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勇者で候  作者: 加上鈴子
22/39

22 え、ちょっと複雑?

 信太朗は思わず口をぱくぱくさせて、ユデアを指さす。

「君どうして……」

 なんて愚問だということには、訊いてから気が付いた。仕事に決まってるじゃないか。

「決まってるだろ、仕事だよ」

 見透かされたように言われて赤面しかけたが、ユデアの態度が、言うほどには信太朗をバカにしてないので、信太朗は顔を火照らさずに済んだ。

「っていうか“君”とか言うな」

 すぐ視線を外して、ユデアは「お前らは」とミーニャたちに向きなおる。ミーニャは美少女微笑とロングウェーブ金髪をなびかせつつのダブルコンボで「孫のミーニャ、魔法使いよ」と挨拶して、ユデアの鼻の下を3センチほど伸ばしてやってたが、エトラナの方は複雑な表情をしている。

 そういえば前にエトラナは、ユデアと会った話をしたら「ユデアか……」と呟いたものだった。王都から来たエトラナ。俊足のユデアを知っていたのだ。

 知り合いなの? と訊こうとしたが、その前に知り合いじゃないらしいと察することができた。ユデアはエトラナを見ても、うんともすんとも言わないのだ。

 サウモに出会う前のエトラナは弱かった。知名度のない女戦士だったのだ。いや、ひょっとすると戦士ですらなかったのかも知れない。シンテーヤバを弾くのが上手い、弱い女戦士なんてカテゴリは、まずないだろう。

「エトラナだ。名字はない」

「え?」

 声を出してしまったのは、信太朗だ。エトラナって確か、名字を持ってたはずだ。ディーヴァ違うな、デブ? そりゃ俺だ。などと今いち思い出せないが、何か名乗ってた気がする。でもエトラナは自己紹介を訂正することなく、しれっとしている。

 確かに、この世界では名字がないのは、おかしいことじゃない。名字が持てるような裕福な家じゃない、というだけなのだ。名字は、役所に届け出をして登録料を支払って手にするものなのだ。

 でも持ってるはずのもんを、わざわざ隠すこたぁない。

 もしくは、ディなんとかってぇ名字の方が嘘だとしたら?

「あ……いや、ごめん」

 不用意に出してしまった自分の疑問符に数人が顔を向けてきたので、信太朗はエトラナを見ないようにして謝った。何ごともなかったように、歩き続ける。でも疑問は脳裏でぐるぐるしている。ミーニャは知らんぷりしているが、内心では何か考えてるんじゃないかと思われる。

 多分ユデアには、本当に名字がないのだろう。だから“俊足の”などという二つ名があるのだ。まさかユデアに遠慮して自分の名字を名乗るのを止めたとも考えにくいのだが、今は真相を追究できるような状況でもないので、黙って歩くしかない。

 そろそろ険しくなってきた。草木も枯れ始めている。まだ秋だが、山のてっぺんだけは真冬である。

「で、さっきの続きだけど」

 と、野太いのに花のある声音が、信太朗の思考を吹っ飛ばす。

 気づいたら真横に、ダナクサス王子が来ていた。王子といっても全然それらしい格好をしていない。皆と同じ服、同じ装備だ。クサスとて剣の使い手であり、かなり強い男である。一緒にザクの群れを倒した仲だ。30人も用心棒がいるのかっちゅー最初の疑問が思い出された。

「あ、そうだ。30人の用心棒が、護衛じゃなく証人だって話だったっけ」

「そ。俺らは、あんたがダナクサス様を殺さなかったよと証言するための人員なのよ」

「はぁ?」

 ユデアがどうだとばかりに説明してくれたが、何が狙いなんだか、さっぱりだ。もし復活しちゃったアーバオアクーを倒すつもりの人数なら、こんなんじゃ全然足らない。多分瞬殺だ。エノアが出てこない限りは。

 だから逆に、いても邪魔なだけなのだ。すみませんけど出番ないよ? と気の毒にさえなってしまう。オッサン王子の目論見が分からない。

「俺たちが見張る相手は、山賊やザクじゃない。あんたさ」

「……俺?」

 30人がかりでサウモを見張る、しかも証人?? という、よく分からない理屈である。

 すると背後でやり取りを聞いていたらしいミーニャが「ああ、そうか」と合点するではないか。手をポンと打っている。

「さすがのお爺ちゃんも30対1じゃ、ちょっと無理よね。しかもギルド登録上位ランキングの猛者ばっかりなんて」

「なるほど」

 と、エトラナまで理解したようではないか。ちょっと待て俺が主人公よ置いてかないでよっ! と内心あたふたである。旅の最初はずっと流されっぱなしで俺どうなっちゃうのって感じだったけど、アーバオアクー起しちゃうぞ作戦は、信太朗みずからがサウモの記憶を駆使して考え出したものだ。

 なのに、アーバオアクーを内蔵してる王子様の方がサウモに会いたがってたわ、エノアを目指す旅に勝手に30人もその他大勢な方々を連れてきちゃって何考えてるのよ、となれば、さすがにイイ気持ちはしない。

 30対1とか言われてるし。

「何なの? ワシがダナクサス様を殺すんじゃないかとか思われちゃってるってことなの?」

 文脈をまとめると、そういう事情になるみたいだ。

 するとクサスが「そうよぅ」と頷くではないか。

「つまり、ね」

 と、人差し指を立てて、あっけらかんと説明するクサスの声は、この上なく明るい。

「もし私が死ぬとしたら、それはサウモに殺されたからじゃなくて、もっと大きな、30人でも太刀打ちできないような強大な敵だったのです。って、後世に証拠が残るように、死ななきゃならないわけよ。そうなった時には今いる総勢34人は全滅だろうけど、うまく行けば何人かは生き残るかも知れないしね」

「……」

 言葉を飲み込んで理解するのに、ちょっと時間がかかった。

 全員が死ぬか、全員が生き残るかのどっちかしか考えてないってことだ、このオッサン。

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