後編
「初期のヒロインは、独りで戦おうとしてたもんねー。他の人を戦いに巻き込みたくなかったからだけど」
「ええ、そのとおり。そんなヒロインに手を差し伸べたのが、第4話でキュアプリズムに変身した、ましろちゃんよね。更にましろちゃんは第5話で、ヒロインに『わたしたちは友達じゃなくてパートナー!』と宣言したわ。その後で『友達』って呼び方に戻るんだけど、もう関係としては百合的なパートナー同士よね。その関係が、感動的な最終回まで続いていくわ」
いいわねぇ、と萌え萌えの表情で未来ちゃんが言う。いいよねー、と私も返した。
「ちょっと、多様性ってテーマにも触れるわね。『ひろがるスカイ!』は最終的に、五人組のプリキュアとなるんだけど、三人目のキュアウィングは男の子だったわ。これもシリーズ史上、初なのかしら。『何で男子がプリキュア?』って反応もあったみたいだけど、それを言ったらキュアスカイだって女子なのにヒーローを目指してるんだもの。性差は問題じゃない、と私は思う。今は女性消防士だっている世の中なんだから」
「可愛かったよねー、キュアウィング。史上初って言えば、四人目と五人目の、プリキュアの年齢もそうじゃない?」
「そうね、四人目のキュアバタフライは十八才で。そして五人目のキュアマジェスティは、何と赤ちゃんだものね。キュアマジェスティの肉体年齢は高校生くらいになってるけど。そもそもプリキュアの年齢は、別シリーズの『キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~』で、全員が二十代だったりしたもの。性差や年齢に拘る時代じゃないってことかもよ」
ここで一息をついて。それから未来ちゃんは、再び語りだした。
「それでね。五人組のプリキュアにいた、男子のキュアウィングだけど、いいアクセントになっていたと私は思うのよ。『ひろがるスカイ!』のプリキュアは、異世界のプリンセスであるキュアマジェスティと共に、アンダーグ帝国と戦うことになるんだけど。プリンセスを守る、残り四人のプリキュアが、ちょうど二組のカップリングになってるのよね」
「あー、わかるよー。キュアスカイとキュアプリズムは、さっきも言ってたとおり女子同士のパートナーだし。そして男子のキュアウィングと女子のキュアバタフライも、コンビを組んでたよねー」
「そうそう。キュアスカイとキュアプリズム、そしてキュアウィングとキュアバタフライは、それぞれ固有のコンビ必殺技を持っていたわ。五人組のプリキュアの中に、同性カップルと異性カップルが同居しているの。恋愛関係とまでは言えないけど、プリンセスであるキュアマジェスティは、割と本気でキュアウィングに好意を寄せていたりね。異性カップリングがあるからこそ、ヒロインの同性カップリングが引き立っていたのよ。そして、その百合カップルが、最終回直前の第49話で悪の暗黒パワーに打ち勝つの。あれこそ愛の力だわ」
「あったよねー。ヒロインが暗黒パワーに乗っ取られて、コスチュームが堕天使っぽくなるシーン。それでキュアプリズムに襲い掛かるんだけど、まったくプリズムが動じなくて、ヒロインも正気を取り戻して笑い合うんだよねー」
「格好よくて、いいシーンだったわよね。あの暗黒パワーは軍事力や支配欲の象徴だったけど、それに打ち勝つのが、一対一の愛だったことに意味があると私は解釈したわ。そして物語は最終回である第50話に続いていくの」
「うんうん。最終回の前半は、最終決戦で。そして後半は、ヒロインであるキュアスカイと、パートナーのキュアプリズムの別れが描かれるんだよねー」
「そうね。暗黒パワーそのものであるラスボスを、五人組のプリキュアが、五人全員で放つ大技『プリキュア!マジェスティックハレーション』で浄化するのが前半だったわ。この技に限らず、『ひろがるスカイ!』は虹をイメージした技が多かったわね」
「つまり、多様性が作品のテーマってことだよねー。わかってるよー」
