惨劇のプロローグ
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──惨劇のプロローグ
「シエナ・アシュクロフト。お前との婚約を破棄する」
皇子ウィリアムは目の前の女性シエナにそう言い放った。
シエナ・アシュクロフトは公爵令嬢であり、ウィリアムの婚約者である。いや、婚約者に関して既に過去形で『婚約者であった』と表現すべきだろう。
雪のように白くて細い髪、物憂げな赤い瞳を持つシエナは、このウィリアムの恥知らずな言葉を聞かされるために病室から王城へとやってきていた。昔から病弱な彼女はその人生のほとんどを病室で過ごしているのだ。
「理由をお聞かせ願っても?」
シエナはそう尋ねる。
病弱な彼女だからそこまで抗弁することはないだろうと思っていたウィリアムにとって、質問を返されるのは意外であった。
「理由などいくらでもある」
それでもこんな弱弱しい女性に負けるとはウィリアムのは思っていない。
「まずは病弱であること。皇室の一員となるならば心身ともに健康であるべきだ。その点において私にはお前よりずっと相応しい相手がいる」
ウィリアムはこれで十分だろうとばかりに言葉を切った。
「殿下は私との結婚の意味を理解してそう仰っているのですね」
「ふん。お前との結婚に価値はない。私はそう判断した」
「そうですか」
シエナがそういってウィリアムに向けるのは憐みの視線。
「言いたいことはもうないな?」
「ございません。ですが──」
ウィリアムが高圧的にそう尋ねるのに、シエナの視線から憐憫のそれが消え、歪んだ愉悦のそれが浮かび上がる。
「それならば、あなたには死んでいただきます、ウィリアム皇子」
シエナが笑みを浮かべた時、惨劇は始まった。
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