第9話 煌光の剣
「とりあえず、明日から試したいことがある」
「試したいこと、ですか?」
私が尋ねると、サミュエルはソファから少し腰を浮かせて私に近づき、小声でささやいた。
「実はこの国には、太古の昔から伝わる伝説の剣があるらしい。それを探すのを手伝ってくれ」
「伝説の剣?」
「ああ。『煌光の剣』と呼ばれるそれを手に入れれば、この国は未来永劫安泰だということだ」
サミュエルは、目を輝かせながら私を見る。
私は、そんなサミュエルを見て焦ってしまう。
「あ、あの。タロット占いで剣を見つけることは不可能なのでは?……」
「だから、試したいと言っただろう。この剣に関してはもう何年も前から調査をしている。しかし、一向に見つからなくてな。試せるものは何でもしてみたい」
「はあ。あまり期待に添えないかも知れませんが……」
私とサミュエルがそんなやりとりをしていると、執務室のドアを誰かが激しくノックした。
ドンドン
そして、ドアが乱暴に開かれた。
「サミュエル! 聞いたわよ! 今度は占い師を雇ったんですって?」
そう言いながら、ドアから勢いよく入ってきた女性はソファに座っているサミュエルを上から見下ろす。
栗色の艶やかなロングヘア、勝気そうな瞳を持つ美しい女性がそこに立っていた。
サミュエルはやれやれと首を振り、その女性を見上げる。
「騒々しいぞ、ルーシー。今は仕事中だ。出て行け」
「まだあの剣を探すつもり? それも今度は占いに頼るなんて。呆れたわ」
ルーシーと呼ばれた女性は、そう言うと次に私のほうを見た。
「あなたも大変ね。断ってもいいのよ、こんな仕事」
「あ、いえ」
私は、ルーシーの気迫におろおろしながらサミュエルの顔色を伺う。
サミュエルは、いつまでも部屋から立ち去らないルーシーに痺れを切らせたのか、ソファから立ち上がりルーシーの手を掴んだ。
「何するのよ! 離して!」
「お前がすぐ出て行かないからだろう。さあ、早く出て行け」
サミュエルは、ルーシーの手を掴んだままドアまで歩いていき、乱暴にドアを開けるとルーシーを外に追いやった。
バタンと閉められたドアの向こうで、ルーシーは大声でサミュエルに言う。
「また来るから!」
そして、バタバタと走り去ったのだった。
「いいんですか? あんなに乱暴に追い出してしまって」
静かになった部屋で、私はサミュエルに尋ねる。
「構わん。あいつは俺の幼馴染でな。事あるごとに小言ばかり言うんだ」
サミュエルは、そう言うとため息をついてソファに座り直したのだった__。
ルーシー・スコーン 25歳。
スコーン伯爵家の娘で、サミュエルの幼馴染である。
現在は大学院で政治学を研究している。
将来はお城で、サミュエルの仕事を手伝いたいと考えているようだ。
幼少期の頃は、サミュエルのお嫁さんになるのは自分であると周囲に公言していたが、現在はどう思っているかは謎である。
『煌光の剣』をいつまでも追い求めているサミュエルのことを、陰ながら心配しているのだった。
(なんか、波乱の予感……)
疲れた顔で、ソファに深く座り込んだサミュエルを見ながら、私はこれから受け持つ仕事に不安しか抱けなくなってしまったのだった__。