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第3話 芽生えた思い

 次の日。

私とハリスはパン屋の改装に取りかかった。

店の外は可愛いイルミネーションライトを飾り、店内には買ってきた花や小物を飾り付け、そして最後に店の隅のほうに小さなテーブルと椅子を置く。

ここで私はタロット占いをさせてもらうことになったのだ。

パンを三つ買ってくれたお客さんにサービスでタロット占いをするという私の提案を、ハリスが受け入れてくれたのだった。


「客は来てくれるだろうか」


 改装した店を見ながらハリスが言う。


「こんなに可愛く改装したんだもん、きっと色んなお客さんが来てくれるよ!」

「そうか。俺も美味しいパンを焼いて、この店をたくさんの人に知ってもらうよう努力する」


 笑顔で話してくれるハリスに私は質問する。


「ねえ。お互いに大きい目標を決めない?」

「目標?」

「そう。私は、このブリオッシュ王国で知らない人がいないくらい有名なタロット占い師になりたい!」

「レイカは本当に目標を達成しそうな勢いがあるな」


 ハリスが微笑ましく私を見て言う。

そして、少し考えてはっきりした口調で言った。


「俺もブリオッシュ王国で1番有名なパン屋になりたい」

「決まりね! 一緒に頑張ろう!」


 お互いの顔を見てうなづく。

大きな目標を決めた私とハリスは、ガッチリと握手を交わしたのだった__。


 新装開店をしたハリスのパン屋には、老若男女様々な人が訪れるようになった。


「こんな可愛いパン屋さんあったっけ?気づかなかった」

「美味しそうなパンがいっぱいある! どれも買いたい」

「三つ買うとタロット占い出来るんだって。どうする?」


 特に若い女の子の来店が目立っている。

そんな時、ある一人の女の子がパンを三つ買い、私が座っているテーブルの前に立った。


「あの、パンを三つ買ったのでタロット占いをお願いします」

「はい、ありがとうございます。では、何について占うのか教えてください」

「えーと、その、実は好きな人に告白したいんです!でも勇気が出なくて……」


 女の子は顔を真っ赤にして話してくれた。


 (純粋で可愛いな!)

「はい、わかりました。じゃあ占ってみますね」


 私は女の子の生年月日を聞き、応援したい気持ちでカードを丁寧にシャッフルする。

そして一枚カードを取り出した。


「審判の正位置のカードです。今まで頑張ってきてよかったと思えることがありそうですよ」

「え、本当ですか? 嬉しい! 私、告白頑張ってみます」


 笑顔でお礼を言う女の子の言葉に私も嬉しくなる。


「私も応援してます。頑張ってくださいね」

「はい!」


 笑顔で帰っていく女の子を見て、他の女の子たちもパンを三つ買い始めた。

いつも静かだったハリスのパン屋に、和気あいあいと賑やかな笑い声が響いていた。


 賑わっていた店内の様子も少し落ち着き、夕焼け空が辺り一面に広がってきた頃、一人のお婆さんがハリスの店を訪れた。


「こんにちは。おや、随分可愛らしいお店になったねぇ」


 お婆さんは店内を見回しながら言った。


「グレースさん、いらっしゃい」


 ハリスが、パンのショーケースの後ろから店の中に出てグレースを出迎えた。


「お知り合いの方?」


 私が聞くとハリスはうなづいた。


「グレースさんは祖父の友達なんだ」

「歳をとったせいでなかなか来れなくてね。今日は久しぶりに身体の調子が良かったから来てみたのよ」


 グレースはそう言いながら私を見る。


「あなた、初めて見る顔ねぇ」

「初めまして、レイカと言います」

「ハリス、やっとお嫁さんをもらう気になったのね。安心したわ」


 グレースは、にこにこしながらハリスの顔を見る。


「違うんだ、グレースさん。レイカはそういうんじゃないんだ。ここでパン屋の手伝いをしてくれているだけなんだ」

「あら、そうなの? 私てっきりハリスの新しい恋人だと思ったのに」

 (何? 新しい恋人?)


 私は何気にハリスの横顔を盗み見る。

そりゃ、こんなイケメンに恋人がいなかった訳はないだろう。

でも何か心がムズムズする。

そんな私の思いとは別に、グレースは話を続ける。


「そういえば、ナタリーとはもう会っていないの? お似合いだったのに、残念だわ」

 (ナタリー……ハリスの昔の恋人だよね)


 私がグレースの話に釘付けになっていると、ハリスが首を振る。


「ナタリーとはもう会っていない。きっと俺のことが嫌になって出て行ったんだろう」


 ハリスは自分のせいだというように苦笑いをした。


「さて、今日は何にする? グレースさん」


 沈んだ空気を払うように、ハリスは話題を変える。

グレースも、それ以上はナタリーのことを口にせず、ハリスと一緒にパンを選び出した。

そんな二人の様子を、私は後ろから眺めていた。

私の知らないハリスのことをもっと知りたい。

知らず知らずのうちに、そんな思いが芽生えていくのだった__。














 


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