第16話 頼れる彼女
幸せそうな街を抜け、一人、お城に戻る道をひたすら下を向きながら進む。
世界の全てに否定されているような感覚に落ち入り、どうやってお城まで辿り着いたか覚えていなかった。
門番のケビンが、戻ってきた私を見て声を掛けた。
「あれ? レイカさん、さっき家に帰ったんじゃないんですか?」
「あ、うん、そうなんだけど……。ちょっと具合が悪くて戻ってきたの……」
泣き顔を見られたくなくて、私は足早に門をくぐる。
後ろにケビンの視線を感じながら、私は真っ直ぐに自分の部屋に向かった__。
☆
カーテンの隙間から朝の光が差し込む。
昨日は、自分の部屋に戻るとベッドに倒れ込んでそのまま眠ってしまったらしい。
(シャワー浴びよう)
少し重い頭を押さえながら、私はベッドから立ち上がった。
熱いシャワーのお湯を頭の上からかけると、嫌なことを全て洗い流してくれるような気がした。
(昨日はショックで何も考えられなかったけど……。やっぱり、昔からハリスのことを知っている人の方がハリスはいいのかな)
冷静に昨日のことを思い出してみる。
ナタリーと呼ばれていた女性は、昔のハリスの恋人だった人だ。
私のエプロンをつけて、パン屋の手伝いをしていた。
どこからどう見ても、寄りを戻したとしか思えなかった。
(ハリスのことを信じたいのに)
気持ちを確かめ合ったあの日のキスを思い出し、また泣きそうになる自分を、私は急いでシャワーで洗い流したのだった__。
☆
シャワーから上がり、しばらくボーッと窓の外を見ていると、部屋のドアがノックされた。
トントン
「レイカ? いるんでしょ? 私よ、ルーシー」
「ルーシーさん?」
私はゆっくりと部屋のドアを開ける。
「どうしたんですか?」
私がそう聞くと、ルーシーは肩をすくめた。
「サミュエルに頼まれたのよ。レイカが帰ってきてるみたいだから様子を見に行ってこいって」
「サミュエル様が?」
「ええ。門番からの報告で知ったそうよ。えっと……何かあったの?」
ルーシーは、少し遠慮気味に私の顔を覗き込み尋ねた。
私は、咄嗟に首を振って答える。
「い、いえ! なんでもないんです! 私は大丈夫ですから」
そんな私を見て、ルーシーは呆れた顔をした。
「あんなに帰るのを楽しみにしていたのに、すぐ帰ってくるなんてなにかあったからに決まってるでしょう? 全く」
痛いところを突かれて、下を向いた私を見ながらルーシーは腕組みをした。
「とっとと白状しなさい。いつも人の相談ばかり受けているんでしょう? たまには人を頼りなさいよ」
「ルーシーさん……」
一番誰かに言って欲しいことを言ってもらい、また涙が出てくる。
「実は……」
私は、昨日あったことをルーシーにポツポツと話し出した。
時折うなづいたり怒ったりしながら、ルーシーは一通り私の話を聞いてくれた。
「本当に男って! もうそんな奴忘れなさい! そうだ、この後隣町に買い物に行くんだけどレイカも来なさい」
「えっ、でも、」
「いいから! ブリオッシュには、城下町だけじゃなくてまだまだ良い街がたくさんあるのよ。案内してあげる」
ルーシーはそう言うと、私に外出する支度をさせ、外で待っていたルーシーの執事が運転する車に私を押し込んだ。
「今日は一日楽しみましょ!」
ウインクしながら私を見るルーシーに、私は気後れしてしまいそうになる。
しかし、辛いことを忘れさせてくれようとするルーシーの心遣いにはただただ感謝しかなかった__。
【人物紹介】
ルーシー・スコーン 25歳
伯爵家のお嬢様であり、サミュエルの幼馴染
政治学を勉強しており、将来はサミュエルの
仕事の補佐をしたいと考えている。
サミュエルのことが好き。




