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勇者で候  作者: 加上鈴子
15/39

15 やっぱりこういうオチでした

 つまり。

 戦わずして信太朗は賞金の半分を、せしめてしまったのだった。

 とだけ書くと、得をしたように見える。だが実際は違う。信太朗ですら違うだろと思うのだ、サウモなら憤死していたかも知れない。

『土下座して頼めば、くれてやるぜ』

 優勝者は、そう言ったのだ。そんなもの誰が土下座なんてするもんか、武士はくわねど高楊枝じゃーっ! と憤慨しながらも信太朗の手に金が握られているという、この事実。

 そう。頼み込んだのである。サウモの顔で、サウモの身体で。

 男は、付け加えて言ったのだ。

『かつて、あんたが俺に強いたみたいにな』と。

 言われて思い出した光景は、およそ10年前のものだ。サウモ60、男は多分まだ20代。相手は爺だ、すぐにノックアウトさ、といきがる若造の腕をひねり、失礼を詫びろと詰め寄ったのである。詫びで、土下座。さすがはサウモ、俺様万歳な勇者様である。

 因果応報とは、よく言ったものだ。そりゃ各所で嫌われてても仕方がないかも知れない。だが、その反面サウモには彼なりの法則があり、好かれる者には好かれもしている。まず女性と子供には絶対に手を出さない。義理にも固い。無駄なケンカはしない。

 これはきっと無駄なケンカだ。などとは、こじつけだろうが。

 サウモなら戦って勝ちとっただろうか。負けると分かっていても挑んだだろうか。でも切実に金がいる、この状況のためになら、膝を折っただろうか。

 ――考えに考えた挙句の選択だった。

「俺は今、サウモじゃない。でもサウモの身体で土下座するんだ。あんたには、少しは気が晴れる光景になるかな」

 信太朗は歯を食いしばって呟き、その場にひざまづいたのだった。手をついて、頭を垂れて、心中で謝り土下座している相手はサウモだ。信太朗は、優勝者の声が頭上に降りかかるのを聞いた。

「……なんか、あんまりパッとしねぇけどな」

 気まずそうに彼は言い、信太朗に金の入った革袋を投げてよこしたのだった。

「ほらよ。いくら中身があんたじゃねぇからって、そこまでやるからにゃ切羽詰まってるんだろ。くれてやるよ」

 優勝者は、どうやら毒気を抜かれたらしかった。死んでも土下座なんかするもんかと憤慨するサウモが見たかったのだろうと推測される。公衆の面前でしおしおと爺が座りこんだら、そりゃバツも悪いというものだ。

 そこまで計算したわけじゃなかったのだが、そんな次第で信太朗は当面の生活費を手に入れたのだった。

「ありがとう。必ず返すから住所教えて」

 男がぶっと吹き出す。住所という響きが間抜けだったようだ。でも住所がわからなかったら、お金が返せない。困る信太朗の顔に、優勝者の男がにやにや笑った。

「どうやら中身のあんたは、平和な住人みたいだな。俺みたいなのは定住してないもんだ。金を返してくれる時はギルドに連絡を取れ。俊足のユデアだ」

 優勝者の呼び名がユデアに昇格した。でも、その二つ名はちょっと恥ずかしくないっスか……? とは思っても、やっぱり言えない信太朗。

「わかった。ありがとう」

 と、もう一度お礼を言って別れて、今に至る――という次第であった。

 一連の出来事を2人にどう話したものかと悩んだが、信太朗の取り柄は馬鹿正直ぐらいしかない。中途半端な説明でボロが出て、もっと事態がややこしくなるぐらいなら嫌われても言い訳なしの方が楽だ、という考え方だ。

 また「サウモを汚しおって」と叱られるかな?とも覚悟の上で、ゲットした金の出所を申告した信太朗だったが、目覚めたエトラナは、

「ユデアか……」

 と呟いたきり口を閉ざし、ベッドの上で微動だにしない。おろおろしたが、体調が悪いわけではないようだ。

 同じく傍らに立つミーニャに「知り合い?」と小声で訊いてみたが、「わかんない」と首を振られるばかりである。

「エトラナは、お爺ちゃんの弟子になる前のこと話さないから」

 なら、信太朗も深く追求できない。サウモの記憶にも、エトラナの過去はあまりない。

 ある日いきなり弟子にしてくれと訪れてきた女戦士。王都での噂もない無名の美人戦士というのは珍しかった。確かに腕前は最初、かんばしくなかったのだ。だがサウモを師匠と慕いつつ目標と憎みもしつつ修行に打ち込む彼女は、メキメキ上達して行った。

 シンテーヤバの使い手であるという音楽家の一面すらサウモに見せず……あ、いや違う。弟子として以外の彼女を見ないようにしてたのは、サウモの方だ。

「ずっと突っ立ってる気か?」

 苦笑まじりの弱い声をかけられて、ハッと現実(?)に戻る。あ、ああ、とか何とか言葉を濁して、信太朗は退室しかかった。

「夕食、寝室(ここ)に運んでもらうから。お爺ちゃんも適当に何か食べておいてね」

 ミーニャにわずかばかり、お小遣いを握らされる。一緒に食うっつー選択肢はないんかい、と思ったが、まあ、ないのだろう。

 へいへいと禿げた頭を撫でつつ掻きつつ、信太朗はまた繰り出すことになった。

「ニート」

 お久しぶりな呼ばれ方に戸惑ったが、ドアノヴ握ったまま半身だけ振り替えってみたら、なんとエトラナが微笑んでいた。

 嘘おぉっ!? とビックリし過ぎた信太朗が何もリアクションできなかったのが、かえって良かったのだろう。エトラナは「ありがとう」と呟くと力をなくし、笑顔のまま目を閉じて寝入ってしまったのである。この世界に来て多分、初めての……というか信太朗が生まれて初めての快挙だったと言ってもいいかも知んない。

 感動に浸り呆然とする信太朗にツッコミ入れる役目は、ちゃんと存在していたが。

「ほら、もう出なきゃ。レディが寝てるんだよ? それともエトラナの寝顔を見てたいなんて気持ち悪いこと言わないよね?」

 ある意味どこまでもマイペースなミーニャの言動に追い出されつつ、お前B型だろと内心思うO型の信太朗であった。

さっき情報欄を見たら、とっても高い評価を入れて下さってあって、ビックリでした! どひゃあぁぁ、ありがとうございます! 「小説家になろう」内も3作さんぐらいしか読みに出かけたりとかしてないのに、恐縮千番です;

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