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第2話 空回る感情

 ハリスと一緒にブリオッシュ王国の城下町にやってきた。

城に向かって真っ直ぐ続く道沿いには、可愛らしい建物がたくさん並んでいる。

その一区画にハリスのパン屋も並んでいた。


「わぁ、レトロで可愛いお店ですね!」

「祖父の代から受け継いでいる、ただ古いだけの店だ」


 ハリスはそう笑いながら店のドアを開け、私を中に入れてくれた。

店の中は綺麗に掃除が行き届いており、清潔感がある。

しかし、何か殺風景であった。


「ハリスさん、このお店に来るお客さんの年齢層はどれくらいですか?」

「昔からの客ばかりだな。もうみんなかなり年をとっている」

 (これじゃあ若い子は来ないだろうな)

「そろそろ昼食の時間だな。レイカ、食事にしよう」


私が店内を見渡していると、ハリスが私に言った。


「はい。ありがとうございます」


 ハリスは自分の店のパンと前日に作ったというシチューを出してくれる。

どちらもすごく美味しそうだ。


「いただきます!」


 程よい焼き色のパンを半分に割ると、パン独自の甘いいい匂いがする。

一口頬張ると、もちもちとした食感が広がって幸せな気持ちになった。


「ハリスさんのパンおいしい!!!」


 私が笑顔でハリスを見ると、ハリスも嬉しそうに笑った。


「喜んでもらえてよかった。あと、俺のことはハリスと呼んでくれ。敬語もなしだ」

「は、はい、じゃなくて、うん。ハリスのパンすごくおいしいからもっとたくさんの人に食べて欲しいな」


 私は、照れている顔をハリスに見られないように横を向きながら言った。

そんな私の話をハリスは優しく聞いてくれる。


「たくさんの人に来てもらうために、お店をもう少しオシャレな感じにしない? 私に任せて欲しいの」


 商業施設で働いていた時を思い出す。

小さな部屋だったが、来てくれるお客さんがくつろげるような空間を心掛けていた。


「俺はそういうのに疎くてな。そうしてくれると助かる」

「じゃあ必要なものをそろえないと!」


 食事の後、街を案内してくれると言うハリスと一緒に、私は店をどんな感じに改装しようかとウキウキしながら出掛けるのだった__。


            ☆


 ブリオッシュ王国は今、冬の時期を迎えている。

どの建物にも、可愛らしいイルミネーションライトがつけられていた。

夜になると一斉にそれが輝き、とても美しいそうだ。


 (ハリスのお店にもつけよう! きっと綺麗だろうな)

「もうすぐ、国王様の生誕祭があるんだ。それを祝うための飾りもそろそろ欲しくなるな」


 ハリスは、飾りがつけてある建物を指差しながら色々と教えてくれた。

リースや可愛らしい人形などが建物のドアや窓際に置かれている。


 (クリスマスみたいな感じ!)


 ハリスの店の改装のイメージも決まってきていた。

街を一通りぶらぶらと買い物をすると、両手いっぱいの荷物になってしまった。

私とハリスは、もうすぐ暮れていく街を二人で歩きながら、店の改装についていつまでも話しながら帰路についたのだった__。


 私はここで重要なことを思い出した。

夜になり、寝る時間になった時だ。

いくら異世界に転移してきたとはいえ、男と女が一つ屋根の下に……。


 (子供じゃあるまいし、今更そんなことくらい大丈夫よ!)


 焦る自分を落ち着けようとするが、逆にドキドキしてしまう。

いままで恋人がいなかった訳ではない。

仕事ですれ違いが続き、自然消滅のようになっていたのだ。

それからしばらくはずっと仕事一筋だった。


「はぁ……」


 私は、過去を振り返ってため息をついた。


「レイカ、この部屋を使ってくれ。俺は向かいの部屋にいるから何かあったら呼んでくれればいい。じゃあ、おやすみ」


 そんなことをあれこれと考えてしまっている私に、ハリスはさらっと声を掛けて自分の部屋に入っていく。


「あ、うん、おやすみ……」

 (考えすぎだよ、私……)


 ドアが閉まったハリスの部屋を見ていたら、一気に疲れが出てきた気がした。


「寝よ」


 私は小さな声でつぶやき、自分の部屋に入ったのだった__。





















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