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勇者で候  作者: 加上鈴子
25/39

25 なるか名誉挽回?

「あなた王族を殴るなんて、いい根性してるわね」

 頬を押さえて斜め座りで倒れ伏すクサスを、ユデアが斜めに見おろしている。背景に『フン』と書いてありそうな生意気顔で、エトラナを奪還しながら彼は言った。

「賞金稼ぎ舐めんなよ。あんたが本物の王族かも怪しいしな」

「失礼ね、本物よ。……外は」

 何やら言い返されているものの無視して、すかさずユデアはざっしざっしと雪をわけて走り寄り、信太朗にかぶさっていた男を殴りつけてくれたのだった。いい仕事しすぎです。

「俺は自分の勘を信じてるんだ」

 何それカッコイイ。

 内心くっそぅと不憫な対抗心を燃やしつつ信太朗も立ち上がったら、

「おっとと」

 と、よろめいてユデアに支えられる始末である。足に来ているのだ。しかも寒いし。関節が固まっちゃってるらしい。

「無理すんなよ、爺さん」

 ギギィッと睨むも、支えられてる身じゃ迫力も出ない。信太朗はえいと彼の腕を振りほどいて長剣を構えた。へっと笑ってユデアも剣を手にする。

 通常の武器は斧だが、持ち歩ける大物なら長剣ぐらいしかない。しかも勇者たる以上、持つべきは長剣だ。

 人質さえ取り戻せれば、サウモは自由である。

 信太朗サウモが取りだした剣を見て、周囲の輩も「やっちまえ!」とめいめい刃物を手に持った。ここから本番、御隠居の印籠が出るまでが見せ場の、殺陣シーンである。スケさんカクさん出番です。

「おぉっりゃあぁっ!」

 なぁんて。

 凄んでも、ヒヨコ一匹とどめを刺せない信太朗だ。相手が人間なら、なおさらである。名うての猛者たちを、殺さないようにバッタバッタと気絶させるなんて芸当を、持ちあわせているわけがない。

 威嚇なんざ何のそので突進してくる剣先を、剣で止めるのが精一杯だ。

「やめろ、戦うべきは俺たちじゃない! 張本人はダナクサスだ!」

 攻撃をかわしつつ、受け流しつつ叫ぶ。でも相手はまったく聞く耳を持っちゃいない。

「諦めろ、こうなった連中に何言ったって無駄だ、斬れ! 俺たちは皆、覚悟の上なんだっ」

 一緒に戦ってくれているユデアが信太朗を即す。ギルドなんかに登録している賞金稼ぎだ、死ぬのは覚悟の上なのだ。例え誤解でも冤罪でも……?

「できないよ、悪いことしてないじゃんっ」

「馬鹿ね、お爺ちゃん! 他で色々やってるに決まってるでしょ、やっちゃわなきゃ!」

 泣きごとを洩らした信太朗を叱咤する声が、少し離れた場所から聞こえてくる。ちゃっかり木陰に隠れているミーニャである。決まってるでしょと決めつけるのもどうかと思うが、そう思わなければ戦えないのも事実だ。

「だったら私が元凶を斬ってやる!」

 躍り出たのは、エトラナだった。上段に構えた剣を、ダナクサスに向かって振りおろしたのだ。さすが身軽な戦い方を心得ているエトラナの跳躍には、目をみはるものがあった。

 だがダナクサスも強い。さすが共にザク退治をしたツワモノである。ガキィンと彼女の剣を剣で受け止めると、クサスは叫んだ。

「やめさない、私のアレが起きちゃったら、あんたたちどころか世界が滅亡しちゃうんだからね! 大人しくサウモだけ殺させてくれればいいのよ!」

「そうは行くか、理不尽な! 起きるんなら起こしてみやがれ!」

 キィンガキィンと剣を振るいながらも、この忙しい時にややこしいことを言ってくれる。起こしてみる価値も、ないではない。殺されそうな現状を打破するために魔物を起こしてエノアに来てもらう、という選択もある。

