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第1話 目覚めたらそこは異世界だった

 今日も私のもとに、若い女性が悩みを抱えて相談に来る。


「彼と結婚してもいいんでしょうか? 最近不安で夜も眠れないんです」

「わかりました。タロットで占ってみますね」


 私は、女性の生年月日をもとにタロットカードをシャッフルし、その中から1枚のカードを取り出す。


「運命の輪のカードですね。正位置なので、『運命・宿命』を表しています。恋愛から結婚へステップアップする時ですよ」

「本当ですか! ありがとうございます。これで安心して彼と結婚出来ます」


 タロット占いの良い結果に、女性は嬉々として帰っていく。

占いであっさり結婚を決めてしまうのはどうかと思うが、結局最後は気の持ちようだと思う。

私の占いで、先程の彼女が嬉しい気持ちになれたならそれでいい。


 月花(つきはな)レイカ27歳。

タロット占いを得意とする占い師だ。

祖父から譲り受けたタロットカードを使い、商業施設の片隅で細々と占いの仕事をしている。

自分で言うのもなんだが、結構当たるとコアなファンの間では有名なのだ。

私もいつかはもっとキラキラした世界で一流の占い師として活躍したい。

いつまでも夢みたいなことしてるのやめなよ、とか周りから言われたくない。

私はこんなところで終わる女じゃない。

客が帰った静かな部屋で、私は密かに闘志を燃やすのだった__。


 仕事が終わり、商業施設から出て駅までの道を歩く。

道を渡ればもう駅、という場所を私が渡ろうとした時、スピードを出した車が私に向かって突進してくるのが見えた。


 (ひかれる!!!)


 時すでに遅し。

私は呆気なくひかれていた。


 (ちょっと! 占い師が交通事故にあうなんて絶対言われるでしょ! 自分の運命は占えなかったのかって!)


 遠ざかる意識の中で、私はそんなことを考えていた……。


            ☆


 吹き抜ける風が、私の頬を撫でていく。

私はゆっくりと目を開けた。


 (あれ? 私、確か車にひかれて……)


 駅周辺の街並みは全く見当たらない。

私は、綺麗な花がゆらゆらと風で揺れている草原に寝転んでいた。


 (ここはどこ? もしかして、天国?)


 身体を起こし、辺りを見回す。

すると、どこからか男の人の声が聞こえてきた。


「おーい! 大丈夫か?」


 すると、黒髪で背の高いイケメンがこちらに近づいてくる。

イケメンは、何やらたくさんの荷物を抱えていた。


「家に戻ろうとしたらお前が倒れているのが見えた。どうしたんだ?」

「私もわからないんです。気がついたらここで倒れていて。あの、ここはどこなんですか?」


 おずおずと聞く私に、イケメンは驚いた顔をする。


「お前、もしかして記憶喪失なのか? ここはブリオッシュ王国だ」

「ブリオッシュ……」

(ブリオッシュって確かパンの名前だったような)


 私が考え込んでいると、その男の人は自分の名前を私に教えた。


「俺はハリス。ここから少し行った街でパン屋をしている」

「あ、私はレイカです。よろしくお願いします」

「レイカ。綺麗な名前だな」


 そう言って少し微笑むハリスに、少しドキッとしてしまう。


 (そういえば、占いで恋の相談にのっていても、自分の恋愛のことなんて考えたこともなかったな)


 そう思うと余計にハリスを意識してドキドキしてしまった。


「顔が赤いな。熱でもあるのか?」


 ハリスは私のおでこに手を当てながら聞く。


「いえ! 熱なんてないです。大丈夫です」


 ハリスからサッと距離を取ると、ハリスは笑顔になる。


「それだけ元気なら大丈夫だな」


 そう言って家に帰る支度をするハリスを見て、私は焦り始めた。


 (どうしよう。こんな見たこともない国で1人なんて無理!)


 そして、咄嗟に口から言葉が出てしまった。


「あの! 私にパン屋さんのお手伝いをさせてもらえませんか?」

「お前が俺の店を?」

「はい。私行くところがなくて。お願いします」


 私は深々とハリスにお辞儀をした。


「うーん。しかし、俺の店はあまり儲かってなくてな」


 考え込むハリスに私はさらに言った。


「私、実はタロット占い師なんです! よろしければ、お店の状態を占わせてください!」

「金は払えないが」

「お金なんていらないです。では占ってみますね」


 私はスカートのポケットに奇跡的に入っていたタロットカードを取り出す。

ハリスの生年月日を聞き、カードをシャッフルする。

そして1枚のカードを取り出した。


「星のカードの正位置ですね。大きな目標に向かっていくと経営も回復していきます」

「そうなのか?お前に言われると本当にそんな気がするな」


 ハリスは感心しながらうなづく。


「わかった。俺の店を手伝ってくれ」

「ありがとうございます!」


 この日から、私はハリスのパン屋で働くようになったのだった__。
























 



 












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