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リナイルパプリ物語

『英雄』 アイリス サルビア

作者: 萩原 智也

ものすごい風の音がした。視界が赤で染まる。頭は働かない。自分でもなぜそうしたのかはわからない。ただ、なぜか、口が動いていた。


「待て!まだ俺がいる!」


「すまんな坊主。俺には弱者をいたぶる趣味はないんだ」


全身を黒で染めている男はそう言い、目前から一瞬にして姿を消した。


「強くなったら相手してやるよ」


そう言葉を残して


* * * * * * * * * * * * * * *  * * * * * * * 


またこの夢か。


夢というのは 起きているときに経験したことや蓄積された情報を整理するために、過去の記憶や感情が結びつくことで見るらしい。

だというのに俺はあのとき、そう、五年前のあのとき以来この夢しか見ない。俺は何も経験していないということなのだろうか。

いや、そんなはずはない 毎日毎日着実に俺の剣は上達している。そういう実感がある。そう、あの時だってこのときだってできなかったことができるようになっていた。


なんてことを考えていたらいつの間にか時計の長針が起きてから半周していた。


「アイリスー早く起きなさいー」


「あいあい、起きてるよー」


そんなことを言いながら階段を降りてゆく。が、足が止まる。壁にかけられている男性の絵を見るために。


「親父…」


その男性は五年前のあの日死んだ俺の親父だ。

当時俺が住んでいる国 グラジオラス では自身の子を戦場につれていき隠れて戦を見させる行為が流行っていた。その結果、俺の親父は流行に乗ろうとし、自身の子の眼に戦の、それも自分自身が負け、死ぬ姿を刻んでしまったわけだ。なんて愚かなんだろう。


下に降りると、いつもと同じ温かいスープとパンというなんとも粗末な飯が用意されていた。


「いただきます」


俺はいつも同じような日を過ごしている。


食べては剣を振り、また食べては剣を振り、食べて寝る。

もしかしたら15歳という歳でこの生活習慣はおかしいのかもしれない。


ただ、俺には夢があった。あの、黒い剣士を斬るという夢が。


あのときは戦のことなど何も知らなかったが今はわかる。


この世界には3つの大国がある。

我らが剣士の国 グラジオラス 。黒い剣士がいると思われる国 魔法大国 カトレア 。商人の国 パキラ 。


今は停戦しているが、グラジオラスとカトレアは定期的に戦をしている。そして、パキラは中立を保っている。ということがわかった。


いつまた、カトレアとの戦いが起きて黒い剣士と会うことになるかわからない。その時に次こそ斬るために剣を振って振って振って振る毎日を過ごしている。が、強くなったと思ってもそれはあくまで昔の自分と比べった結果に過ぎない。

他者と比べても強いと自分で自信を持てるようにしたい。そのためにも対人戦をしてみたい。


「って言っても相手になってくれる人なんていないんだけどな!!」


「急にに大きな声出してどうしたのよ」


おっと、声に出てたか、気をつけなきゃな。


「大丈夫、こっちの話だから」


「あーそうそう、少し薬草取ってきてもらいたいんだけどいいかな」


「貸し1ね」


「それじゃ、今日のそのご飯作ったのでチャラね。いや、毎日作っているわけだからお釣りも返ってくる?」


ニヤけながらそんな事を言ってきた。なんてずるいんだか。


「やっぱり今の話ななかったことでお願いしまーす」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「よーし、これで言われてたものは取り終えたかな」


そんなことを口に出してみる。なんでそんなことをするかって?

実は2名ほどに俺は今つけられてるっぽい。なんで俺なんかをつけるんだか、理由なんか見当たらないけどな。

そんなことよりも気配ってここまで消せるものなんだな、、怖い怖い。


ん?ちょっと待てこれって敵意あれば対人練習になるし、なければつけられているという名のもやもやが晴れるんじゃないか?

