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勇者で候  作者: 加上鈴子
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21 あっという間に挑戦中

 オッサンオカマたるダナクサス王子は説明したものだった。

「誰にも知られるわけに行かなかったから自分で何とかできないかしらと思って、魔法の勉強したわけよ」

 と。

 自力で自分の中にいる魔物をやっつけちゃおうと思って魔法の勉強したものの、すればするほど無理だと分かったらしい。遺伝子レベルで融合してるらしいわとか何とかかんとか。

 なら中身だけを異世界へぶっ飛ばしとかできないかしらん、と、“転移”までもを試みたらしい……が。

「確かに“転移”しちゃったわ。アイツがじゃなくて、あたしが、ね」

 この辺りは、女性陣2人の方が察するのが早かった。元々魔法に近しい彼女らだ。しかもミーニャがやらかした事態とまったく同じとなれば、分からないわけがない。

 すなわち。

 ここにいる人物は、中身は、クサス王子じゃない。

「本当のあたしはレティス・キャンベル15歳。ロンドン在住よ」

 女名だ。

 フッと皮肉げに笑って斜め45度に視線を走らせて、肩を竦めるオカマオッサンの仕草は、とても自然で。なるほどガイジンのポーズかぁと信太朗を納得させたのだった。身振り手振りが激しくない辺りが、イタリアじゃなくてイギリスな感じだ。しかもニートはイギリス発祥用語である。ニートの意味を知っていて当たり前なのだ。

 っていうか15歳って。

 信太朗の脳裏に金髪でおさげしてる女の子が浮かんだ。当然スカートはギンガムチェックで、できれば上は白のタートルネックでお願いしたい。あ、眼鏡もいいな。優等生な感じ。もちろん美少女だが、タイプは当然ミーニャと違う。

 芝生の整ったスクールの敷地を颯爽と歩く、金髪美少女の姿が思い浮かぶ。紺の靴下、黒のローファー。必殺おさげを下ろす瞬間というのは、年に2・3度しか発動されないに違いない。眼鏡を外す瞬間とか、キキキキスの瞬間とか、身を捧げる瞬間とか。いやいや待て待て15歳だ、早いだろ。

 でも最近の子は早いというし。日本の中学生だって2年生なら、経験アリと目される子がいるとか何とかいう話だ、実際には会ったことないけど。全部ネットの情報であってソースは不十分だが、これだけ沢山の人が最近の子はと口を揃えるのだから、そりゃもう相当なのだろう。

 レティス・キャンベルちゃんだって可愛い姿からは想像もつかないような、あられもない格好を……。

「おい、ニート?」

「はっ」

 いい感じに妄想が脱線しまくって、気づいたら涎まで出していた。まだ顎はつたってないようだ。ずずずーっと涎をひっこめて、信太朗は焦点を正面に合わせた。

 すでに道中である。数日前の思い出を反芻して喜んでいる場合ではない。

 ごめんごめんと謝ってダナクサスに向き直ると、オッサンは信太朗の考えを見透かしたように、くすっと笑った。ビジュアルえげつないが、中身が金髪美少女かと思うと脳内で変換できちゃうから不思議だ。

 ちなみに今は郊外に出るところだ。格好は、登山装束である。

 魔の山に挑み、『俺を現代に戻してくんなきゃアーバオアクー起しちゃうぞ~作戦』を遂行するのである。カッコよく言うなら『魔物発動の脅迫による作戦』とかになるのだろうが、なんか悪役ぽいし、分かりやすくない。とはいえ、この作戦名は内輪の人間しか知らない。信太朗たちとダナクサスの、4人だけの約束だ。

 という「内輪」などと言わねばならぬ理由は、現在の人数にある。

 信太朗たち4人だけで山に向かっているわけではないのだ。

 なんと総勢30人。

 粒ぞろいの冒険家たちである。

「なんでこんな大勢になっちゃったんだか……」と内心で嘆くのは、もちろん信太朗だ。これじゃ出てくるモンも出てこないよ! と、かの魔道士のことを、まるでゴキブリか幽霊かぐらいの言い草だが、間違ってはいない。

 これでも頑張って減らしたのよ? と、オカマ王子が拗ねるのでOKとしたが、本音言えば全然OKじゃない。えーい皆、散れーっ!! と、かたっぱしから蹴散らしたい。もちろん出来ないんだが。

 何しろ相手は王子様であった。どれだけ頑張っても、お忍び旅行なんぞ出来ないのが現実である。しかも魔物が出て来るかもとなれば、気が気じゃないのが内心だ。サウモを信頼してるわよと口じゃ言いながらも、信頼感の中途半端さが人数として現われている。

 一個中隊でもない、かと言って物見遊山とも言い訳できない団体様である。

「でもね、ちゃんと理由があるのよ」

 歩きながら、オッサン王子が遠くを見て微笑む。歩いてる場所はこの上なく朗らかで青くてのどかで、ヨーゼフがおんおん吠えて走ってきそうな山の麓だ。登っていけばハイジがいる……いや、いないけど。

 途中からは猛吹雪が襲ってきて命を奪っていく、魔の山だ。

「俺たちは王子の用心棒ってより、証人なのさ」

「ぅひゃあっ?」

 まったく聞き覚えのない声が背後から寄せられ、信太朗はびくぅっと首を竦めた。耳たぶに息がかかったぞ今!? と、鬼の形相で振り向いたら。

「……え、えーと……俊足?」

 声は、聞き覚えのある者だったのだ。とはいえ声だけを聞いても、なかなか分からないものである。

 麓村で出会った優勝者、俊足のユデアだった。30人の用心棒に入っていたらしい。

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