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第4話 新しい戦略

 ハリスのパン屋が新装開店して何日かが経った。

お客さんの数もそこそこ増えてはきているが、もっと宣伝をしたいところだった。

私はある考えをハリスに伝えた。


「ハリスのパンをもっと大勢の人に宣伝したいの。それでね、私に考えがあるんだけど」

「うん? なんだ?」

「お城にパンを売りにいこうと思って!」

「城に?」

「うん。お城でパンが有名になれば、もっとお客さんが来てくれると思わない?」

「そういうものだろうか?」


 ハリスは少し考えた後、私に言った。


「しかし、城の御用達になっているパン屋はこの街で1番大きなパン屋だ。ライアンの店だな」


 ハリスの説明によると、ライアンの店『ライアンズ ベーカリー』はパンの販売で、この街の50%のシェアを誇っているらしい。


「そうかもしれないけど、パンを売り込みに行くのは自由でしょ?」


 私はハリスの目を真っ直ぐに見て言った。

ハリスも私の目をジッと見つめたが、ふっとあきらめたように笑った。


「わかった。ただし、何かあればすぐに俺に言ってくれ。無理はするなよ」

「うん! ありがとうハリス!」


 そうと決まればすぐに行動するのみだ。

私は城に持っていくパンをカゴに詰め、スカートのポケットにタロットカードを忍ばせたのだった__。


            ☆


 城の周りは人の熱気であふれていた。

ちょうど昼時ということもあり、城のすぐ近くのレストランや喫茶店には城で働く人々が昼食を取りに来ている。

私は、レストランの前で列になっている人々のところに行き声をかけてみることにした。


「焼きたてのパンです! よろしかったらおひとついかがですか?」


 初めは私のほうをチラッと見るだけの人が多かったが、列の後ろのほうの年配の女性が私に声をかけた。


「混んでるし、パンにしようかしら。見せてもらってもいい?」

「はい、どうぞ!」


 朝、ハリスが丹精込めて焼いたパンを女性に見せる。


「あら、色んな種類があって楽しいわね!」


 女性はそう言って、何種類ものパンを選んで買ってくれた。


「ありがとうございます。あの、実は私、タロット占い師なんです。パンを三つ買ってくれたお客さまにタロット占いをサービスでしているんですが、よければやりませんか?」


 私はポケットからカードを出して言う。


「面白そうね。じゃあお願いしようかしら」

「はい! では、何について占いましょう?」

「そうねぇ……」


 女性は少し考えると、何かを思い出したように答えた。


「来月、国王様の生誕祭があるでしょう? この国はまだまだ安泰かしらね?」


 女性はニコニコと私に質問してきた。


「わかりました。占ってみます」


 私はスケールの大きい質問に少し緊張しながら、カードをシャッフルする。

そして1枚のカードを取り出した。


「あ、すごいです! 世界のカードで正位置です。このカードはタロットカードの中で1番いいカードなんですよ! 今の国王様なら安心して国を任せられると思います」

「そう! 良かったわ! そうだ。あなた、今度お城でパンを売ってみない?」

「えっ?」

「私、お城で働いてるのよ。若い人も多いから、きっとパンもタロット占いも喜ばれると思うわ」

「本当ですか? 是非お願いします!」


 こうして私は、次の日曜日にお城にパンを売りに行くことになったのだった__。


             ☆


「ただいま!」


 外から帰った私は、お城に行けることをすぐにハリスに伝えたかった。


「ハリス聞いて! お城にパンを売りに行けることになったの! 今から楽しみで……」


 チュッ


 (へっ?!)


 嬉々として話している私に、ハリスが突然キスをした。


「ハリス?……」

「すまない。嬉しそうに話すレイカが可愛くて、つい」


 ハリスは申し訳なさそうに頭を掻くと、私に背を向けた。


「今のは忘れてくれ。俺は明日の準備をしてくる」

「う、うん。わかった……」


 私は、まだ唇に残っているキスの余韻を感じながら、立ち去るハリスの後ろ姿を見ていたのだった__。


















 








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