よし、そうと決まったら誘い出すか。


「ちなみにどうして私をつけるのですか?」


反応がないなら自分から行くか。それは少し面倒くさいな。すると、茂みに中から人影が出てきた。

自分から行く必要がなくてよかったが、


ちょちょちょちょっと待て!!


「1、2、3、4、5、6人!!ちょいと多すぎはしませんかねー」


想定の3倍、さすがに焦るって、、これは。


「まさかこんなにも早く私達に気付くとはな、さすがやつが焼眼を与えただけはあるといったとこか。やつを怒らせるのはごめんだがバレたなら仕方ないというものか」


焼眼だ?何を言ってるんだ。まあ、そんな事はいい俺の腕試しに生贄となれ!!


「一っ」


剣を構えて下ろす。この動作を何回も何回もやってきた。その一撃は重く速いものになっていた。





急に息が苦しくなった。どうやら剣を振るっている間、呼吸をしていなかったらしい。


「これ、俺がやったのか、?」


周りには先程の者たちの亡骸が転がっている。それもすべて1つの切り傷しかついていない。


とりあえず、衛兵に連絡するか、、、


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「つまり君は、つけられて襲われて、撃退したということかい?」


「そうですね」


その衛兵、男性はとても困ったような顔をしていた。


「取りあえず今日は帰ってもいいよ。明日話をしに伺うかもしれないからよろしくね」


「わかりました」


話をしにか、、あれ、俺って人殺したんだよな。これって捕まったりするやつ?もしかして


まぁもう疲れたし寝るか。


その日久しぶりに俺はあの夢を見ずに寝た。まぁもしかしたら見たことを覚えてないだけかもしれないけど。



朝いつもどうり起きて食べて剣を振ろうと扉を開けたらそこにはすごく顔立ちの良い美青年がいた。


「おはようございます。アイリスくん」


知らない人に名前を覚えられている。恐怖しかない。まじで何なんだ?


「単刀直入に聞こう。昨日の6人、カトレアからの偵察部隊と思われる6人を斬ったのは君かい?」


昨日の人ってもしかして強い人達だったのかな、、、 とりあえずここは正直に応えよう。


「そうですけど。俺なんかしちゃいました?」


「ゴホン。グラジオラス直属騎士団団長 アイビー マトリカリア の名において アイリス サルビア を我が騎士団に勧誘する」


国直属の騎士団とかエリート中のエリート!!そんなとこからの勧誘を断る理由が見つからない!!


「ぜひ、お願いします!!」


迷わずに即答だった。これが人生を変える瞬間だ!とさえ思った。ゆえの即答だった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「その子がカトレアからの差し金を斬ったっていう子か? 俺が手合わせしてやろう」


「彼は アルストロメリア ブルウ 。この騎士団の副団長だね。彼はこう言ってるけどアイリスくんはどうする?」


貴重な対人戦。それもグラジオラストップの実力者だ。断る理由がない!!


「ぜひ、お願いしたいです!」


「それじゃ、真剣でやるわけにわいかないからそこの木刀を持ってね」


持ち上げてみると、見た目よりは重いものの流石にいつも使っているものよりは軽かった。


「ルールは一本勝負、寸止めでいい?」


「それで構いません」


さすが直属騎士団、闘技場もものすごく大規模だった。外から見てもそう思ったのに、実際に立つと更に広く感じる。


「行きます」


大丈夫だ、今までずっと繰り返してきたことをやるだけだ。上げて下ろす。それだけだ。


「ーっ」


自分の剣が流されたことに気づいたときにはもう遅かった。なぜなら、気づいたときにはもう自分の首元に木刀が据えられていたからだ。何が起きたのかわからなかった。対人経験があまりないからとかいう問題じゃない。彼、アルストロメリアの剣は恐ろしく速かった。


