだけでいっぱいいっぱいだった。
会場に到着し、受け付けを済ませてお父様と別れ、案内された控室に行くと誰もいなかった。
外の空気でも吸いに行こうと廊下に出ると、おしゃべりをしている人がちらほらいた。もうすでに社交は始まっているようだ。男性からダンスに誘われている人も見られ、心の中に焦りが募っていく。
「おーい」
声がして反射的に振り返った。
そこには物語に出てくる王子様然とした人が、満面の笑みを浮かべて子供のように元気よく手を振っていた。
——私に?
思わず私も手を振り返した。
男性が近づいてくる。
近づいてきて、私の横を通り過ぎていった。
後ろには、これまた物語のお姫様然とした女性がおしとやかに微笑んでいた。
カッと顔が熱くなる。
恥ずかしさに居たたまれなくなり、私は駆け出していた。
しかし、慣れないドレスとヒールに足を取られ、盛大に転んでしまった。
見えていないが、周りからはくすくすと笑われているに違いない。
恥の上塗りとはこのことだ。
すっと影が差した。
「手を。お怪我はありませんか」
顔を上げると、給仕の恰好をした男性が手を差しのべていた。
「大丈夫です」
私は手を取って立ち上がり、犯罪者か何かのような面持ちで控室へと戻った。
そうして始まった私の舞踏会は、想像もしない大失敗に終わった。
ダンスの相手は一向に表れず、男性たちはただ遠巻きに、私を押し付けるように見ているだけだった。
ラスト一曲だけ情けを掛けるみたいに誘われ、踊って、それで終わり。
歓談の間もなく私は会場から出て行った。
出て行く直前の会場は、あの王子様とお姫様とを中心として一体となり、華やかで品のある盛り上がりを見せていた。私がいてもいなくても、その会場は完成されていたのだ。
——そうか。
夜気に吸い込まれていく外灯に影を伸ばしながら、私は気が付いた。
「私は脇役だったんだ」