 でも、もし来てくんなかったら最悪だ。

 信太朗は戦いに専念しているフリでエトラナの提案を無視した。いやフリっていうか本気でスルーである。

「サウモ、こいつの正体ひっぺがせ!」

「聞こえないよ!?」

 などとかわすが、相手は斬る気満々で、こっちは避けるしかない状況だから、劣勢なのは言わずもがなだ。さてどうしようと思った時、天から助けが降ってきた。

 文字通り降ってきたのである。

 槍が。

 おおむねは、雹の雨であった。

「どおおぉぉぉわあああぁぁっ!?」

 槍にまで成長している氷柱は少ししかなくても、雹が石つぶてみたいな大きさで無数に降ってくるのからは、さすがに逃げきれない。皆が、頭にタンコブ、肩を脱臼と負傷しながら、慌てて逃げ惑う。さすがに戦闘は中断だ。ホラー映画さながらの串刺しに、なるわけに行かない。

 しかし木の影、岩の影と逃げようにも、今いち隠れる場所がない。広がる雪原の真ん中で、大の男30人が命からがら逃げ回るしかない状況に陥り、はたと気付けば全員が一か所に固まって縮こまっている有様になったのだった。氷の降ってない位置が、そこしかなかったのだ。

 意図的に。

「……だから、いい加減にしましょってば」

 ミーニャである。両手を天に伸ばしている姿勢からして、彼女が魔法を行使したのは間違いない。顔も声も可愛い凄みなのに、とっても怖い。雨とか槍とか、ひょっとしたらミーニャが最強かも知れない。

 だがミーニャ最強伝説も、ものの数分で塗り替えられようとしていた。

「きゃ!?」

 魔法を行使していたミーニャは動いていなかった。背後から襲ってきた者によってバランスを崩し、倒れてしまったのである。

「ミーニャ!」

 雹と化した氷柱の雨をくぐりぬけつつ、信太朗サウモが孫を守るべく走る。彼女を襲ったのは、ダナクサスだった。何か異様な声で「くれ」とか言っている。

 先ほどまでオネエキャラだったダナクサスの形相が、変わってきているのだ。

「お前の魔力を! 俺に~」

 地を這うような、しゃがれ声。アーバオアクーのものなのだろう。脅し声というよりは、飢えているような声である。口元からは涎が垂れそうな勢いである。さすがは融合が進んでいるようだ。

「やめろ、お前なんかにミーニャを食わすもんか!」

 叫んでから思いだした。

 アーバオクーは実体を持たない代わりに、人々の『魔力』を食って生きるヤツだったのだ。ということは封印を解けば間違いなくヤツは魔力を発動させる存在となる。つまり、エノアもヤツを再度封印するべく出現しないわけに行かなくなる。

「ミーニャから離れろ!」

 少女の身体をふんづかまえようと追いかけるオッサンに、信太朗がうりゃあと立ち向かう。エトラナが応援にかけつけて、剣を振るのが見えた。

 が、その時。

 さすがは信太朗であった。

 いや、彼の名誉のために、さすが73歳の身体というべきか。

 肝心の場面で足がもつれて、転んでしまったのである。

「うわっ!?」

 ……オカマオッサンの上に。

「きゃあっ!?」

 重なる2人。

 ダナクサスは仰向けに。

 信太朗はうつ伏せに。

 まるでクサスを抱きしめるかのように、真正面から倒れ伏し。

 クサスは信太朗を受け止めるかのように、真後ろに倒れ込み。

 重なる唇。

「……って……」

 瞬間をばっちり見てしまったミーニャたちの心境にも、計りしれないものがある。が、それより今は2人の心境であろう。

 きっと、これ以上はない衝撃だったに違いない。

あと「HONなび」のリンク切れ、ご指摘いただきありがとうございます! 画像だけしかUPしてなかったです! はっはっはーっ! それにしてもリンクつないけど、アクセス重いね……(笑)。

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