「はい。そこまでー」


団長は何も驚いた顔はせずにそう言った。


「重さとスピードは申し分ないんだけどねー。著しくかけてるね技術が。技術がないよ君の剣には」


アルストロメリアはそうニヤリと笑いながら言った。


「アルストロメリアさん、どうしたら技術がつきますか?」


「長いからアルスでいーよ」


彼はまたもやニヤリと笑うと


「アイリスくん、技術は盗んでもいいんだよ。技術は盗んで磨くものだよ」


なにを言っているのかわからなかった。だって、技術に実態はない。盗むも何ももともとないんだから。

俺が理解できていないことがわかったのだろう。団長がひと声かけてくれた。


「取りあえず今日は彼が模擬戦をしているところを見ているといいよ」


「わかりました。ありがとうございます」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


アルスの模擬戦を見ていて、気づいたことがある。彼は決して自分から攻めていないことに。気になったので団長に聞いてみた。


「どうして、アルスは自分から攻めないんですか?」


「アルスくんはね瞬眼の持ち主でね、返しがものすごく上手いんだよ。まぁー彼の場合はそんなものなくても十分強いんだけどね。それに、教えるのが的確で上手いから育成にまわってもらっているんだよね」


瞬眼。以前書物で読んだことがある。確か、使用すると目の前の光景がコマ送りに見えるといったようなものだった気がする。当時はそんなの最強じゃん、って思ったが調整が難しくて持っていても使わない人が多いらしいと聞いた。


「だんちょーやりませんか?」


彼はニヤリと笑って言った。


「やるか」


団長はそう一言答えると続けてこういった。


「ルールは降参するまで、寸止め、木刀で」


「あいよ」


2人は向き合うとにらみ合い、先に仕掛けたのはアルスだった。


瞬きする間もないスピードで団長に近づいたがそれを団長はかわした。と思ったがアルスの木刀は、刺突の形だった構えはいつの間にか下段構えになっていて団長の方向に振り上げられた。が、団長は上段構えでアルスの木刀を打ち落とした。

ミシッというアルスの使っていた木刀が明らかにおかしな音を立てながら場に落ちる。

そこで降参すると思われたが、アルスはその木刀を左足で蹴り上げながら後ろへ下がると、左手でその木刀をキャッチする。その瞬間に団長がここぞとばかりに踏み込んで追撃を入れようとすると、アルスは得意の返しでそれを受け流し、そのまま宙で回転しながら団長の背後に回り、ものすごいスピードで首元に据えようとすると団長がそれを後ろを向きながら防ぐ。

カランっという音を立ててアルスの木刀が、否、アルスの木刀の半分から先の部分が場に落ちる。

団長は振り返ると笑顔で


「また、僕の勝ちだね」


と言うと、アルスは


「畜生ー。今回は行けると思ったんだけどなー」


団長は笑いながら


「もう暗いから、今日はもう解散なー。明日も頑張ろうー!」


その日、俺はほとんど動いていないにもかかわらず眼がものすごく疲れていたため、倒れるように眠った。



次の日の朝、闘技場に行き、アルスに相手をしてもらっているとこんなことを言われた。


「お前、なんかあったか?」


「いや、なにも…」


急にどうしたんだろうか。俺の顔になんかついてたか?いやそれなら顔をじっと見るか。

なんて一人で自問自答しているとアルスが


「お前、返しがものすごく上手くなってるぞ」


アルスは悩む素振りをしながら、間をあけてこう言ってきた。


「本当に何もしていないんだな?」


「うん。何もしてないけど」


「行ってみる勝ちはあるか…」


とボソッと口にした後、俺の腕を掴んで歩いていった。


「ちょっとついてこい」


え?怖い怖い。急にどうしちゃったのアルスは。


「ど、どこに行くつもりですか?」


「ヒイラギの婆さんのとこへ行く」


いや、本当に誰やねん。





「2つ持ちだね。」


「まじか!!ちなみに何だ?」


「体眼と焼眼だね。でも焼眼は与えられたもののようだね」


焼眼?どこかで聞き覚えが。


「とりま2つとも説明をこいつに頼むわ」


あ、あいつらだ!カトレアから来たって言われてるあの人達が言ってたんだ!


