第7話 与えられる幸せ
私の手を握りながら、熱い視線を送るサミュエルに私は困惑していた。
(お城に迎えたい、なんて。どうすればいいの?)
思わずハリスのほうを見ると、ハリスも何が起こっているのかわからないような顔をして、その場に突っ立っている。
私は、意を決してサミュエルに言った。
「少し考える時間をください」
サミュエルは、私の返事が意外だったのか少し驚いた顔をした。
そして、ふっ、と強気な笑みを浮かべる。
「いいだろう。一日だけやる。いい返事を期待しているぞ」
そう言うと、サミュエルはドアのほうに歩いていく。
「店主、世話になった」
「は、はい。サミュエル様」
ハリスがサミュエルに深々とお辞儀をすると、サミュエルは私をチラッと見てから優雅に店を出て行った。
「はぁ……。緊張した〜」
私は、ため息をつきながらそこにある椅子に座り込んだ。
ハリスは、心配そうに私を見て温かいココアを淹れてくれる。
「大丈夫か? これを飲んで少し休んだほうがいい」
「ありがとう」
ハリスからココアを受け取り、一口飲む。
甘い香りと濃厚なココアの味わい、そして何よりその温かさで心が落ち着いた。
「私どうすればいいんだろう」
つい心の声が口をついて出てしまう。
そんな私を見て、ハリスは私の前の椅子に座った。
「チャンスじゃないか」
「えっ?」
「レイカはこの国で1番のタロット占い師になりたいんだろう? だったらこれは夢を叶えるチャンスだ」
ハリスは私の目を見ながらうなづく。
「でも……」
お城に行ったら、ハリスと離れ離れになってしまう。
でも、私を心の底から応援してくれているハリスにそんなことはとても言えない。
複雑な気持ちを抱えたまま、私は決断を迫られていた。
「俺は……本当はレイカと離れたくはない」
不意に告げられた言葉に、私は顔を上げる。
「ハリス?」
「すまない。レイカを応援したい気持ちは嘘じゃない。でも俺は、知らず知らずのうちにレイカのことが……」
ハリスはそう言いかけて口を結んだ。
私は黙ってしまったハリスの顔を覗き込む。
「私のことが、何? 教えてハリス」
私の真剣な眼差しに根負けしたのか、ハリスはためらいながらも話を続けた。
「俺は、レイカのことが好きになってしまったようだ……ずっとこの気持ちは自分の胸にしまっておこうとしたんだが」
「!!!」
思ってもみなかった告白に胸が震える。
ハリスも私と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しい。
「私も同じ気持ちだよ。ハリスのことが……好き……。だから離れたくない……」
「レイカ……」
不意に立ち上がったハリスに手を引かれる。
私は、あっという間にハリスの腕の中に収まっていた。
「俺はいつでもここでレイカを待っている。だから、レイカの夢のために城に行ってほしい」
先程までと違い、ハッキリとした力強い声でハリスが言った。
嬉しさで、後から後から涙が溢れてくる。
「私、絶対この国で1番有名なタロット占い師になって帰ってくるから」
涙ながらにそう言い、顔を上げてハリスを見つめると唇を奪われる。
少し強引なキスに息が上がり、思わずハリスの服を掴んだ。
別れを惜しむように何度も何度も与えられるキスに、私は幸せを感じながらハリスに身を委ねるのだった__。