第6話 ある男とタロット占い
日曜日。
城にはたくさんの人々が集まってくる。
今日は年に一度のバザーが行われるのだ。
私はそこの一画で、パンを販売させてもらうことになった。
家で描いてきたPOPを飾り付ける。
『パンを三つ買っていただいたお客様にはタロット占いをいたします』
バザーの開始とともに、人々がさまざまな店を見て回る。
私の店にも、お客さんがチラホラと見に来てくれるようになった。
1人のお客さんが占いを始めると、それを見ていた他のお客さんが次々と集まる。
あっという間に、占いを待つお客さんの列が出来てしまったのだった。
そんな様子を、ジッと見ている男がいた。
その男は、パンの販売と占いを終えた私を確認すると、こちらに向かって歩いてきた。
そして、私の店の前で立ち止まると私に話しかけた。
「俺も占ってくれないか?」
「あ、すみません。もうパンも売り切れまして、店じまいなんです」
「パン三つ分の金は払う、なので頼む」
そう言いながら、男はパンのお金を私の目の前に置く。
私は、戸惑いながらもその男に尋ねた。
「あなたは何を占って欲しいんですか?」
「三日後、ベーグル王国へ侵攻するか迷っている。遠い国なのでね」
「政治的なことは私には全くわかりませんが……」
「構わん。気休めだよ」
男は、そう笑いながら私を見た。
私は、ふぅと息を吐き、カードをシャッフルする。
そして、一枚のカードを取り出した。
「女教皇の逆位置です。隠された真実を見誤って、愚かな行動を取ってしまうというカードです。少し冷静に考えてみたほうが良いと思います」
私は、男の目をしっかり見つめてカードの持つ意味を話した。
男は、そうか、とだけ言うと、私の前から去っていった。
(誰なんだろう、あの人)
私は、その男のことが気になり、去っていく後ろ姿をしばらく目で追ったのだった__。
三日後の午後。
私がハリスの店でお客さんを占っている時、何やら外が騒がしくなった。
「何の騒ぎだ?」
ハリスが不審そうにつぶやいたその時、店のドアが開き、誰かが中に入ってきた。
「占い師の女がここにいると聞いた」
入ってきた男は、そう言って店内をぐるっと見渡す。
その男の姿を見て、ハリスが驚いた声をあげた。
「あなたは、サミュエル王子!」
「いかにも、俺がサミュエルだ。おい、そこの女」
サミュエルは私を指差す。
「え? 私ですか?」
「そうだ、お前だ。先日、俺を占ってくれたこと、感謝する」
「あ、あの時の!」
私は、三日前にお城である男を占った時のことを思い出した。
「先程、ベーグル王国から使いが来たんだ。決裂したと思っていた交渉が勘違いだということがわかった。お前の占いがなければ戦になっていただろう」
サミュエルは、興奮しながら私の手を握る。
「そ、そうですか。戦にならなくて良かったです」
私は、サミュエルの態度に困惑しながら笑顔で答えた。
そんな私を見て、サミュエルはうなづく。
「そこでだ」
サミュエルは、私に顔を近づけると握っていた手に力を込めた。
「俺専属の占い師として、お前を城に迎えたい」
「えっ?!」
突然告げられた言葉に、私は呆然とサミュエルを見つめるしかなかった……。