「しょ、焼眼ってなんですか!!」


アルスもお婆さんも驚いた顔で


「急にでけー声出してどうしたー?2つ持ちだったから浮かれてんのかー?」


「そんなでかい声出さなくても教えるから黙って聞いとれ」



「にしても、まさか2つ持ちだったとはなー。まぁ、俺も2つ持ちだけどな」


婆さんによると。

体眼…

自分の目で見た技を体現することができるが、その技をするために必要な筋力などを無視して行うためその後、体にどんな負荷がかけられるかはわからない。

焼眼…

使用前の場合、相手に自分の焼眼を与えることでその時の光景を相手の脳に刻むことができる。なお、自分の脳に刻むことも可能。

使用後の場合、夢など何らかの形で刻まれた記憶を見ることになり忘れることができなくなる。なお、換眼を用いることでその記憶を書き換えるか、使用前の状態に戻す事ができる。


俺はこれを聞いたとき思った。すごく相性がいい…


「俺との会話を無視して一人でニヤけてどうした?頭イッちまったか?」


「いや、大丈夫だ」


その日の夜急に目が良くなった気がした。魔眼を自覚したからだろうか。



次の日、事件が起こった。




アルスが死んだ。




俺は、信じることができなかった。あって間もなくとも悲しみはあるが、それよりも驚きが俺の心を満たしていた。

なにしろ、俺は昨日一緒にいたのだ。それがいつの間にか死んでいた。その現実を受け止めることができなかった。強い弱い関係なく人は簡単に死んでしまうという現実を受け止めることが。


アルスが死んだ場所には半径五メートルのきれいな半円のような形をした穴が空いていたらしい。団長は相当な実力者のはずだがそんな技を使う人は今まで聞いたことがないと言っていた。一体誰がこのようなことをしたのだろうか。


その日は、騎士団全精力で国に侵入していたものに情報をはかせ、排除した。


ちょうどそこから5日後だった。グラジオラスとカトレアの戦が再び始まったのは。



以前から戦をすることになった場合、要となる場所は2箇所とされてきた。もともとは団長とアルスでそこに対応する予定だったがアルスがいない今、団長はそこにアルスの返しを身に着けた俺を投入することにした。その判断に一瞬とまどいはあったものの誠心誠意務めさせていただくことにした。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


大丈夫だ。俺ならできる。優秀な仲間たちから技術を盗み尽くしたんだ。俺ならできる。大丈夫なんだ。大丈夫…のはずなのに、、


「安心しろ。誰でも最初は不安だ。しかも、アイリスに任せたのは俺のとこと同じぐらい重要なとこだもんな。そりゃ緊張するよ。まぁ、それを任せた俺が言えないか。」


団長は俺の緊張を和らげるためにそんなことを笑いながら話した。そして最後にこう言って持ち場に戻った。


「カトレアにお前より強い純粋な剣士はいない」


どういう意味だろうか。純粋な剣士とはどういう意味なんだろうか。いや、今はそんな事は考えなくてもいい。それより敵のおさらいだ。カトレアで特に警戒すべき人物は3人。

カトレアで最も強いと言われている人物であり、戦で一度も負けたことがないと言われている人物。『戦狂』 アキレア シュイン 。

その、戦狂とともに行動することが多いと言われる、『提供者』 シオン アスター。

そして、アルスを殺した謎の人物。


団長によると、俺の親父を斬ったのは戦狂ではないかということだ。そして、助言を一つ授かった。


「殺しても殺したと思ってはいけない」


続けてこうも言った。


「戦狂を生物として殺す方法はない。これが俺の感想だ。やつと戦い、生きているものとしてそう結論付けさせてもらった」



ならばどうするのか考えた結果、斬って死なぬのなら切り落とし、切り落として死なぬのなら切り落とし続ける。そう行動することにした。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


ちょうど3時間ほど経ったとき団長がいるであろうところから爆発音が聞こえた。そう、戦闘が始まったのだ。

爆発音が聞こえた数秒後のことだ。勘というやつだろうか。思考をはじめるよりも先に体が後ろへ動いていた。見てみると、俺がいた場所の地面には亀裂が入っていて、そこにまたがるようにニヤけた黒い男が立っていることがわかった。


