38 でもって、やはりなオチがつき
まさかの来訪だった。
「ワタシ、レティス! ナカ、エトラナ!」
なるカタコトの自己紹介には、驚きすぎて言葉も出ない。
中身がエトラナだってこともビックリだが、あまりに日本語達者なレティスちゃんにも仰天である。まさか、この短期間でエトラナが言葉を習得しちゃったんだろうかとも思ったが、
「ニッポン、アニメ、スバラシ」
とか言われたら納得しておくしかないだろう。そういえばダナクサスレティスが、さりげに日本の漫画を褒めていたではないか。意思の疎通は素晴らしい。
信太朗を叱りに来たのだとか主張する彼女の怒り声も、カタコトだと何だか和んでしまう。
「シンタレ、トレーニング!」
まさかと思ったが、どうやら信太朗が怠けていないかを監視しに来てくれたらしい、と知れた。
ミーニャとクサスの共同作業によって、レティスに“転移”して日本に来たのだとか。入れかわった相手は、レティスの中にいたダナクサス王子だ。王子は、勝手が分からない地球上の15歳より、サウモに鍛えられた25歳の傭兵美女という身体がお気に召したらしく、“転移”に対する抵抗はなかったとのことだった。
むしろエトラナの方に、クサスに身体を取られる抵抗はなかったのかと疑問だが、そこはどうやら、なかったようである。エトラナが男よりも男らしい、気風のいい女性だとは知っていたつもりだが……。
レティスは海外留学なる形を取り、春から高校生になるらしい。英語科のある高校だそうだ。彼女の両親は、コノ子が海外に興味を示して得くれるなんて、と諸手を挙げて協力してくれたそうだ。確かにレティスの外見は親泣かせもいいところだろう。
しかし、いやはや、日本にまで来ちゃうバイタリティに恐れ入る。
「宿泊先か滞在先はどこなの?」と尋ねた信太朗に、レティスエトラナは「ココ、スム、オネガイ」と言ったものだった。ほらと見せられたのは一片の紙で、そこには山田家の住所が書いてあったのだ。
どうやらサウモがエトラナに山田家の住所を教え、レティスとなってからメモに書き記し、それを便りにここへ来た――という段取りだったらしい。
住所のメモには、サウモからの伝言だとかいう一行も添えられていた。
『look after my daughter.』
訳されはしなかった。
でも英文だけで、充分だ。
信太朗は言葉が浮かばず、黙ってパンク少女を見つめる。
レティスはエトラナの顔をして、誇らしげに微笑んだのだった。
そして、おもむろに。
「タテ、シンタラ!」
叫びながら、ザッと立ち上がるではないか。彼女の背後で、時計は夜9時を指している。
だが彼女は容赦がなかった。そのために来たんだからというのが本当だとは思わなかった。夕食の後、信太朗はいきなり床に寝かされて、腹筋300回と言い渡されたのだ。もう涙目である。
よもや現代に戻ってまで、しごかれる羽目になろうとは。
「ひいいぃ」
「ナクナ! ファイトダ!」
腹の上に乗って足を掴んでくるレティスが、軽いけど重い。リズムが崩れると、ぱーんと気持ちよく引っぱたいてくるので休むわけにも行かない。両親は楽しそうに応援するだけだし、そんな両親に対してレティスも満面の笑みになるしで、信太朗が文句を言える隙は一部も残されていない。
「待ってよ、エトラナってずっとこっちにいるつもり!? 帰れるあてって、ないはずだよねぇ?」
まさか筋トレ地獄の毎日が一生続くのかと思い当たって叫んだら、しれっと「ナイ」と返されるではないか。
「カエル、ムリ」
うん始めの頃にミーニャが言った、それは信太朗も憶えている。でもクサスとの入れかわりなんて結構な大技だと思うのにやっちゃってるし、それにエトラナには、好きな相手がいたはずだ。
「だって、ユデア……」
と呟いたら、
「がほっ!?」
みぞおちに拳が埋め込まれて、うっかり吐きそうになった。でも腹にエトラナが乗ったままなので、身をよじることもできない。
「ちょ、ちょっと!?」
「ワタシ、ユデア、チガウ」
低くなっても可愛い彼女の声が、少し言いよどむ。が、すぐに「オマエ、キタエル」と、ニヤッと笑って、それは楽しそうに腹筋を即すではないか。
「ほらほら頑張れ信太朗!」
「あと134回あるぞ」
「だったらオヤジもやれよっ」
「ワシ、ムリ」
などと父親もカタコトしゃべりをして、おどける。母親がころころと笑う。エトラナも楽しそうである。笑う少女の顔が、パンクメイクを超えて、とても可愛らしく見えた。
まぁ、いいか。
なんて、帰りしなに考えていた時の「まぁいいか」とは、まったく別の思考で同じセリフを呟き。
信太朗まで腹筋しながら何だか楽しくなっていて、微笑んでしまったのだった。
だが。
「ぶひょっ」
すかさず殴られた。
「リズム」
と冷たい声が降ってくる。
まったく容赦がない、見慣れたエトラナがそこにいる。
嬉しいような残念なような、でも来てくれて嬉しくて不明瞭な未来が待っている、新しい日々が始まったのだ。
……多分、今ってツンとデレの対比が9:1ぐらいだよな、なんて思いながら。
了
こんにちは、こんばんは。鈴子です。
とほほファンタジー「勇者で候」をお読み頂き、どうもありがとうございました!
そもそものコンセプトは「美形ばっかり登場しがちなファンタジーに不細工を出そう」というのが試みでした。本当は100人出してみろって言われてたんですけど、いや、それはさすがに無理☆
ってんで、とりあえずデブとかオタクとかニートとか爺とかの、キワモノを出してみよう、と物語が生まれました(笑)。自分が読んでみたくて書いたのかと問われると、そこは少し違いました。書きたくて書いたので、読んでくれた方に面白かったかどうか。
お言葉を下さる限りでは、嬉しい感想だったので、とても有難かったですv
「読んで良かった」と感じて頂けることを目標に、今後も何かしら書いていると思いますので、また気が向いたら遊びに来て下さい♪