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第21話 両者が出会う時

 広く綺麗な空間を、さらに奥へと進んでいくサミュエルの後ろ姿を私とルーシーは追いかける。

再びそこには、大人一人が通れるほどの細い道が続いていた。

そして、しばらく歩いた先でサミュエルが立ち止まった。


「何かある」


 サミュエルはそう言うと、その『何か』を調べようとしている。


「ちょっと、サミュエル。何があったの?」


 やっとサミュエルに追いついたルーシーが、サミュエルの横に並び、それを覗き見た。

それを見たルーシーは、はっと息を呑んだ。


「滝の裏にこんなものを作っていたのね……」

「ああ。ずいぶん立派な作りをしている」


 サミュエルとルーシーが話している後ろから、私もそれを確認しようと、二人の横に立った。


「わあ……」


 私は、思わず感嘆の声を上げてしまう。

そこにはなんと、石で作られた大きくて立派な(ほこら)があり、若き頃の国王様と王妃様、そして生まれたばかりの幼き日のサミュエルの姿を映した彫刻が石に彫られていたのだった。


「きっとサミュエルが生まれた時に、それをお祝いして作られたんじゃない?」

「こんなものがあるなんて聞いたことがなかったが」


 ルーシーの言葉に、サミュエルはそう答えながら彫刻を手で優しく触れた。

私は、そんな二人の隣で、(ほこら)の中央の空洞になっている部分を見ていた。

空洞の中には、何やら大事に布に包まれている物が置いてある。


「サミュエル様、あそこに置いてある物は何でしょう」


 私が空洞の中を指差すと、サミュエルはそれを慎重に取り出した。

そして、ゆっくりと布を開いていく。

すると、布の中から一本の短剣が現れた。


「これは……」


 サミュエルは、その短剣を見た瞬間に何かを思い出したように自分の(ふところ)に手を入れた。

そして、(ふところ)から(つた)を切り落とす時に使用した短剣を取り出した。


「やっぱりそうか」


 二本の短剣を注意深く見比べ、サミュエルはそう呟いた。


「何が、やっぱりなのよ?」


 ルーシーは、訳がわからないという風に首を振る。

短剣から目を離し、ルーシーと私のほうを向きながら、サミュエルは説明を始めた。


「この二本の短剣を見てみろ。横に並べると、(さや)の模様が一つの絵になるんだ」


 サミュエルが二本の短剣を横に並べると、そこにはブリオッシュ王国の城と城下町の風景が一つの絵となって表れた。

その見事な作りに、ルーシーと私は目が釘付けになってしまう。


「すごいですね!」

「一つの絵になってるのね」


 私とルーシーが感激している隣で、サミュエルは顎に手を当てて考え事をしていた。


 (『両者が出会う時それはさらに力を増すだろう』か)


 『煌光の剣』にまつわる歴史書に載っていた一節を、サミュエルは思い出していた。


 (両者とは、剣と人間のことだと思っていたが、まさか剣が二本あるとはな)


 「あははは」


 サミュエルは、全てを納得したように顔を(ほこら)のほうに向けると笑い出した。


「どうしたの? 何笑ってるのよ」


 突然笑い出したサミュエルに、ルーシーが尋ねる。


「今日をもって、『煌光の剣』の調査は終了する」


 ルーシーと私の顔を見ながら、サミュエルは満足気にそう言った。


「はあ?」

「終了ですか? サミュエル様」


 訝しげな視線を向けるルーシーと、質問をする私にサミュエルはうなづく。

そして、(ほこら)の中に置いてあった剣を再び布でしっかりと(くる)むと、それを優しくもとあった位置に置いた。

サミュエルは、しばらくそれを見つめた後、再びルーシーと私のほうを向き私たち二人に声を掛けた。


「『アクア グレイス』にたどり着いたのはレイカのおかげだ。礼を言うぞ」

「そんな。私はタロットで助言をしただけです」


 私は、サミュエルの言葉に恐縮して首を横に振る。


「この場所を覚えていたお前もよくやった、ルーシー」

「なんだかよくわからないけど、お礼の言葉として受け取っておくわ。で? 納得した答えが見つかったってこと?」

「ああ。そういうことだ」


 清々しい顔でそう答えるサミュエルを見て、ルーシーは微笑む。


「まあ、サミュエルがいいならそれでいいんじゃない?」

「良かったですね、サミュエル様」


 ルーシーと私がそう言うと、サミュエルはふっと小さく笑い、(ほこら)に背を向ける。


「帰るぞ」


 そう言って、元来た道を引き返していくサミュエルの背中がとても嬉しそうで、私はルーシーと顔を見合わせて微笑みあったのだった__。












 










 








【登場用語紹介】


 煌光の剣

  ブリオッシュ王国に伝わる伝説の剣

  剣の加護を受けると、国が未来永劫繁栄すると

  言われている。

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