「これを避けるか。坊主強くなったな。約束だ、相手になってやろう」


その黒い男はニヤけた面を真面目な面になおすと


「カトレアの現最強の男『戦狂』 アキレア シュイン」


と言い放った。それに俺は


「グラジオラス直属騎士団副団長代理 アイリス サルビア」


と返すと、それが合図となり黒い剣士、アキレアが剣を構え、踏み込んできた。否、アキレアではなく炎が接近していた。剣での勝負だと勝手に思っていたので戸惑ったが、よくよく考えたら当たり前のことだ。カトレアは魔法大国である。その頂点が魔法を使えないわけもない。

俺はとっさに炎を剣で真っ二つにすると、その炎の先にはアキレアの姿はなく消えていた。上を見上げると、風魔法だろうか、空を飛んでいた。また、さっきまでは持っていなかった剣を、持ち運ぶことすら難しいような長さの剣を構えたアキレアが回転しながら空から落ちてきた。


本能的に避けなきゃやばいと感じ、避けた。


「それで正解だ」


そんなことをアキレアは口にした。


その声が聞こえた、3秒後。アキレアは普通の長さの剣のようなものを構え、踏み込んできていた。俺はその剣に対し流して対応した。いや、しようとした。が、アキレアの剣は俺の剣に触れることはなく俺の服を切り裂いた。


「今のは…」


避けられたのではない。あれは、透けていた?剣が透けるなんてことがあるのか?


「教えるかよ」


この技に対してどう対応をしたらいい。その問の答えを出すために避けて避けて避け続けた。結果、正しいと確信できる答えは出ることのないまま、俺の体に浅い傷が増えていくだけだった。

ただ、避ける過程でアキレアの剣を見ることに集中していたため、1つわかったことがある。


アキレアの剣は変幻自在に形を変えていた。そのことから先程剣に触れられなかったのはその瞬間に限り、そもそも剣が存在しなかったからだと考えられる。ということは


「その時がアキレアの隙だ」


俺が剣を構え直すとアキレアはニッと笑い


「やっと、本番ってわけだ」


とつぶやいた。


俺はアキレアに踏み込むと同時に自分が使える中で最も速い技。振り上げて下ろす。基本中の基本の技を使った。斬った確かな感触があった。が、かすかに「カリッ」という音が聞こえると俺がつけた傷は直ちに消え失せていて、傷が治っている途中にはもうすでにアキレアは剣を俺に向けて振り下ろしていた。それを避けるのはほぼ無理だと考えると同時に体眼の効果を思い出した。俺は、足で避けるのをやめ、先程見たばっかの、アキレアが宙に舞うときに使った風魔法を自らの身体とアキレアの間の空間に打つことで距離をあけ、剣を避けた。


「グラジオラスのくせに魔法使いやがんのかよ」


「問答無用、」


俺はアキレアが俺が魔法を使えるか改めて思考しているすきに炎を目の前に出し、それを最大限活かすために普通に斬るのではなく俺の剣は投げ捨て、アキレアが使っていた魔力で作られた剣で透かしながら斬ることでアキレアを斬り、出し抜いた。はずだった。