「少なくとも、テーマの一つではあるでしょうね。ラスボスを浄化する前にキュアウィングが、『負けるものか…。世界を閉じて、同じ所でただ濁ってるだけのお前なんかに!』って言って。そしてキュアバタフライが、『私達は広がっていく! アンタを超えて! 大きく広く!』と続けるの。地上では領土を奪おうとして戦争が行われるけど、空からは虹が下りて、もっと大きくて広い世界があることを教えてくれるのよね。独裁者が何をしようが、多様性は世界へ大きく広がっていくのよ。それがタイトルである『ひろがるスカイ!』に繋がる、作品メッセージだったと思うわ」
「さて、いよいよ『ひろがるスカイ!』も締め括りよ。元々、異世界の住人だったヒロインとプリンセスが、こっちの世界に落ちてきたのが物語の始まりで。その後、異世界から男子のキュアウィングも来て、こっちの世界の十八才女子であるキュアバタフライとコンビを組んだのよね」
「そうだねー。異世界にいたプリンセスとヒロイン、そしてキュアウィングは元の世界に帰らないといけない。コンビというかカップルだった、ヒロインであるキュアスカイと、キュアプリズムであるましろちゃんは離れ離れになっちゃうんだねー。コンビ解消ってことで言えば、キュアウィングとキュアバタフライもそうだけど」
「そうね。キュアウィングとキュアバタフライのお別れは、涙はない爽やかなものだったわ。正確には、目に涙が浮かんでいたけどね。そして対照的に、ヒロインとましろちゃんのお別れは、ウェットになっちゃう……当然よね。実質、恋人同士みたいな関係だもの」
「泣くよねー、絶対。もし私がミクちゃんと別れることになったら、耐えられないよー」
「そ、そうね……そういうことを言わないでよ、涙が出ちゃうから。それで、ましろちゃんの方が先に泣いちゃって、ヒロインが『笑ってお別れしましょう…』って握手を促すの」
「覚えてるよー。そして、ましろちゃんがヒロインのことを、ヒーローだって褒めるんだよねー。『本当に強くて、カッコいい…』って言って」
「そう。そして、それを聞いたヒロインが泣くの。『そうじゃないって、ましろさんが一番知ってるクセに…』って。第1話からヒーローになりたがっていたヒロインは、最終話でも、まだ自分が未熟なんだと知っている。そして多分、そういう自分をヒロインは受け入れているのよ」
「ふむふむー、そうかもねー。自分で何でもできるんなら、仲間は必要ないってことだしー」
「そういうことよ。自分の限界を知って仲間を頼るのも、成長の証ってことね。それをヒロインに教えてくれたのが、ましろちゃんだし、きっと最終話の後もヒロインとましろちゃんは繋がり続けると私は信じてるわ。トンネルで異世界とは繋がってるし、涙で別れた翌日には、あっさりヒロイン達がましろちゃんの家へ遊びに来ていたしね」
「きっと、ずっと一緒だねー。私とミクちゃんの関係みたいにねー」
「これまでと違うタイプの、青い髪のヒロインが成長していく姿を描いた、見応えがあって見所も多かった素晴らしい作品だったわ。百合的にも大満足の作品というのが、『ひろがるスカイ!』の、私の総評よ」
「二月からプリキュアの新シリーズが始まったよねー。これは、どう思うのー?」
「『わんだふるぷりきゅあ!』よね。タイトルがひらがなっていう、小さな子でも楽しめる作品って印象かしら。ここ2シーズンは、内容やテーマが大人向けになってきてたから、小さな子に向けた作品を創るのは良いことだと思うわ。まあ私も小さいんだけどね、身長が」
「まだ2話しか放送されてないけど、敵を攻撃で倒すんじゃなくて、ハグで癒してるんだよねー。優しい作品だなぁと思ったよー」
「ペットがプリキュアになるって展開で、これは最終話になっても、お別れしないのかしらね。そうだと嬉しいわ。最終話での離別って、やっぱり寂しいもの」
「私たちだって別れないよー。今日で私とミクちゃんが付き合ってから一年だし、明日はバレンタインだし。これから一緒にチョコを買おうよー」
私たちは未来ちゃんの理論に寄れば、永遠に中学生だそうだ。それが本当かは分からないけど、私と未来ちゃんの関係が、ずっとプリキュアみたいに続けば素敵だと思う。私は彼女の手を引いて、放課後デートを楽しむべく教室から飛び出した。




