第8話 いざ、お城へ!
目の前にそびえ立つお城を見上げる。
「今日からここで新しい生活が始まるんだ……」
昨日、サミュエルから私を専属の占い師としてお城に迎えたいと言われた。
どうするか思い悩んでいた私に、ハリスはエールを送ってくれた。
そして、お互いの本当の気持ちを伝え合うことも出来たのだった。
「この国で1番のタロット占い師になるって、ハリスと約束したんだもん。頑張ろう!」
私は、正面をしっかり見据えてお城に向かって歩き出す。
初めて仕事を始めた頃のような緊張感と、新しいことを始めるワクワク感で、私は少し早歩きでサミュエルの元に向かったのだった__。
☆
お城の門番に事情を伝えると、すでに私が来ることをみんな知っており、すぐにサミュエルのいる執務室に案内された。
コンコン
サミュエル付きの執事がドアをノックする。
「サミュエル様、レイカ様をお連れいたしました」
「入れ」
昨日、ハリスの店で聞いた少し高圧的な声が部屋の中から聞こえてくる。
私は、緊張で震える声で挨拶をした。
「失礼いたします」
私が部屋に入ると、サミュエルは書類仕事をしており、私を少し見てから再び書類に目を向けた。
「あと少しで終わる。それまでそこのソファに座っていろ」
「は、はい」
私は、言われた通りにソファに座った。
ぐるっと部屋を見渡してみると、高級な調度品が部屋の至るところに置いてある。
本でしか見たこともないような調度品に目を奪われていると、後ろから声を掛けられた。
「そんなに珍しいのか?」
私がはっとして振り向くと、そこには書類仕事を片付け終わったサミュエルが立っていた。
「あ、失礼いたしました。つい、見入ってしまって……」
「この程度の調度品、腐るほどあるぞ。好きなものをお前の部屋に置くといい」
サミュエルはそう言うと、面白そうに笑って私の向かい側に座った。
「さて、単刀直入に言う。明日からお前は、俺と行動を共にしてもらう。以上だ」
「わかりました……」
話が簡単に終わってしまい、それまでの緊張が脱力感に変わる。
「はぁ……」
思わずため息をついてしまい、慌てて手で口を隠した。
そんな私を見て、サミュエルが尋ねる。
「何だ。不服か?」
「違うんです!」
私は首を横に強く振る。
「もっといろいろ言われると思っていたので、気が抜けてしまいました」
「お前は俺を何だと思ってるんだ? 取って食うわけでもない。安心しろ」
そう言って、屈託のない笑顔を見せるサミュエルに私は少し驚く。
(こんなふうに笑うこともあるんだ!)
私は、改めてまじまじとサミュエルを見つめるのだった__。
サミュエル・ブリオッシュ 29才。
ブリオッシュ王国の第一王子であり、現ブリオッシュ国王の後継者である。
ミディアムパーマの金髪に淡いグリーンの瞳。
すっと通った鼻筋に意志が固そうに結ばれた唇。
女性受けしそうなかなりのイケメンである。
しかし、そんな風貌とは裏腹にかなりの野心家で、国王の片腕としてこの国を支えている。
言動が高圧的なために、近隣諸国では『鬼王子』として恐れられているが、ブリオッシュ王国の民からは頼れる王子として敬愛されている__。
(明日から大丈夫かな、私……)
不安になる思いを抑えながら、私はサミュエルとの会話を続けるのだった__。