アキレアはその剣に対してしっかりと剣で対応し


「魔法ってのはこうつかうんだよ」


というと、その剣先から鋭い刃となった風が吹いた。紙一重で避けたため俺に当たることはなかったもののその風は恐ろしい切れ味を遠くの岩へ発揮していた。


アキレアは五歩ほど下がって距離を取ると、


「もう、ネタは出し尽くしたろ?それに、長く斬っててもお前は避けることに特化しすぎててらちが…」


俺は開いた距離を剣を拾いながら一瞬で詰めると避けようとするアキレアの首を完全にとらえ、斬った。

その時の感覚はおそらく瞬眼を使用したときのものであったと思う。世界がコマ送りに見えた。


「ドンッ」と鈍い音がなる。そこにはアキレアの首が転がっていた。


「これはお前が俺の親父を斬ったときに使った技だ」


すでにこの世にいなくなった戦の達人の亡骸にそう言い、俺はその頭を拾い上げ、勝利宣言をしに行こうと思ったとき。誰もいるはずのない背後から声が聞こえた。


「てめー奥の手隠してやがったな。今の対応力は瞬眼か?」


そこには傷が何一つない姿のアキレアが立っていた。


「てかお前、断頭は人の心がないだろ。ほんとにありえねーわ」


なんでアキレアが生きているのかわからなかった。


「そろそろ、時間切れだな。お前は俺には勝てない」


アキレアは笑いながら言った。


「なぜか教えてやろうか?お前が断頭したせいでこの勝負は勝敗がつかずに終わるからだ」


俺はこうなった理由を考えるのをやめ、動いた。


「勝負はつく。今終わらせる。もう一度斬る」


と入ったもののうまく体が動かなかった。体眼の副作用だろうか。


「わりーな。制約なんだ」


突如、アキレアの足元に大きな魔法陣が現れた。その魔法陣がどんどん大きくなっていき、半径五メートルほどの大きさになった。


「ノースポール」


その言葉が聞こえた瞬間、アキレアは魔法陣とともに姿が見えなくなっていた。


ただ一つの罵声を残して。



「ちょ、どういうことだよ!ふざけんのもいい加減にしろよ!」



その後、俺は団長の援護、報告にまわり、その日の戦は終りを迎えた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


アキレアとアイリスの戦いから2日後。カトレアへ、アキレアの首を持っていき、和平交渉を行った。


その後団長へ、瞬眼のこととアキレアのことを聞くと、


「アキレアについては正直僕もよくわからないけど、瞬眼については教えられるよ」


「ありがとうございます」


「アルスくんは瞬眼以外にももう一つ魔眼を持っていて、その魔眼は与眼なんだ」


団長はこれでわかったかな?とでも言いたげにこっちを見ていた。


「あのー、与眼ってなんでしたっけ?」


「ごめんねー、てっきり誰かからもう聞いてるかと。与眼っていうのは自分が持つ魔眼を誰かに与えることができる魔眼のことだよ」


団長は俺に笑顔を見せると


「アルスくんは見知らぬ魔法使いに奇襲されたとき全力で戦うことよりもアイリスくんに託すことを選択したんだよ」


「俺、アルスの期待に応えられましたかね」


「アルスくんを殺したのはアキレアではないから応えられなかったといったら応えられなかったし、応えられたといったら応えられたんじゃないかな」


俺は笑いながら


「そこは応えられたって言えばいいんですよ」


と返した。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


グラジオラスの新米騎士アイリス サルビア は自分の魔眼の特性を活かし、急速に成長したことでカトレア最強の魔法剣士 『戦狂』 アキレア シュイン を打ち取るまでに至った。その戦いの最後は曖昧なものではあったものの少なくとも アイリス サルビア が生きている間には アキレア シュイン は復活しなかったため討ち取ったも同然だった。


戦後、グラジオラスはカトレアと戦のない平和な世界を作るために交渉をし、

カトレアは、最強の魔法剣士を失ったことで戦を挑んでも勝てるはずもないため渋々その交渉に応じた。


今までの歴史上、最も長い平和の時代を切り開いた立役者として アイリス サルビア は


『英雄』アイリス サルビア と呼ばれるようになった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。評価、感想をもらえると嬉しいです。


今回の作品で始めて 小説 というものを書きました。書いてみると、いつも面白い作品を提供してくださっている先生方への尊敬の念が強まるばかりでした。

今回の作品では至らぬ点が多々あったと思います。感想欄などで指摘していただけると嬉しいです。

指摘いただいたところを反省とし、次作をより良いものにしていきたいと思っております。


改めまして、最後まで読んでいただきありがとうございました。評価、感想をもらえると嬉しいです。

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