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第22話 愛しい人からの手紙

 ハリスが、生誕祭のカードをレイカに送ってから数日が経った。

いよいよ明日は生誕祭当日である。

しかし、レイカからの返事が来ることはなかった。


 (きっと城での仕事が忙しいのだろうな。レイカは仕事に対して妥協を許さないところがあるから)


 ハリスは、店内でタロット占いをしていたレイカを思い出すように、レイカが使っていたテーブルを優しく手で撫でた。


「ただいま〜」


 ハリスがレイカに思いを馳せていると、街に買い物に出ていたナタリーがニコニコとご機嫌な様子で帰ってきた。


「おかえり。やけに嬉しそうだが何かあったのか?」


 すると、ナタリーは広告のような紙をハリスに手渡した。


「見てハリス。さっきね、そこの角のところの不動産屋さんに聞いたんだけど、隣町にこのお店より大きな物件があるらしいの。安く貸してくれるんですって」

「は? 俺はここを出る気はない」


 ハリスは、その紙をナタリーに返すとカウンターの中に入りパンをショーケースに並べ始めた。

そんなハリスにお構いなしに、ナタリーは話を進める。


「隣町は今すごいのよ。都市開発が進んでいるから、お客さんもたくさん来るわ」

「そうかもしれないが、俺は両親が残してくれたこのパン屋を手放すつもりはない」

「でもいつかはこのお店も狭くなるでしょ?」


 ナタリーは、そう言ってハリスの腕に自分の腕を絡めた。

不意打ちなナタリーの態度に、ハリスは困惑しながらナタリーを見つめた。


「離してくれナタリー。何のつもりだ?」

「私、数日ハリスと過ごしてわかったの。やっぱり私、ハリスといる時が一番幸せだって」


 上目遣いで甘えたような声を出し、自分を見つめるナタリーからハリスは目を逸らす。


「よしてくれ。俺はもう君と一緒に生きていくつもりはないんだ。俺には……」

「それ以上言わないで」


 ナタリーは、言葉を続けようとするハリスの唇に人差し指を置いた。

そして、怒りを含んだような小さな声で呟く。


「来ないわよ」

「え?」

「あなたが会いたい人は来ない」


 ナタリーは、ハリスの手紙の内容を思い出したのか、沸沸(ふつふつ)と込み上げる怒りで顔を歪めた。


「どういうことだ?」


 ハリスは、絡められた腕をほどきナタリーの正面に立つ。

すると、ナタリーは怒りの表情から一変して、心底面白いような様子で笑い出した。


「うふふ。あなたが私に出すように頼んだ手紙。あれ、捨てたのよ。あなたの思いは全く彼女に伝わっていないってこと! あははは」

「なんだって?」


 手紙を捨てたと、笑いながら話すナタリーを見下ろしながら、ハリスは愕然とその場に立ち尽くしたのだった__。


            ☆


『煌光の剣』の調査が終了してから、私はしばらくの間サミュエルの雑務を手伝っていた。

今日も一通りの仕事を片付けると、サミュエルから声を掛けられた。


「今日はもう上がっていいぞ」

「えっ? いいんですか?」

「明日は国王様の生誕祭だからな。俺はこれから打ち合わせがあるんだ」


 (あ、生誕祭……。明日だったんだ。色々あって忘れてた……)


「そうなんですね! わかりました。では、失礼致します」


 私は、そう言ってサミュエルに頭を下げた。

そして、部屋から出ようとドアノブを掴んだ時、サミュエルから呼び止められた。


「レイカ、明日の仕事は休みにする。生誕祭は愛する人と過ごす日だ。お前もそうするといい。良い生誕祭を!」


 サミュエルは、そう言いながら私にウインクをする。

多くを語らなくてもサミュエルの優しさが伝わり、私は笑顔で答えた。


「ありがとうございます。サミュエル様も良い生誕祭をお迎えください。きっとサミュエル様の近くにも愛する人がいらっしゃると思います」


 (ルーシーさんが)


 最後の言葉を心に留めて、私はサミュエルの執務室を後にした。


            ☆


「とは言ったものの……。明日どうしよう」


 部屋に戻った私は、明日の生誕祭のことを考えていた。

ベッドの上にゴロンと寝転ぶ。

目を(つむ)りながら、先日アドルフにタロットで占ってもらった時のことを思い出してみる。


 (『お相手のことを信じてみてはいかがでしょう』)


 そう言ってくれたアドルフの優しい微笑みが、鮮明に脳裏に浮かぶ。

後押しをしてもらって直接ハリスに聞こうと思っていたが、いざその時になると尻込みしてしまう自分がいる。


「本当のことを知るの怖いよ」


 どうしていいかわからなくなって布団を頭から被った時、私の部屋を誰かがノックする音が聞こえた。


「レイカさん、いますか? レイカさーん!」


 聞き覚えがある声に、私はベッドから降り部屋のドアを開けた。

すると、そこには門番のケビンが何やら手紙のようなものを持って立っていた。


「ケビン、どうしたの?」

「これ、今ちょうど配達されたんですけど。レイカさん宛で間違いないですかね? 名前のところが少し滲んでしまっているんです」


 そう言って、ケビンは私に手紙を渡した。


「ありがとう。誰からだろう」


 私は、その手紙を裏返して送り人の名前を確認する。


「!!!!」


 (ハリスから!)


 愛しい人からの手紙に思わず何も言えなくなる。

私は、しばらくの間その手紙を握りしめたまま動けずにいたのだった__。






 



 


















 










 



 




読んでいただきありがとうございました。

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次回もよろしくお願いします!

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