第14話 ひとりぼっちの街
ブリオッシュ国立自然公園を訪れてからニ週間が経過した。
あれから調査のほうは続けているが、これといった進展はない。
『アクア グレイス』の調査も並行して行っているが、こちらも有力な証言がまだ得られていなかった。
その間、私も何回かタロット占いをして、参考程度に意見を出してみたものの、特に変わる様子もない。
(やっぱり、所詮占いって思われちゃうよね)
少し自嘲気味になっている私に気づいたのか、サミュエルは私を執務室に呼んだ。
「休みをやる。一度家に帰省するといい。パン屋のほうも心配だろう?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「そう落ち込むな。この件は長い目で見ることにしている。他にやるべきことも山ほどあるからな」
机に山積みになっている書類を見ながら、サミュエルはため息をついた。
「ありがとうございます。少し帰省したらまた戻ります」
「ああ。戻ったら休みがないくらい働いてもらう」
明るく笑いながらそう言ってくれるサミュエルに、感謝の気持ちで一杯になる。
(早くハリスに会いたい!)
私は、温かくなった心を大事に抱えるように、自分の身体をギュッと抱きしめた__。
☆
久しぶりにハリスに会える。
私は、ウキウキしながら早々に荷物をカバンに詰め込んでお城を後にした。
二週間程しか経っていないのに、見慣れた街の様子が少し違って見える。
そういえば、もうすぐ国王様の生誕祭があるのだ。
道沿いに並ぶ店先にも、賑やかな装飾が増えている。
(ハリスのお店ももっと華やかにしないと!)
そんなことを考えながら道を進む。
すると、目の前にハリスのパン屋が見えてきた。
(あれ? なんかお店華やかになってる?)
他の店に引けを取らない飾り付けに少し驚く。
ハリスも一人で頑張っているんだな、と考えると、居ても立っても居られずに小走りになった。
(急にドアを開けたら、ハリスどんな顔をするだろう)
抑えられない気持ちでパン屋に近づき、あと少しというところで店のドアが開いた。
すると、中から髪の長い可愛らしい女性が出てくる。
私は、お客さんの邪魔をしてはいけないと少し離れた場所に立ち止まった。
しかし、その女性は帰ることなく店の中に声を掛けた。
「ハリス、ちょっと買い物に行ってくるわね!」
「あ、ナタリー少し待ってくれ。この手紙を出してきてほしい」
「わかったわ」
女性は、ハリスから手紙を受け取ると街の通りを歩き出した。
(えっ、待って。ナタリー? ナタリーってハリスの昔の恋人だよね? なんでここにいるの?……)
何が何だかわからない。
(あの人、私のエプロンをしてた)
「なんで……」
思わず口から漏れた言葉が、行き場なく消えていく。
愛しい人はすぐ目の前にいるのに……。
胸が締め付けられ、だんだんと視界が霞んでいく。
知らずに涙が出ていたらしい。
手を伸ばせばすぐに届くドアを開けて、ハリスに直接聞けば本当のことがわかる。
でも、本当のことを聞くのが怖い。
(ハリス……)
いつも優しく微笑んでくれた笑顔を思い出しながら、私は後ずさった。
そして、逃げるように元来た道を足早に歩く。
すれ違う通行人に、泣いている顔を見られないように下を向きながら。
道の端では、無邪気に遊ぶ子供たちの声。
生誕祭を待ち侘びる大人たち。
そんな幸せに包まれる街にいることが居た堪れなくなる。
いつのまにか、空からは白い雪がひらひらと舞い始めていた__。
【登場人物紹介④】
ナタリー・ロゼッタ 28歳
ハリスの同級生であり、元恋人
以前、同棲していたハリスの家を勝手に飛び出す。
その後、行くところがないと再びハリスの元へ
戻り、居候をしている。
今ハリスのことをどう思っているかは不明。




