表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/23

第13話 青き水の恵み

 パワースポットと呼ばれる場所に、私はサミュエルと共に向かった。

緑が茂る森を抜けると、目の前に小さな滝が現れ、その美しさに目を奪われる。

周りをライトアップされた滝から流れ落ちる水が、青く輝いているのだ。


「綺麗ですねぇ」

「『アクア グレイス』と呼ばれている。青き水の恵みという意味がある」


 私がうっとりと滝を眺めていると、滝の周囲で写真を撮っていた観光客たちが滝の前に集まり、みんなでコインを投げた後に何かを願うように手を合わせた。

そして、願掛けが終わると満足そうにその場を後にするのだった。


 (ここのパワースポットの由来を知ってる人はいないかな……)


 私は、帰っていく観光客の中でまだ滝に願い事をしているお婆さんを見つけた。

お婆さんの願掛けが終わるのを待って声を掛ける。


「あの、少しよろしいですか?」

「はい、なんでしょう」


 お婆さんは、願掛けを済ませ、満足した様子で答えた。


「この滝がいつからパワースポットになったか、知りませんか?」

「そうねぇ、今から二十五年ほど前かしらねぇ」

「何かきっかけがあったんでしょうか?」


 私がさらにお婆さんに質問をすると、後ろで見ていたサミュエルが私の横に立った。


「レイカ、この滝が気になるのか?」

「はい。滝の水がすごく美しいのはわかるんですけど、皆さん何に願掛けをしているのかな、って」

「ほう」


 サミュエルは、私の意見に感心したようにうなづく。


「その発想はなかったな」


 そんな会話をしていると、お婆さんがサミュエルを見て嬉しそうに声を上げた。


「まあ! サミュエル様! こんなところで会えるなんて、嬉しいわ。立派になられて。隣町から来た甲斐があったわ」


 お婆さんはそう言うと、サミュエルに向かって手を合わせた。


「手を下ろしてくれ、ご婦人。俺は神でも仏でもない」


 サミュエルは、自分に向かって何度も手を擦り合わせるお婆さんの態度に苦笑いをした。

すると、お婆さんは何かを思い出したように私のほうを向いた。


「思い出したわ! たしか二十五年前、まだお小さかったサミュエル様がこの公園にいらしたのよ。国王様と王妃様と一緒に公園を散歩されて。本当に可愛らしかったわ」


 お婆さんは、当時を懐かしむように微笑みながら話してくれる。


「わかります。子供の頃のサミュエル様、すごく可愛かったと思います」


 お婆さんの話に、私もつられて笑顔になる。


 ゴホン


「俺の小さい頃のことはいい。それより、その時からなのか? この滝がパワースポットと呼ばれ始めたのは」


 少し恥ずかしそうに咳払いをしてから、サミュエルはお婆さんに尋ねた。


「たしかそうだったと思います。でも、何でだったかしら……。肝心なことは覚えてないわね。ごめんなさいね」


 申し訳なさそうにお婆さんがサミュエルに頭を下げた時、森の向こうから一人の少年が走ってきた。


「お婆ちゃん、こんなところにまだいたの? もうバスが出発しちゃうよ! 早く帰ろう!」

「おや、もうそんな時間かい? サミュエル様、そしてお嬢さん、では私はこれで失礼いたしますね」


 私とサミュエルに、別れの挨拶をするお婆さんに私も頭を下げた。


「素敵なお話を教えていただいて、ありがとうございました」

「感謝するぞ、ご婦人」


 少年と話をしながら去っていくお婆さんの後ろ姿を見守る。


「二十五年前にここで何があったのか。調べる価値はありそうだ。とりあえず城に戻ろう」

「はい」


 私は、もう一度『アクア グレイス』のほうを振り返り、青く美しい水が流れる様を見つめたのだった__。


 


 


 












 










 




【登場人物紹介③】


 サミュエル・ブリオッシュ 29歳

 ブリオッシュ王国の第一王子

 高圧的な態度が多く、近隣諸国から『鬼王子』と

 恐れられているが、ブリオッシュ国民からは

 信頼されている。

 かなりのイケメンである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